第47夜 ひも (約1700字)

変な夢を見た。


  私の前には、あの女『九麗寺くれいじ 菜音なのん』が座っていた。

  彼女は、ちょっと小首を傾げた後、しきりに生唾を飲み始めた。

  いったい、彼女に何が起きているんだろう?

  気になった私は、彼女に聞いてみることにした。


 ・・・・


 私 「どうしたんだい?」


 菜音「うっ・・・うっ・・・うん。なんだか、耳鳴りがして・・・。」


 私 「なんだ・・・。」


 菜音「なんだって・・・。ひどーい。

    気になるのよ・・・キーンって・・・。

    あれ、今度は、モワーンだって・・・なんだか、耳が遠くなった感じ。

    つまってる感じがする・・・。

    ねえ、ちょっと、耳の中・・・見てくれない?」


 私 「いいよ。それじゃあ、ボクの膝の上に頭をお乗せ・・・子猫ちゃん。」


 菜音「オエぇッ! オマエは・・・そんなことを言う・・・顔かっ?」


 私 「オエぇッって・・・。そういうこと言われると傷つくんだぜ!

    まあいいや、さあ早く、つまってる方の耳をみせてごらん。」


  

  菜音が、右耳を上にして、私の膝に頭を乗せる。

  私は、菜音の右耳の中を覗き込んだ。



 私 「暗くて、よく見えない・・・あれっ? なんか、耳の中にあるよ。

    白いものが見える・・・。」


 菜音「えッ・・・ホント? それって・・・取れそう?」


 私 「小指を耳の中に突っ込んでもいいかい?」


 菜音「ええぇっ・・・うーん、しょうがないか・・・いいよ、やっちゃって!」



  私は、優しく菜音の右耳に小指を差し込むと、コチョコチョとほじり始めた。

  菜音が、体を揺らして、笑いだす。



 菜音「ア・・・ア・・・ヒヒ、や、やめて、くすぐったい・・・。」


 私 「菜音! 動くなって、あと、もう少し・・・よし、それッ!」



  私は、菜音の右耳から、それを引きずり出した。

  それは、一本の白いひもだった。

  ひもの先は・・・菜音の右耳の奥に続いているようだ。



 菜音「あっ、右耳の耳鳴りが止まった。何が・・・つまってた?」


 私 「ひもだ・・・ひもが出てきた・・・でも、まだ、菜音の右耳の奥に繋がって

    いるみたいだ・・・。」


 菜音「えっ・・・嘘ッ! そのひも、早く抜いちゃってよ!」


 私 「大丈夫・・・かな?」


 菜音「何が?」


 私 「ほらっ・・・こういう展開ってさ・・・このひもを引っ張ったら、菜音の頭

    が、くす玉みたいに割れたりするんじゃ・・・。」


 菜音「バカね・・・あんた・・・そんなベタなこと、いくら何でもないわよ。

    早く、抜いてよ!」


 私 「しょうがない、どうなっても知らないよ!」



  私は、菜音を立ち上がらせた。

  もし、何かあったら、巻き添えになるのは、ごめんだからだ。

  そして、私は、菜音の右耳から出ているひもをつまみ、強く引っ張った。

  

  ・・・・ドバンッ!

  ものすごい音がした。

  度肝を抜かれ、私は、へたりこんだ


  菜音の左耳から、白い煙が噴き出している。

  そして・・・その先には、紙吹雪が舞っている。

  菜音は、ニコニコと笑っている。



  菜音「アハハハハッ・・・驚いたでしょッ!

     誕生日・・・おめでとう!」


  私 「えっ? 誕生日・・・誰の?」


  菜音「あなたの・・・でしょ!」


  私 「あっ・・・そうだった・・・あり・・・うん?

     あれ、ボクも何だか、耳鳴りがしてきたぞ・・・うっ・・ううん。」


  菜音「あら、あなた・・・右耳からひもが、飛び出てきたわよ。」


  私 「よしっ! 引っ張ってみよう!」



   私は、自分の右耳のひもをつまむと、強く引っ張った。


   ・・・ブバぁッ!

   左の鼻の穴から、大量の鼻水と共に、一枚の垂れ幕が、飛び出した。



  菜音「きったなーい・・・。ちょっとぉ、鼻水かかったじゃない!」


  私 「ああ、ごめんごめん。おかしいな・・・左耳から出るはずだったのに。

     何かの手違いさ・・・。読んでみてよ。」


  菜音「『ありがとう!』・・・あらっ、先を読まれてたのね・・・。」 

 

  私 「菜音・・・ありがとう。

     さあてと、今度は、菜音・・・どっこから出すんだい? かい?」


  菜音「何言ってんの? 変態!」


  私 「えっ? なんで・・・口じゃないの?」


  菜音「・・・・。」

 

そこで目が覚めた。


私は、思い出した。

そうだ・・・誰も祝ってはくれないが、今日は、自分の誕生日だった。


だから、あんな夢を見たんだな・・・。

そう思いながら、右耳を触ると、何かひものような感触があった。


さあて・・・どうなるのかな・・・?


私は、そのひもをつまむと、強く引っ張った・・・。

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