45 衝撃
「うお~い、メシ持ってきたぞ~」
五人分の朝食を両手の袋に詰めてザカットが庭園にやってきた。
モナカとレスターは意図的に事件の話は一切せず、ザカットも理由を察したのか話を合わせていた。
そんな中でシルヴィナだけは笑顔が戻ったエミルの顔を時々窺いながらパンを食べていた。
(あの時、男子寮から攻撃をしたのはエミル君に間違いない……と思う。でもその後何があったのでしょう?)
エミルが塞ぎ込んでいた理由はきっとそこにあるとシルヴィナは推測していた。けれどそれを真正面から聞いてもはぐらかされるだけだろう。
(私はあなたの事を何も知らない。あなたは一体何者で何の目的があってここに来たの?)
「な~に、エミルの顔をじっと見つめているの?」
「ぶほっ、ゴホッゴホッ!」
悪戯っぽく囁いたモナカの言葉はクリティカルヒットになりシルヴィナは盛大にむせて涙目になってしまった。
「おいおい、どうしたんだ?」
「大丈夫、シルヴィナさん?」
咳き込むシルヴィナを心配する男子たちにモナカは「なんでもない」と笑いかけシルヴィナの背中を軽く叩いて喉に詰まった物を吐き出させようとする。
「もう、何しているのよ、アンタは~」
「ミョ、ミョナカが、ケホケホ、へぇんな事言うから、ケホ、でしょ~!」
派手に咳き込んだせいで友達だけでなく周囲の人の注目まで集めてしまったシルヴィナが目に涙を溜めてモナカを睨む。
「あたしはただ聞いただけでしょ。……聞きたいことがあるなら聞いちゃえばいいじゃない」
後半の言葉はシルヴィナだけに聞こえるように小声でモナカは言った。
モナカも昨日の夜に見たのはエミルだと確信していた。けれどそれを聞くのは自分の役目ではないとも考えていた。
そもそもモナカとしてはアレがエミルだろうとそうでなかろうと、そしてエミルが何者だろうと気にならないのだから追及するつもりもない。けれど幼馴染みが知りたいと思うのなら背を押すくらいはしてあげようと思っていた。
(だってそうしないとこの子、いつまで経っても行動を起こさないものね。さっさとあなたはあの時の皇子様ですかって聞いちゃえばいいのに。全くいつまでも引きずっているんだから……)
手間のかかる姫様の背を優しく叩きながらモナカは嘆息した。
…
……
………
「んじゃ、今日も勉強を頑張りますかね~」
ザカットが立ち上がると他愛もない話をしていたエミルたちも続いて立ち上がる。庭園にいた他の生徒も既に出ていったが兵士は当然のようにその場から動こうとしない。
「でも勇石の訓練はナシでしょ~。はぁ~、気分が乗らないなぁ」
「あまり勉強を疎かにして成績が悪くなると休みの日に補修になるって話もある。それが続けば最悪退学の可能性も……」
「あ~、分かったわよ! そういう気が滅入る事言わないで、レスター!」
笑いながら前を行く三人を追ってエミルとシルヴィナも庭園を出る。ギリギリまで寮にいた生徒たちも早足で校舎へと向かっていく。
「ちょっとのんびりしすぎたんじゃない?」
「だな。おい、急ごうぜ」
ザカットが後ろにいるエミルとシルヴィナに声を掛け走ろうとした時だった。
ゴゴゴゴゴと遠くから地鳴りのような音が響き、少し遅れて大地が小刻みに振動を始めた。
「なんだ、この揺れは?」
「地震だよ。大地のマナが変調をきたすと発生するんだ。けどおかしい。普通はマナのバランスが不安定な土地でしか起きないはずなのに」
地震を経験した事のない生徒も多いため学園内にざわめきが起こり始める。誰もが昨夜の襲撃との関連を疑い兵士たちも緊張した面持ちで警戒にあたる。
やがて振動は収まり始め生徒の緊張も解け始めた時だった。
「エミル君?」
「しっ! ……みんな、伏せろ!」
地面が揺れ始めた時にしゃがみ込んで地面に触れていたエミルが周囲の人に呼びかけつつ隣で立っていたシルヴィナの手を引いて地面に伏せさせる。
その直後、バーミル王国全土を激しく突き上げる衝撃が襲った。
これが後に『冥王封滅戦争』と呼ばれる戦いの始まりであった。
ブレイブハート 第一部 完
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