35 立ち向かう者たち
襲撃事件が起こる少し前の深夜。
久しぶりに瞑想をして体内の魔力を研ぎ澄ます訓練をしていたエミルは学園の北東、南、そして西から同時に強大な魔力を感じ取った。
(今の感覚、召喚術か?)
召喚術で思い起こされるのは、あのバス襲撃事件である。結局犯人は捕まらなかったとエミルは聞いていたがその犯人が今度は学園へ攻撃をしかけてきたというのか?
(帝国軍相手に奇襲とは言え戦いを仕掛けてくる? 何が目的だ?)
考えているうちに北東と南から響く爆発音が振動となって寮の窓を震わせる。異常に気付いた上階の生徒たちのざわめきが聞こえてくる中、寮内の各階に設置されたスピーカーからレイラの冷静な声で生徒に寮から出ないように命令が出される。
そしてこういう事態から生徒を守る為に窓が全て封鎖され寮全体が結界に覆われる。これで余程のことがない限りは安全……のはずだった。
「KUOOOOOOOOOOOO!!」
外から轟く甲高い鳥のような鳴き声と衝撃で建物が揺さぶられる。召喚獣と結界がぶつかった衝撃でバキバキという音と共に壊れた六階部分を修理するための足場が崩れ地面に激突、地響きを起こす。並の召喚獣ではここまでの被害は出ない。そもそもそんな攻撃を仕掛けるのを許してしまうほど帝国軍にも余裕がないのを察しエミルは行動に出る。
「術者を探す前にアレをどうにかしないと!」
寮の二階から上の窓はロックされている。しかし元々人が住む事を想定していない物置はその限りではない。
エミルはあのスマホに似た機械を手に取り素早くボタンを操作する。
「『ヤオヨロズ』起動。『タマテバコ』から
エミルの声でロックを解除したヤオヨロズが指定された装備を次元格納庫から出現させる。
急いで服を着替えて、二つの腕章がついた青いロングコートの裾に腕を通し、いくつもの戦場を共に潜り抜けたシルバースターを手に取りエミルは窓から外へ出る。
「戦いはどうなってるんだ?」
寮の部屋からは死角になる場所を選びエミルは壁を垂直に駆け上がる。男子寮のボロボロになっている屋上に到着するとコートのポケットから小さな機械を取り出して耳にかける。するとエミルの意思に感応し右目の前に透明なスクリーンを展開する。エミルは、その機械『シーカー』の機能を使い襲撃されている場所を拡大し敵の姿と被害を確認すると学園側の異常に気が付いた。資料では学園の守りについている帝国軍は東西南北に防御拠点を構築し戦闘用の魔術兵器も多数揃えていると聞いていたが――。
「砲台が動いていない?」
時折現れるという大型の魔獣を迎え撃つための大型砲台は沈黙したまま動く気配がない。それでも北東と南は人数と車両でなんとか持ちこたえているが、寮に近い西側は明らかに人が足りておらず巨鳥型の召喚獣の動きを止められていない。
このまま巨鳥に暴れさせていたら学園を覆う結界が破壊され三体の召喚獣が中に入ってきてしまうだろう。
(今回は限定召喚じゃない。下手に弱らせて逃がせば近隣の王都や村に被害が出るかもしれない。可哀そうだけど確実に仕留めるしかない!)
大きく息を吐きだしエミルは膝をつく。巨鳥は、地上から応戦している兵士を馬鹿にするように飛び回り、攻撃が止んだ隙に空中で静止した。翼を大きく羽ばたかせると魔力の刃を伴った突風が吹き荒れ結界を攻撃する。その攻撃で再び学園が揺れる。
人間は式や陣を用いてマナを使役するのに対し獣の中には本能でマナを操ることが出来る種族がいる。そういった種族は『魔獣』と呼ばれ恐れられている。今回はその魔獣の大型サイズが相手なのだから帝国軍が手こずるのは当然と言えた。
「
―――
「!」
「どうしたの、シルヴィ? 学園は軍が守ってくれているんだし、最悪先輩たちも応援に出るって言うし心配ないわよ」
「違うの! この魔力は、あの時のエミル君のに似てる……。それに魔力だけじゃない、これが王石の力……?」
シルヴィナ達の部屋は男子寮側にある。シルヴィナはシャッターが下りた窓にくっついて僅かな隙間から外を見ようとする。だが堅牢に作られたシャッターにはそんな隙間は存在せずシルヴィナは諦めるしかなかった。
「何、外を見たいの? ちょっと退いてなさい。うおりゃ~!」
生まれつき魔力の扱いが苦手なモナカはシルヴィナが何を感じ取ったのかは分からない。それでも親友の為に
「モナカ、怒られちゃうよ!」
「緊急事態って事で誤魔化すわよ。それで何か見えたの?」
「……屋上に誰かいる! あれはエミル君なの?」
魔力が収束し男子寮の屋上が淡く輝く。その光の中でしゃがんでいる誰かの後ろ姿をシルヴィナは見た。
そして一瞬だけ空に描かれた
それは魔導書に書かれていた
―――
空に描かれた魔術陣がシルバースターに吸い込まれる。それを凝縮し一発の魔力弾に込める。
銃口を暴れ回る巨鳥に向け攻撃の為に動きを止めた瞬間を逃さずエミルは引き金にかけた指に力を入れる。
「墜ちろっ!」
白銀の銃身が輝き魔力で加速させた弾丸が学園を守る結界をすり抜け巨鳥の体を正確に捉える。
マナの動きに敏感な巨鳥は飛んでくる弾丸に気づき、身を守る様に両翼で体を覆う。しかも攻撃に使うつもりだった魔力を防御に転化し翼は体を守る鉄壁の盾となる。
放たれた弾丸が普通の物だったのならその防御法は効果があっただろう。
しかしエミルが放った魔力で構成された弾丸は巨鳥にあたると弾け、中に閉じ込めていた魔術陣が巨鳥を中心に天空に展開される。
そして夜空を切り裂くような閃光と共に轟雷が巨鳥を貫く。
「GYUOOOOOOOOO!!」
異世界の雷神の名をつけた必殺の雷撃魔術を受け巨鳥は断末魔の叫びをあげながら地面に落下した。しばらく体をピクピクと震わせていたが、やがてその動きは完全に止まった。
「ふぅ、次は……あれ?」
いつになっても慣れない命を奪う事への罪悪感を振り切りエミルは残り二体の姿を捜すが、そちらもまさに決着がつこうとしていた。
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