第16夜 オンナ (約900字)

変な夢を見た。


  私の前には、美しいオンナが立っていた。

  はちきれんばかりの笑顔で、こちらを見つめている。

  私は恥ずかしくなり、視線をはずす。


  オンナは、なにも話さない。

  なにも話さずに、笑顔のまま、私の横に座る。

  そして・・・わたし達は・・・これから・・・。


  というところで、目が覚めた。

  いや、目覚めてしまった。

  夢だが、非常に惜しい・・・。


  あのオンナ、いったい何者なのか?

  少なくとも、現実世界の私の周辺には、あのようなオンナはいない。

  なぜ、私は、あのオンナの夢を見たのだろうか?


  いろいろと考えを巡らせる・・・。

  もしかしたら、その昔、出会ったオンナかもしれない。

  いや、もしかしたら、これから出会うオンナかもしれない。

  俗な言い方をすれば、運命のオンナ、赤い糸で結ばれたオンナ・・・。


  勝手な妄想がどんどん膨れる・・・。

  

  だが、残念なことに、あれからオンナの夢を見ることはなかった。

  私はその代わり、ますます、妄想にふけった。


  そんな時、私は、現実の世界で、あのオンナを見つけた。

  

  なんと、オンナは、はちきれんばかりの笑顔で、私に向かって大きく手を振って

 いるではないか!

  私も手を振り返そうと、胸の高さまで上げたものの、そこでやめた。


  オンナの動きは、止まっていた・・・。

  笑顔は、張りついたまま。

  手は、上げた状態のまま・・・手を振っているかのように見えるだけ。

  動きが、完全に止まっている。


  なぜなら、オンナは、立て看板だったから・・・。

  オンナは、何かのキャラクターの立て看板だった。


  私はまわりを気にし、誰にも見られていなかったことを知り、安堵した。

  そして、口元を歪ませる。笑いが漏れる。


 「お前、サミシイ人間だぞ・・・。」


  オンナは、まだ、はちきれんばかりの笑顔を私に送っている。


  私の胸に熱いものが、なぜかこみ上げてくる。

  失恋とは違う・・・。

  だが、あの熱い想いが・・・。

  このような形で失われてしまったことが、無性むしょうに悲しかった。


  私は、一体何に恋焦がれていたのだろう?

  自分の妄想にだろうか?


  私は、涙をこらえた。

  だが、鼻水が流れ出るのを止めることはできなかった・・・。


そこで目が覚めた。

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