3 到着

 今まで感じていた船の振動が無くなり、窓から見える景色も動きを止めた。空港の着陸地点の上空について船がホバリングして待機状態に入ったのだ。


 「これから着陸しますのでシートベルトを……ありがとうございます。ご乗船ありがとうございました。学校、頑張ってくださいね」

 「ありがとうございます」


 乗務員は最後に小さく会釈して機体前部にある乗務員席に戻っていく。

 眠っていた客も他の乗務員に起こされ椅子に座り直しゆっくりした動きでシートベルトを締めている。

 乗客のシートベルト着用を確認し乗務員も仕切りの向こうで席に座りベルトを締める。準備が出来たことを乗務員のリーダーが通信で操縦室に知らせると飛行船はゆっくりと下降を始めていく。ややあって一際大きな振動が船内に響き飛行船の振動が完全に停まる。

 太陽が東の山脈を越えて顔を出し始めた頃、飛行船は長旅を終え、ついに最終目的地であるバーミル王国に到着したのだ。


 乗務員たちに見送られ客席から一段低い船体下部にある乗降口から小さなタラップを使い地上に降りたエミルは朝の空気を胸に吸い込んだ。

 春とは言え北方に位置するバーミル王国の空気はまだまだ冷たい。その空気から逃れようと寝起きの男性二人はさっさと空港内に入っていく。エミルはもう一度空気吸い込み、彼らを追うようにゆっくりと空港の中へ入った。


 辺境とはいえ国内唯一の空港だけあってそれなりの広さを有している。

 入国審査を終えて荷物を受け取ったエミルは構内最大の広さを持つロビーに設置されているベンチに腰を下ろした。

 構内には店やレストランがあるようだが、今はまだ準備中で開店に向けて店員が忙しく働いているのが見える。

 先に来たはずの二人の姿は既になくエミル以外には空港の利用客らしい人は見えず場違いな所に来てしまった感がしてきた。


 (もう少し早く到着したなら近くの宿に泊まれたんだけどな)


 だが、すでに朝を迎え二時間後には目的地のバーミル学園へ向かう送迎バスが空港前に来るはずだ。バスは午前と午後にそれぞれ一本しか出ていないので朝に来る便を逃すと相当待たなくてはならなくなる。

 もっとも送迎バスを使わなくても乗合馬車を使って王都まで移動、最悪徒歩でも行けるようだが不案内な土地を案内もなく移動するよりバスの方が確実なのでエミルは後者を選んだのだ。

 だが二時間もただ待つだけで何もしないのは勿体ない気がしてエミルはロビーのベンチから立つと空港を見て回ることにした。

 だがそれも束の間、それほど大きくはなく店も閉まっている空港に特に見どころがある訳でもなく元のベンチに戻ってきてしまった。


 (あと1時間半か。どうしようかな)


 私物のほとんどは事前に送ってしまっているため持っている鞄には大したものは入っていない。持ってきていた本も移動中に読みつくしてしまったため完全に手持ち無沙汰になってしまった。

 

 (少し外の空気でも吸ってこよう)


 何もせずにいると瞼が重くなってきてしまうので眠気覚ましに外に出ることにしたエミルは立派な玄関を通って外に出る。

 正面には舗装された道路があるが、そこにはあまり車はない。だが少し外れた場所には舗装されていない道があり荷馬車や地元の農家が二輪車を引いて荷物を空港に運び込んでいる。

 帝国を支える魔力を動力とする技術『魔技術マギテック』で動く自動車はやはりまだまだ高価な物で辺境では昔ながらの馬車や人力が主流なのだろう。

 空港の周囲には四つの建物があるが内二つはホテルのようだ。宿泊客のグループが迎えにきた大型の馬車に乗り込み出立していく。

 だが、それ以外には何もなく空気が美味しい以外には全く特筆する物がなかった。

 山から吹き下ろす冷たい風のおかげで目を覚ます事には成功したが体は冷えてきてしまった。

 (やっぱり中で時間を潰そう)と思い直しエミルは踵を返そうとした。


 「あら、あんたもバーミル学園の新入生なの?」


 声がした方を向くとそこには背は小さいが偉そうな女の子と、前髪で目が隠れている気弱そうな女の子二人連れが立っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る