19 学園の風景
校舎は四階建てで一年生は三階の教室を使っている。二年生は二階で、もし半年後か来年に新入生が入れば彼らは四階の教室を使うことになるだろう。
校舎内にある基本教育で使う実習室、図書室、職員室などを見て回り一行は校舎を出て研究所へ向かう。
「勇石関係の事は大体研究所内で行うと覚えておけば問題ないよ。ちなみに基本的に学生が入れるのは一階だけだよ。二階以上には職員用の通行証が無いと入れないしふらふら階段や昇降機に近づけば怖~い軍人さんに奥につれていかれることになるからやらないように」
(多分、この人はやったんだろうな)とクラス全員に思われるほど短い時間の間にレディンはマイナスの方向で信用されるまでになっていた。
研究所に近づくと先に案内を受けていた別のクラスの生徒たちを引率しているアニスの姿が見えた。
「あっ、会長、お疲れ様でっす」
「あなたも珍しくちゃんとやっているようですわね、レディン君」
「それはもちろん。やだな~、僕はあなたが指名した副会長ですよ?」
「何を仕出かすか分からないから首輪をつけただけです。そうそう、研究所では勇石に関して質問を受け付けてくれるけど、あなたにはその権利はないですから。もし進行を邪魔するようなら守衛さんに連行されますからそのつもりで」
「ええ~! そりゃないですよ。何のために僕がこんな面倒くさい仕事を引き受けたと思ってるんですか~」
「副会長としての責任感からでしょう? それでは最後までしっかりやりなさい。もし途中で放り出したら……その時は分かっているでしょうね?」
「はぁ~、分かりましたよ。最後までしっかり務めさせていただきます、生徒会長様」
「よろしい。エミル君、もしこの男がおかしな事をしたなら私に報告してください。この男に遠慮は一切無用ですわ」
突然に話を振られたエミルと、入学初日にも関わらずエミルが生徒会長と知り合いであることに驚いたクラスメートも驚いた顔を満足げに眺めアニスは別クラスの生徒を引率し校舎に戻っていった。
「なあ、あの美人の生徒会長さんとどこで知り合ったんだ?」
レディン以外の全員の疑問を聞くザカットにエミルは「昨日少し話しただけだよ」と答えた。実際その通りだからエミルには他に言う事はないのだが、何人かの男子は疑いの目を向けたままだ。
「お前よく分かってないみたいだな。いいか、生徒会長、つまりアニス・ルク・ゼステア―ドといえば容姿端麗、成績優秀なだけじゃない。何代か前に皇女が降嫁された由緒正しい家柄の人なんだよ」
「それだけじゃない。彼女もかなり順位は低いけど皇位継承権を持っているそうだ。ゼステアード本家は彼女しか子どもはいないそうだから将来は彼女が家を継ぐことになる」
「生徒会長に目を掛けてもらえば将来の出世にも繋がる。男の中には会長と結婚して婿入りしようなんて考えている奴もいるらしいぜ」
エミルより先に学園に来たザカットとレスターが代わる代わるアニスの事を説明してくれたが、エミルが「へぇ、そうなんだ」と分かっているのかいないのか分からない返事をするだけだった。
そこに先輩であるレディンがザカットとレスターの意図を補足しはじめた
「君の友人が言いたいのは、下心ありありで会長に近づく奴の嫉妬に気を付けろって事だよ。君にその気がなくとも周りはそうは思わないからね。僕だって単にこき使われているだけなのに媚びを売っているなんて陰口を叩かれるんだから。ああ、もし会長に取り入ろうなんて考えている子がいるなら僕は止めた方がいいと忠告しておくよ。会長と恋仲になりたいのなら模擬戦で彼女を倒す位の事はしないと相手にしてもらえないだろうね」
「会長って今一番強いんじゃなかったでしたっけ?」
ザカットの指摘にレディンは頷き、改めてその場にいる全員に少し意地の悪い笑みを見せた。
「そうだよ。まぁチャレンジするだけならタダだからとりあえず挑んでみるのもいいかもしれないね。僕は絶対に嫌だけど。けど君なら結構いい線いけるんじゃないかい、エミル君? さてお喋りはここまでにして、さっそくバーミル学園最大の見どころを紹介するよ」
言いたいことを言い終えるとレディンはさっさと研究所の入り口に向かう。
(あまり僕に注目が集まりそうな事を言わないで欲しいんだけどな)
厄介な人に目を付けられたなと思いながらエミルも他の子と共に研究所へ足を踏み入れた。
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