第46夜 ロケット花火 (約2000字)

変な夢を見た。


  私の目の前に、妙な機械が鎮座していた。

  そして、私の周囲は、闇に包まれている。

  この空間には、私とこの機械しか、存在しない。


  光など、存在しないはずなのに、私には、機械がはっきりと見えた。

  機械そのものが、ぼうっと光を発しているらしい。

  そして、私自身の体も、ぼうっと光っているようだ。

  これは・・・夢だなと、私は思った。


  機械に近づいてみた。

  この機械は、いったい何なのだろうか・・・?

  機械の正面には、大きいプレートとボタンが三つ、ランプが三つあった。

  

  各ボタンのすぐ下には、ボタンの役割を示すかのように文字が刻まれている。

  左のボタンは【開】、真ん中のボタンは【点火】、右のボタンは【発射】。

  そして、それぞれのボタンの上には、大きめのランプがついている。

  

  プレートには、以下のようなメッセージが記されていた。

  

   ・・・・ 

 

   取り扱い注意! (黄色と黒の模様)ロケット花火発射装置

   

   (黄色と黒の模様)ロケット花火の発射方法


    1.【開】フェイズ

      【開】ボタンを押してください。【開】ボタンを押すと、上のランプが

      オレンジ色に点滅します。青くなるまで、お待ちください。

      【開】のランプが点滅中でも、【点火】ボタンは有効です。

    

    2.【点火】フェイズ

      【開】のランプが青く点灯したら、【点火】ボタンを押してください。

      上のランプが、オレンジ色に点滅します。青くなるまで、お待ちくださ

      い。【点火】のランプが点滅中でも、【発射】ボタンは有効です。

     

      【開】のランプが、オレンジ色の点滅中でも【点火】ボタンを押すこと

      は可能です(【点火】のランプが、オレンジ色に点灯します)。

      その場合、【開】フェイズ終了後、直ちに【点火】フェイズに移行しま

      す(【点火】のランプが、点滅し始めます)。


    3.【発射】フェイズ

      【点火】のランプが青く点灯したら、【発射】ボタンを押してくださ

      い。上のランプが、青色に点灯します。ロケット花火が、発射されま

      す。


      【点火】のランプが、オレンジ色の点滅もしくは点灯中でも【発射】ボ

      タンを押すことは可能です(【発射】のランプが、オレンジ色に点灯し

      ます)。

      その場合、【点火】フェイズ終了後、直ちに【発射】フェイズに移行し

      ます(【発射】ランプが、青く点灯します)。

   

   各フェイズの中断

    各フェイズを中断したい場合は、青色ランプ点灯後、次のフェイズに移行せ

    ず、一分間、お待ちください。青色ランプが消灯し、機能が停止します。

    【発射】フェイズの取り消しは、出来ません。

  

   ・・・・


  黄色と黒の模様は、どこかで見たことがあるマーク・・・放射能マークだ。

  これは、『ロケット花火』と軽く書いてあるが・・・もしかしたら『核ミサイ

 ル』の発射装置なのではないか・・・?

  

  私は、機械装置を眺めていた。

  そして、心の中に湧き上がる衝動と戦っていた。

  

  なぜか、無性むしょうにボタンを押したくなった。

  押したくて、押したくて、しょうがない・・・。

  これは、核ミサイルの発射装置かもしれない。

  押せば、どうなるのか、わからない。

  

  だが・・・それでも押したい。とにかく、押したい・・・。

  

  どうせ、ここは・・・夢の中だ。

  押したところで、現実とは、一切、関係ないのだ。

  夢の中の世界の一部が、消滅するだけのことだ・・・。


 「フフフッ・・・。」

  にやっと笑い、手を【開】ボタンに伸ばし、そのまま、ボタンを押し込んだ。

 【開】のランプが、オレンジ色に点滅し始め、青色に点灯した。


 「アハァハァハァハッ・・・。」 

  思わず、笑いが声にでる。

  手を【点火】ボタンに伸ばし、そのまま、ボタンを押し込んだ。

 【点火】のランプが、オレンジ色に点滅し始め、青色に点灯した。

    

 「はっしゃーッ・・・アハァハァハァハァハー!」 

  かけ声とともに、手を【発射】ボタンに伸ばし、一気にボタンを押し込んだ。

 【発射】のランプが、青色に点灯した。


  ・・・・何も起きなかった。


  私は、ひどく興ざめした。

  飛んでいって欲しかった・・・。

  ロケット花火が、不発で飛ばなかった時のように、なんだか寂しい気持ちに

 なった。期待が大きかったぶん、失望感が強く、怒りがこみ上げてきた。


 「クソッ!」

  短く叫び、機械を強くひっぱたいた。


  その時、私の周囲の様子が変わり始めた。

  周囲の闇が徐々に薄まり始め、次第に、見慣れた風景が目につくようになった。

  ここは・・・私が勤務している場所だった。


  そして、目の前には、夢で見た機械が鎮座していた。

  それは、夢で見たものと、同じであった。

  ただ一つ、機械の装置名を除いて・・・。


  私は、しばらく機械を眺めた後、表情をぴくりとも変えず、手を【開】ボタンに

 伸ばすと、そのまま、ボタンを押し込んだ。

  そして、【点火】、【発射】と続けて、ボタンを押しこんでいく。

   

  今度は・・・うまく飛ぶかな?


  どこからともなく、なにかの稼働音のような音がした。

  あたりの照明が、最小限の明るさに落ち、警報音が鳴り始めた。

  

  その音を聞きながら、私は、今か今かと発射の瞬間を待ちわびた・・・。


そこで目が覚めた。

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