第22夜 勇気のしるし (約1300字)
変な夢を見た。
私は、今、森の中にいる。
『勇気のしるし』を手に入れるために・・・。
『勇気のしるし』・・・。それは、我が部族における勇者の
『勇気のしるし』は、ある化け物の首についているらしい。
これを手にしたものは、我が部族において、一生、いや、死後すらも、英雄と
して語り継がれることだろう。
何もなければ、勇気のしるしなぞ、私にとって無縁のものだった。
だが、彼女との結婚が、今の状態で許されないのであれば・・・。
格差の違いで、結婚が許されないのであれば、私は・・・英雄になるしかない。
短絡的かもしれないが、まだ、若い私には、それしか考えられなかった。
私は、暗い森の深奥部に向かって、慎重に歩を進める。
耳をすましながら・・・。
化け物の名は、『クチャラン』。
その姿をはっきりと見た者はいない・・・。
別に見たものが、殺されてしまったわけではない。
ただ、単にその姿を目にしたことがないだけの話だ。
気配とうなり声、そして、ある音。
それだけが、『クチャラン』の存在を示している。
我が部族には、『クチャラン』に関する、このような歌がある。
『チリン、チリン。クチャラン
きっと、『クチャラン』には、鈴のようなものがついているのだろう。
真実はわからない・・・。
だが、我が部族では、そのように考えられており、その鈴こそ『勇気のしるし』
なのだ。
チリン・・・チリン・・・チリチリン・・・。
近くで、鈴の音がしたような気がした。
チリン・・・チリン・・・。
間違いない。鈴の音だ・・・。
今、私は、森の開けた場所に立っていた。
そんな私のまわりを、見えない何かがグルグル回っているようだ。
まるで、こちらの出かたを伺っているような・・・。
私の体は、すくみ、汗が噴き出す。
恐怖・・・。
間違いなく、私は、今・・・狩られている・・・。
チリン・・・チリン・・・チリチリン・・・。
ウー・・・グゥルルルー・・・・。
鈴の音とうなり声・・・。
間違いない! 『クチャラン』だ!
私は、覚悟を決めた。腰の後ろに着けている鞘から、短刀を右手で取り出す。
そして、体の前に構える。
その直後・・・。
「あっ」という声も出なかった。
ものすごく強い風が、わたしを吹き飛ばしたように感じた。
だが、それは・・・風ではなかった。
『クチャラン』が、私のことを敵と認識し、一気に飛びかかってきたのだ。
今、『クチャラン』の前脚が、私の体を押さえている。
私の体は、すでにボロボロだ。
さっきの一撃で、鋭い爪にひきさかれ、あまりの衝撃の強さに動くことは、
もう二度とできない。
私は、『クチャラン』の姿をはっきり見ようと、目を凝らした。
だが、よく見えなかった。目がかすみ、見えなかった・・・。
ただ、音だけが聞こえた・・・。
チリン・・・チリン・・・チリチリン・・・。
ニャオぅッ!
そこで目が覚めた。
いや、何かに頬を叩かれ、目を覚ました。
パシッパシッと、しつこく、何者かが、私の頬を叩いている。
私は、それの両脇に手を入れると、一気に持ち上げる。
「にゃっ・・・!」
私の飼い猫が、驚いたような顔をし、伏せ目がちに、こちらを見やる。
「くちゃらん! いい加減にしろ!」
チリン・・・チリン・・・
飼い猫『くちゃらん』の首についた鈴の音が、鳴り響いた。
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