第30夜 寮 (約950字)

変な夢を見た。


  私は、この施設の管理人と話していた。

  管理人は、初老の男で、どことなく、陰気な気配を漂わせている。

  こっそりと、こちらをうかがうような目つきが、そう感じさせるのだろう。

  私は、なるべく、目を合わせないように会話を続ける。


 ・・・・


  ようこそ、○○寮に・・・。

 (残念ながら、○○の部分が、よく聞き取れなかった。

  わざと、声を小さくした?・・・そんな気がしたものの、今すぐ聞きなおす

  必要もないだろうと思い、そのまま、話を聞くことにした。)


  ええ、ええ、お話は、ちゃあんと上から聞いていますよ。

  本日、入寮予定の方ですね。

  まあ、まあ、まだお若いのに。お気の毒に。


  ・・・ええと、何でもありませんよ。気にしないで、気にしないで。

  えっ? 気になる。いや、特に、まあ、この施設ね。

  何にもないんでね。若い方には、ちょっと・・・不便かと・・・。


  施設自体は、問題ないですよ。出来立てのほやほやですから・・・。

  まあ、ちょっと、部屋が狭いですがね。

  普通にぶんには、問題ないでしょう。

  それではっと・・・お部屋にご案内しましょうかね。


 (ん・・・? 変な言い回しだなと、私は思った。

  普通ならば、「ぶん」とか、いうんじゃないか?

  それを「ぶん」とは・・・。

  だが、私は、気にしないことにした。言い間違いだろう・・・。

  私は、管理人のあとをついていく。)


  ああ、こちらです。

  どう、ちょっと狭いでしょう・・・。

  でも、まあ、ほら、ぶんには、問題ないから・・・。


 (部屋をのぞくと・・・なんと、半畳もない・・・。

  いや、これでは、いくらなんでも・・・狭すぎるのではないか?

  私が、あまりに変な顔をしたからだろう・・・。

  管理人は、にやりと笑い、話を続ける。)


  狭すぎると、お思いですかねえ。

  でもね、これでも、ここは都心の一等地ですからね。

  こうなってしまうのも、しかたがないんですよ。

  それにね・・・ここは、ほら、特殊な施設ですから・・・。

  あれっ? 言いませんでしたっけ? 寮の名前・・・。


  ここの寮の名前・・・って・・・言いませんでしたかねえ・・・。


  でも、あなた、ご両親には、感謝しないとね。

  こんな一等地に納骨してもらえるんだから。

  それとも、戸建てのほうが良かったですかねえ。へっへっへっ・・・。

  わたしの友人なんか・・・無縁仏で、ほかの骨と一緒にされちまったよ。


そこで目が覚めた。

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