第29夜 インプレッション (約1100字)

変な夢を見た。


  私は、最近、あることに気づいた。

  人の背中に背番号が見えるのだ。

  それは、シャツにプリントされているわけではない。

  その人の背中に、浮いているかのように表示されているのだ。


  ただ、桁数がおかしい。

  老年の場合、桁数が九桁くらい・・・億単位だ。

  壮年で、千万単位くらい。

  小学生くらいでも、万単位くらい。


  何の数字だろうか?

  わたしは、不思議でしょうがなかった。

  だが、今、ようやく気づいたのである。


  私の前を魅力的な女性が歩いている。

  背中の数字は、他の同じ年代の女性に比べると、はるかに大きい数。

  彼女は、顔だけでなく、そのプロポーションも見事だった。

  古い言葉で言えば、『ボンッ・きゅっ・ぼんっ』というやつだ。

  突如、その女性の背中の数字が急増した。一気にくらい増加したのだ。


  なぜ。急増したのだろう?

  私は、周辺を見渡して、その理由が分かった。

  今、彼女の周りには、十人くらいの男たちがいる。

  そして、彼らは、皆、彼女の胸元をじろじろ、または、チラじっ(ちらっと見て

 いるふりをしつつ、実はじっと見ていること)をしているのだ。

  つまり、この数字は、チラ見ではカウントされず、注目されたときに始めて、

 カウントされるのだろう。


  あの数字は、人に見られた数・・・インプレッション数なのだ。

  だから、妙に桁数が多かったのだ。

  それなら、なんとなく、納得できる。


  ここで、ふと、私は、興味がわいた。

  私のインプレッション数は、どうなっているんだろう?


  私は、とりあえず、あたりを見回し、自分の背中を映せそうなものを探した。

  ショーウィンドウが近くにあったので、それに自分の背中を映してみる。


  私の背中の数字は・・・『0』だった。

  ・・・?

  あれっ? おかしくないか?

  私の年齢だったら、数千万単位はあってもいいはずなのに・・・なぜ『0』?


  その時、突然、背中の数字が「1」になった。

  私は、びっくりして、まわりを見渡す。

  

  小さい女の子が、こちらをじっと見ていた・・・。

  その子の表情は、まるで、不思議なものを見るような顔つきだ。

  自分の首の周りをしきりにいじりながら、こちらをじっと見ている。

 

 「ああ、あの子には、俺のことが見えるんだな。なるほど、一部の人だけが、俺を

  見ることが出来るんだ・・・。」


  私は、ようやく、思い出していた。

  あの日、私は、生まれ変わったことを・・・なぜか、忘れていた。

  だから、インプレッション数が『0』になっていたんだ・・・。

  

 「うーん。首が・・・ちょっと苦しいな。」


  私は、首に巻かれた紐を少し緩めると、早足で、何事もなく、前を歩く青年の

 ことをすり抜けていった・・・。


そこで目が覚めた。

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