18 学園生活の始まり
真新しい制服を着た一年生たちが講堂の前方に、二年生が後方、教職員は左右の壁際の立っている。
壇上には生徒会長アニス・ルク・ゼステアートの祝辞から始まり、併設されている研究所所長であるキース・カールマンの勇石の研究の有意義性についての長い講釈が続き、最後に学長であるレイラ・スティークが立った。
直前のキースの話でやや弛緩していた講堂の雰囲気がレイラが話始めると一気に最初の、いやそれよりも緊張した状態になる。
「私は長話は好かない。だから簡潔に諸君に求める事を述べよう。私が諸君に求める事は唯一つ、一刻も早く勇石を使いこなす事だ。アルフォンス皇帝陛下は言われた。間もなく、あの覇龍をも超える伝説の災厄が帝国に訪れると。この学園で学んだ諸君らはその戦いの先兵となるだろう。この学園で戦いに勝ち生き残る
「全員、礼!」
体育館にいる全員の敬礼にレイラも敬礼を返す。こうしてエミルたちの入学式を終わった。
「いやあ~、同じクラスなら退屈しないで済みそうだ。これからよろしくな」
「いきなり大声で騒ぐんじゃないわよ! ほら、先生が困ってるでしょ」
「いや、お前もうるせーだろうが」
「はいはい、二人とも静かに。失礼しました、先生」
全く空気を読まないザカットとモナカをレスターが仲裁し如才なく教壇に立つ若い女性の先生に場の主導権を渡した。
栗色の髪にはしばみ色の瞳をもち童顔で背も低く、おそらく年齢はエミルたちより上だと思うのだが「新入生です!」と言われたら誰も疑わないのではないだろうか?
「あっありがとうございます! 皆さん、初めまして。私がこのクラスの担任を務めるコーデリア・ランザスと言います。基本教育の数学も担当しますのでよろしくお願いします! 私は軍人ではないので訓練については助言できませんが勉強については色々教えてあげられると思います。では、もう一人の担任の先生を……あの、セドア先生?」
「……セドア・キーン・レドナだ。貴様らの軍事教練を担当する」
教室のドアの近くに立っていた厳つい顔の三十代半ばの男はそう言うとこれで充分とばかりに黙り込んでしまった。かなり投げやりな対応にコーデリアも生徒も困惑するが本人はお構いなしだ。
顔の傷、そして右手の金属製の義手を見れば彼が過酷な実戦を経験しているのは間違いない。自分に視線が集まっているのを煩わしく思ったのかセドアは背を向け教室を出て行ってしまった。しかしその際に一瞬だけエミルと視線があったが、それはあまり友好的なものではなく刺々しいものだった。
(面倒な生徒と思われているのかな?)
銀色の髪を持って生まれた事から、先ほどのセドアのような視線は今まで何度も向けらて来た。もしかしたらセドアも第一世界の出身かもしれない。ぼんやりと彼が出ていったドアをエミルが見ている間に、冷えた空気を切り替える為にコーデリアが生徒全員に自己紹介をするように指示していた。
そして席の端から順繰りに新入生たちが簡単な自己紹介を始めていく。
「ザカット・バートランドだ。趣味はボードゲーム全般。色んな世界のを持ってるから誰でもいいから相手してくれ。これからよろしくな」
「レスター・ロウです。第一世界の士官学校からこちらに転校となりました。これからどうぞよろしくお願いします」
「モナカ・アーレンディよ。故郷は第五世界のプラティア王国。将来は故郷で立派な騎士になるのが目標よ。剣に関しては自信があるわ。腕に覚えがある人は勝負しましょ!」
「シルヴィナ・プラチナムと申します。趣味は読書です。あの、そのぉ……よ、よろしくお願いします!」
そして自己紹介の番がエミルに回ってくる。好奇の目を向けられている理由は昨日学長室に呼ばれた事と無関係ではない。あの事件の詳しい経緯を知っているのは教職員と軍人、それと目撃者のシルヴィナとモナカだけだ。それでも学長室に一人だけ呼び出された事から「何かやらかした」と勘違いされているようだ。
「エミル・イクスです。第一世界から来ました。趣味は……歴史と魔術の研究かな。皆さん、よろしくお願いします」
無難な自己紹介に不満げな顔をしている生徒もいるが、気にせずエミルは腰を下ろし順番を後ろの席に譲る。
ほどなくして自己紹介も終わりに近づいた頃、ドアをノックする音がして小さくドアが開いた。
「すみません、コーディ先生。そろそろ校内案内の時間なんですが大丈夫ですか?」
(あれ、この声……?)
僅かに開いたドアの隙間から顔だけ覗かせたのは、あの細目の青年レディンだった。申し訳なさそうに笑っているが、声からはコーデリアに対する妙な馴れ馴れしさを感じさせる。
「ええ。では今日はこれで終わりです。明日から本格的な授業を開始しますので、教科書などを忘れないようにしてください。あっ、それと昨日の事件に巻き込まれた生徒で検査を受けていない人は今日保健室で検査があります。夕食までに忘れずに行くようにしてください。以上です。それではすみませんがレスター君。級長代理として号令をお願いできますか?」
「分かりました。起立、礼!」
「それでは、また明日。レディン君、後はよろしくお願いします」
「はい、お任せください」
コーデリアと入れ替わりに教壇に立ったレディンが立ったままの新入生の顔を見渡した。その中にエミルがいる事に気づくと「おやっ」とした顔をしたが、すぐに元の顔に張り付いたような笑みを浮かべ自分が生徒会副会長であることを告げた。
「これから学園内の案内をするけども一つだけ注意があるんだ。それは勝手に機材などに手を触れない事。特にあとで行く研究所ではシャレにならないくらい怒られるから絶対にしてはダメだよ。去年怒られた僕が言うんだから間違いない」
言った本人は笑い声があがるのを期待していたのかもしれないが誰も笑いもせず、むしろ軽薄な人物と信用を失っただけのようだ。モナカなどは露骨に「大丈夫か、この人」と言いたげな表情をしている。
「こほん。それじゃ出発しようか。まずは校舎からだ。遅れずについてくるように。何か粗相があると僕が怖い会長に怒られるんだから」
わざわざ言わなくてもいい事を口にしてレディンは教室を出ていくとエミルたちも教室を後にするのだった。
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