28 一組からの使者
応対に出たレスターに連れられてベッド脇まで来た少女がベッドに座るシルヴィナに深々と頭を下げた。年はエミルより少し上のようだが背はスラリと高く肩で揃えた美しい金色の髪と凛とした雰囲気が印象的な少女だ。
「私たちのクラスの者があなたに対してした事は許されることではありません。組を代表して謝罪します。本当に申し訳ありませんでした」
「い、いえ。そんな……」
「そうよ。謝るのはあのジェフって奴でしょ。なんで……え~と?」
「あっ、失礼しました。私は一組のラキシス・グレイといいます」
最初は警戒の目を向けていたモナカだがラキシスの真摯な態度に緊張を解いたようだ。
ラキシスの方も自分の謝罪が受け入れられた事に安堵すると年相応の笑顔を浮かべ自己紹介する。その流れでこの場にいる全員が自己紹介を済ませた。
「先ほどジェフ・ブルックスは皆さんや他のクラスを見下すような発言をしていましたが、あれはジェフ個人の思い込みであって一組が全員あのような愚かな考えを持っている訳ではありません」
「それは分かる。少なくとも一組の子はあんな敵意剥き出しではなかったからね。一人の暴走に他の人が気に病む必要はないとオレは思う」
レスターの言葉に全員が頷く。だがラキシスはまた暗い顔をして俯むいてしまった。
「いや、まだ学校始まって二日目だぜ? ラキシスがそんなに気に病む事ないだろ?」
ザカットのもっともな発言にラキシスは首を振ってシルヴィナとエミルに申し訳なさそうな顔をして首を横に振った。
「いえ、あの男がああも他人に攻撃的になった原因は私にあるんです」
「ひょっとして、あの決闘騒ぎって五日前の?」
何か思い当たったレスターの問いにラキシスは首を縦に振り「恥ずかしながら私とジェフが起こした事です」と恥ずかしそうに言う。
「レスター、決闘騒ぎって何があったの?」
エミルの問いに五日前に起こった新入生同士の諍いをレスターはラキシスの了解を得て話し始めた。
事の起こりは些細な事だった。
新入生の受け入れが始まって少し経つと、一部の優秀な子どもたちが他者を見下すような言動をするようになった。もちろん行き過ぎた言動をする者は注意され、場合によっては罰を受けるのだがその中でジェフ・ブルックスは狡猾だった。
「彼は大人や先輩に隠れて他の新入生にしつこく絡んでたんだ。ご丁寧に子分に見張りまでやらせてね」
「でも適応テストの結果なんて生徒は誰も知らないでしょ?」
レスターの話に不思議そうな顔をして質問をする。
モナカの記憶では適応テストの合格通知は来たが、どの程度の適応値だったのかは書かれてはいなかった。シルヴィナも頷いているのを見ると彼女も記憶にないようだ。
「実は受け入れ五日目までは寮に案内されるとすぐに自分がどのクラスが教えてもらえたんだよ。クラスが筆記テストの成績順にわけられるのは事前に説明があったにも関わらずジェフや一部の生徒はそれを勘違いしていたんだよ」
「……ひょっとしてクラス分けは適応テストの結果に基づいて行われたって思い込んでいた?」
エミルの問いにレスターは重々しく頷いた。モナカやシルヴィナも言葉もないといった感じで微妙な表情をしている。
「先生や寮長、生徒会の人も何度なくジェフとその取り巻きに説明したんだけどプライドの高い彼は全く聞く耳を持たなかった。適応テストの結果は分からないけど彼が勉学や武術に秀でていたのは事実だったから尚更意固地になっていたのかもしれない。そして問題の五日目、新しく来た子たちが寮に入った直後に事件が起こった」
いつも通りジェフは同じ新入生の女子に強引に言い寄り始めた。だがその時、いつもと違う事が起きた。
無理やり胸を触られそうになった女の子の悲鳴を聞いた新しく来た子が止めにはいったのだ。
「そして僅かな問答の後、颯爽と助けに現れた女の子があっという間にジェフを打ちのめした……って話を聞いたんだけど?」
「はい、大体その通りです。俺は素手でいいからお前は好きな武器を使えよ、と言われたので得意な剣術で打ちのめしたのです」
「うわっ、あいつエミルの前にもボコボコにやられてたの?」
モナカの言葉にラキシスは恥ずかしそうに顔を赤らめ「いえ、一撃でした」と更にジェフにとって残酷な事実を明かした。
「その後は大人しくなっていたから目が覚めたのかと思ったど、模擬戦での彼の言葉を聞く限り全然分かっていなかったな」
「その挙句エミルに喧嘩売ってぶん投げられたって訳か。けどそれでなんでラキシスが謝るんだ? やっぱりお前は悪くないじゃねえか」
レスターの言葉を引き継いだザカットにラキシスは首を横に振った。
「いえ、あの時私が軽々しく決闘などに応じず寮長や先生にお任せするべきだったんです。私がした事はただジェフを歪ませシルヴィナさんやエミル君に迷惑をかける結果になっただけなんです。本当に申し訳ありませんでした」
凛とした雰囲気は完全に消え去り、まるで叱られるのを覚悟した子どもの様に泣きそうなラキシスの手を取ってシルヴィナは微笑んだ。
「ラキシスさんは何も悪くありません。私が怪我をしたのは私の未熟さゆえであなたのせいではありません。ですからこれ以上自分を責めないでください」
「僕も売られた喧嘩を自分の意思で買った身ですから、あなたの事をアレコレいう資格なんてないですよ。だから気にしないでください」
「……ありがとう!」
ラキシスが顔をあげ目に涙を溜めながらも微笑むのを見て、その場にいる全員の顔に笑みが零れた。
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