4 出会い

 突然の質問に驚きつつエミルはその問いに素直に頷き肯定を示した。。

 以前居た場所で奇人変人と言われる人たちとの三年間の付き合いで突飛な質問に免疫が出来ていた事も大きいが、声を掛けてきた小柄な少女の声に悪意のような物が一切なかったのも大きい。


 前に立つ金髪セミロングの少女はあまり背の高くないエミルより更に頭一つ小さい。腕を組み胸を反らしている姿は無理に偉そうにしている子どもみたいで可愛らしいが、先ほどの質問を考えるとエミルと年齢はそう違わないのかもしれない。

 その小さな背に隠れるようにしている長いオレンジ色の前髪で目が隠れてしまっている少女は前にいる少女の耳に「失礼だから止めようよ~」と小声で訴えている。

 だが後ろからのささやきに偉そうな少女は耳を貸さずエミルを見上げながら傲岸不遜な笑みを浮かべて更に不躾な質問をぶつけてきた。


 「ずばり聞くけど、あんた男? それとも女?」

 「男だけど」


 あまりに聞き慣れた質問にエミルは淡々と答えを返す。

 後ろの少女がエミルから発する僅かな不機嫌さを敏感に感じ取ったのか「ほら、もういいいでしょ。謝って帰ろうよ」という偉そうな少女の肩を叩く。

 だがその言葉を無視して少女はスッとエミルに近寄り「ホントに? ちょっと確かめさせて」と言うや否や無遠慮にエミルの胸に手を当ててきた。


 「何するんだよ!」


 いきなりの行動に驚きエミルは後ろに飛び退いた。流石にこの行動は予測できなかったし、なにより自分の言葉を疑っている少女に対し明確に怒りを込めて非難をするが相手は気にした様子も無い。


 「ふ~ん、ホントに男だったんだ。いや、でもこのくらいの子なら発育が遅れている可能性も……」

 「もう止めてよ、モナカ! あの、ごめんなさい! 本当にこの子に悪気はないんです。ただ異常に負けず嫌いで……」

 「モナカ?」


 偉そうな少女の名前からエミルは親友の故郷にあったお菓子を連想して思わず吹き出してしまう。


 「ちょっと何笑ってるのよ!」

 「いや、何でもない。ちょっと友達の事を思い出しただけだよ」


 さすがに友達の逆ギレを良くないと思った後ろの少女が両肩を掴みエミルから引き離して申し訳なさそうに頭を下げた。


 「失礼な事をしたのはモナカでしょ! あの、本当に失礼しました。ほら、帰ろう?」

 「その前にさっきの質問とその子の行動の意味を教えてくれないかな?」


 エミルと視線を合わせないようにしながら謝る少女に対してエミルは逆に質問をした。それに答えたのはモナカと呼ばれた偉そうな少女だった。


 「私たちはあそこのホテルに泊まってたの。それでロビーにいたらアンタが見えてね。それで……」

 「僕が男か女かで賭けをした?」

 「人聞きが悪いわね。別に賭けはしてないわよ。ただ私とシルヴィナ、どっちの観察眼が上かを比べていただけよ。でも遠くから見てるだけじゃ分からないから声をかけたって訳よ」

 

 一方的に人を自分の都合に巻き込んでおいて悪びれる様子もないモナカに対しエミルは苦笑する。

 その堂々とした立ち振る舞い、そして来ているコートがかなり上質な物であることから彼女がどこかの貴族だと見当をつけた。

 だが彼女の偉そうな態度や物言いは決し偉ぶる為や相手を見下すための物でもない、彼女の素だと感じられた。恐らくこれが彼女の生まれつきの性格なのだろうと思うと先ほどの僅かな怒りもスッと消えた。

 

 「なるほどね。でもあまり相手に迷惑をかけるような事はしない方がいいよ? それじゃ僕はこれで……」

 「待ちなさい」


 空港に帰ろうとしたエミルをモナカが呼び止めた。まだ何かあるのだろうかと振り返るエミルにモナカがニッと笑いかける。


 「どうせ大してやる事もないんでしょ? なら私たちが泊まったホテルに来なさいよ。私たちの話し相手になりなさい」


 どこまでも偉そうにそう言い放つのだった。

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