第6夜 ナノマシン (約1200字)

変な夢を見た。


  私は、若いジャーナリストらしい。

  私の目の前に、白髪まじりの初老の男が座っている。

  我々は、どこかの居酒屋にいるようだった。


  初老の男は、顔が真っ赤で、かなりアルコールが入っているように見受けられ

 る。彼は、座った目をこちらに向けて話し始める。


 「これから、面白い話、聞かせてやるよ・・・。」


  彼は、そう言うと、怪しく話し始めた。


 ・・・・


  あれは、あんたが生まれる前に起こった。

  パンデミックさ・・・。歴史の時間に習ったろう。

  あれは、衝撃だったね。世界人口の半数が死んじまった。俺もまあ、よく生き残

 れたもんだよ。大変だったぜ。防疫ってやつはよ。だいぶ、個人の自由が制限され

 ちまったからな。

  でも、今はもう、大丈夫だけどな・・・。

  ワクチンが開発されたし、とりあえず、薬も出来たからな。

  あんた、予防接種にそのワクチンを打ってると思うが・・・。


 (そこで、私はうなずいた。)


  ああ、かわいそうにな・・・。おっと、なんでもない。なんでもないよ。

 

  パンデミックの時、政府は、大規模接種を行い、この国のほぼ99%にワクチン

 を接種した。100%じゃないのは、打つか打たないかの自由があったからだな。

  俺かい? 俺は打たなかったよ・・・。

  なぜかって? さあな・・・。気が乗らなかったからだろう・・・。


  さて、重要な話はここからさ。


 (男は急に小声になった。)


  パンデミックの時、国民は、政府の対応の遅れに不満をつのらせ、政府に対する

 抗議行動がすごかったんだ。それが、ワクチンの大規模接種開始とともに、ピタッ

 とやんじまった。

 

  なに?

  接種したから、不満がなくなったんだろうって?


  そうかもしれない。

  だがな、それ以後、政府に対する抗議行動が一切、発生していないんだよ。

  お前さん、社に戻ったら、過去の政府に対する抗議行動について、調べてみるが

 いい。面白いぜ、大規模接種を境にピタッと止まってるからよ。


  それでだ・・・俺はちょっと、調べてみたんだよ。

  パンデミック前からも政府に対する抗議行動は、すごくてね。

  政府は、頭を悩ませていたみたいだぜ。

  それで、ある実験を極秘にしていたんだよ。なんでも、人体にナノマシンとか言

 うやつを仕込んで、人の意識を統制するとか・・・なんとか・・・。

  そいつがうまくいったかどうかは、わからない・・・。


  でも、俺はうまくいったと思っている。


  そして、予防接種と言って、あのワクチンにナノマシンを仕込み、国民に接種し

 てると思う。だから、政府に対する抗議行動がなくなった、てな・・・。

 

  まあ、この話、信じるか信じないかは、あんた次第さ・・・。

  最後に、もし、確かめたいんだったら、こう言ってみな。

 「政府のクソッタレ」ってな・・・。


  もし、言えれば、俺の話は・・・うそ。

  言えなければ・・・わかるだろう?


 ・・・・


  彼は話し終えると、勘定をすべて私に押しつけ、ふらふらしながら帰ってし

 まった。


  そして、今、私は、悩んでいた・・・。

  

  さっきの言葉、「〇〇のクソッタレ」。

 「〇〇」の部分が、なぜか思い出せない・・・。


そこで目が覚めた。

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