第42夜 墓穴 (約1250字)

変な夢を見た。


  私は、穴を掘っていた。

  穴の大きさは、2.5メートル×1.5メートルくらい。

  深さは、よくわからなかった。

  見上げてみたものの、白い光が見えるだけだった。

  私の足元には、ランタンがあり、これが穴の中を照らす唯一の明かりだった。


  私は、スコップで掘り起こした土を、足元の大きいひも付きバケツに入れる。

  バケツが、土でいっぱいになったら、紐を引く。

  そうすると、土が入ったバケツが、するすると引っ張り上げられ、別の空バケツ

 が降ろされる。これを繰り返して、私は、穴を掘っていく。

  

  やがて、穴の上から声がした。

  見上げると、黒い人影が、こちらを覗き込んでいるのがわかる。


 ・・・・


  おお、もういいぞ!

  これだけ掘っておけば、大丈夫だろう・・・。

  

  なにせ・・・前の穴はよ・・・。


  前の穴はよ・・・浅すぎたんだ。

  そのせいで、出てきちまったんだ。

  だから、今度は・・・もっと深く掘らないとな・・・。

  

 (私は、少し不安になった。

  なんだろうか? 「浅すぎた」とか「出てきた」とか言う言葉は・・・。)


  あんたには、感謝しないとな・・・。

  こんなに深く掘ってくれたんだ・・・。

  おっと、いけねえ・・・。


 (その時、結構な量の土が、私の上に降りかかってきた。口の中に入った土を唾と

  一緒に吐き出す。)


  すまん、すまん。うっかり、土を落としちまった。

  もう、腕がパンパンさ。

  土ってよ、結構、重いんだな。もう、腕に力が入んねえよ・・・。


  ん? あんた、もしかして・・・心配なのかい?


  もしかして、生き埋めにされるとか、自分は墓穴を掘ってしまったとか・・・。

  そんなこと、考えちゃいないだろうなあ・・・。

 

 (私は、ますます、不安になった。さっき、土が降りかかってきた時、一瞬、そう

  思ったからだ。)


  なあに、安心しなよ。

  あんたを生き埋めにするんだったらさ、梯子をとっとと、あげちまってるよ。


 (確かにそうだと、私は思った。目の前には・・・ちゃんと梯子がある。

  私は、胸をなでおろした。)

 

  さあてと、今から、俺も、下に降りるからよ。

  ちょっと、待っててくれねえか・・・?


 (男は、私にそう声をかけると、梯子を下り始めたようだ。ギシッ、ギシッと梯子

  を下りる音が聞こえてくる。私は、梯子の上を見上げてみたが、男の姿は見えな

  い。この穴は、かなり深いようだ・・・。)


  くそっ。やっぱり、ちっと無理しちまったかなあ・・・。

  腕がうまく動かねえや・・・。


  あっ・・・くそっ・・・梯子から離れろ!


 (私は、男の言う通り、驚きながらも梯子から離れた。

  なぜ・・・離れろと言ったんだろうか? その答えは、すぐにわかった。

  上から何かが、落ちてきたのだ。そして、それが、私に話しかける。)


  ああ、くそっ! 

  腕が・・・抜けちまったよ・・・両腕ともよ・・・。

  へっへっへ・・・梯子を握ったまんまさ。

  まあ、降りる手間がはぶけたがな・・・。


  あんた、もう、上に上がっていいよ。

  梯子の途中で、俺の腕を見つけたら、下に落としてくれや!

  上に上がったらよ、土をかけてくれ・・・。


  さあ、行ってくれ、俺の埋葬を手伝ってくれて・・・ありがとよ!


そこで目が覚めた。

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