27 シルヴィナ・プラチナム
「どうしてあなたはそうなの! このままではあの妾腹の子に王位を取られるのよ! そんな事になったら
(やめて! 私はあなたが贅沢するための道具なんかじゃない!)
「シルヴィナ様の魔術の才は確かに素晴らしい。ですがこの国では『聖剣』に認められなければ王にはなれません。それに比べ弟君はまだ幼いながらも剣の才能がおありになる。やはり次期国王には……」
「どれだけ金を積まれたのだ、貴様は! まだ剣の儀式が済んでもいない内から王の前でペラペラと!」
(やめて! お父様を困らせないで! 悪いのは私なの! 私に剣の才能が無かったせいでこんな事に……。ごめんなさい、ごめんなさい、お父様。こんな娘でごめんなさい……!)
「ねえさま、かあさまがもうねえさまにあっちゃだめっていうんだ。なんで? ボク、もっとねえさまとおはなししたい! なんでボクはねえさまといっしょにいちゃいけないの? かあさまはいつもボクにけんのけいこをしろっていうんだ。ボクはねえさまにほんをよんでもらうのがすきなのに……。どうしておとなはみんな、なかがわるいんだろう……」
(私のせいだ。私が王位を継ぐのに相応しくないから。だからみんなおかしくなってしまった。いっそ私がいなくなれば……。ううん、消えてしまえばいいんだ。そうすればきっと皆、元の優しい人たちに戻るはずよ。だから私は……)
―――
「……ヴィ! …ルヴィ! 大丈夫!?」
「ごめん……なさい……。……モナカ?」
「良かった! ずっとうなされていたから心配したわよ!」
ゆっくりとシルヴィナが目を覚ますと涙ぐむモナカと豊かな髭を蓄えた老人がいた。
「あの、私……?」
「ふむ、まずは自分の名前をちゃんと言えるかい? どこか痛みは?」
「私はシルヴィナ・プラチナムです。痛みは……」
医務室の主である老先生の問いにシルヴィナは淀みなく答える。体の痛みも特に感じないが、なぜ自分がここにいるのか、そもそもここがどこなのかも分からず困惑していた。
「えっと、あれ? モナカはどうしてここに? 今日は会う約束をしていましたっけ?」
「はあ? なに訳の分からない事を言っているのよ! ここは医務室! バーミル学園のい・む・し・つ!」
「これこれ、怒鳴ってはいかん。ショックのせいで記憶が混乱しておるのじゃろう。いいかの? 君は訓練中に怪我をしてここに運ばれてきたのだよ。思い出せるかい?」
「バーミル学園? 訓……練……」
その二つの単語を聞くと半開きだったシルヴィナの目がしっかりと開き、意識と記憶が完全に戻った。
「私……! あの人に!」
「大丈夫! もう終わったから大丈夫だから、ね?」
凄まじい形相で襲い掛かってくるジェフを思い出し体が震えるのを抑えきれないシルヴィナをモナカは優しく抱きしめる。
「お~い、そろそろ入って大丈夫か?」
閉められているカーテンの向こうからザカットの(彼にしては)抑えめな声にモナカは目でシルヴィナに入れるかを尋ねる。シルヴィナが目に浮かんでいた涙を拭き頷いたのを確認するとシルヴィナから体を離しカーテンを開いた。
「シルヴィナさん、調子はどう? もう大丈夫なの?」
「うん、もう平気……だと思います」
エミルの顔を見て、なぜか安心している自分に戸惑いながらシルヴィナは首を縦に振る。
「でも何事も無くて本当に良かった」
「で、先生。シルヴィナはもう寮に帰って大丈夫なのか?」
レスターが安堵しつつ優しく微笑み、ザカットはベッドの隣にいる医師に具合を確かめている。
「勇石で体が強化されておるからのう。気を失ったのは怪我ではなく精神的な部分が原因じゃろう。落ち着いたら寮へ戻って良いぞ。もし眠れんようなら薬でも魔術でも使うとよいじゃろ。薬が欲しければここに来なさい。夜中でも誰かいるからの」
セドアたちに目を覚ました事を伝えてくると言うと老医師はゆっくりとした足取りで医務室から出ていった。
「皆さん、心配をかけてごめんなさい」
「なんでお前が謝るんだよ。悪いのはあのバカのせいだろ」
「そうよ! 自分はエリートみたいな顔して手加減一つ満足に出来なかったくせに! エミルがボコボコにしてくれてスカッとしたわよ」
「エミル君が!?」
「いや、大した事はしてない」と言おうとしたエミルの言葉を遮ってレスターがシルヴィナが気絶した後の顛末をかいつまんで語って聞かせるとシルヴィナは驚いてエミルの顔をまじまじと見つめた。
「驚いたでしょ? エミルでも怒る事はあるのね。『おまえに勇石を使う資格はない!』とか、まるでヒーローみたいだったわよ」
「あれは、その! ちょっとした弾みで!」
真似をされた恥ずかしさで顔を真っ赤にしているエミルを無視してモナカはエミル行動を褒め続ける。
「照れなくていいわよ。ああ~、シルヴィナにも見せてあげたかったわ。あれを見たら惚れ直す事間違いなしたったのにね~」
「な、な、なっ! にゃにを!」
モナカの言葉に今度はシルヴィナの顔がエミル以上に真っ赤になってしまう。
そこにザカットが笑いながら「だよな! 俺もお前に惚れちまいそうだぜ!」とエミルの背中を叩くと本人とエミル以外の目が丸くなる。
「えっ? ザカット、そっちの……」
「ああ? 何だよ、お前ら変な目で見やがって。俺はコイツの男気に惚れちまったのさ。仲間を傷つける奴は許さねえ! 分かるぜ、その気持ち!」
「ああ、そういう意味ね。エミル、可愛らしいからてっきり……」
モナカがホッと胸を撫でおろすと医務室をノックする音が聞こえてきた。
「あれ、誰か来たみたいだ。ちょっと行ってくるよ」
この時間の勤務医は老先生しかおらず医務室の職員は誰もいない。仕方ないので代わりにレスターがカーテンを閉め対応に行くと、声からして女生徒と短く何かを話しベッドに戻ってきた。
「シルヴィナ。君に会いたいっていう人が来たよ」
「私に、ですか?」
「一組の代表者だそうだよ。どうする、会ってみるかい?」
レスターが伝えた内容にシルヴィナはただ困惑するしかなかった。
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