12 事情聴取
草原を抜けたバスの前にバーミル学園を囲む黒いフェンスが見えてきた。道なりに進みゲートの前、検問所から兵士が軍の車も含め全ての運転手に通行証の提示を求めて回った。
「通行証は?」
「ここに」
慣れたやり取りなりの中に緊張感が漂っているのは、先ほどの襲撃のせいだろう。
「あんたも大変だったな。入ってよし!」
運転手が手渡した通行証を受け取りチェックすると兵士が労いの言葉をかけて最後尾の車に向かっていく。それが終わるとチェックをしていた兵士が腕を上げ検問所の中にいた別の兵士がゲートを開く。先頭の車が進んだのを確認し運転手がアクセルを軽く踏み徐行運転でゲートを通過する。
「やっと着いたのね~」
「怪我をした子は大丈夫でしょうか?」
「平気でしょ。あたしたちも後で念のために検査を受けるんでしょ。面倒ね~」
モナカとシルヴィナの会話を聞きながらエミルは窓からこれから生活することになるバーミル学園の方を見た。
黒いフェンスを越えた先には壮麗な、しかし若干薄汚れている石積みの塀が学園を囲むように立っている。
塀はかつての別荘地を囲むように作られ、更に学園設立後は金属製のフェンスを塀を囲むように設置し二重の防壁となっている。
フェンスと塀には生命、魔術を感知する魔術が付与されており触れたり飛び越えたりすれば、すぐに軍の指揮所や東西南北にある守衛詰め所に知らせが入る様になっている。
塀越しに見えるのは、まだ真新しい白い外壁を持つ学舎だ。飾り気のない三階建ての建物で、窓から何か騒ぎがあった事を察した何人かの生徒が物々しく護衛されたバスの到着を見守っていた。
学舎から少し離れた右手奥の場所に同じような外観の建物があり、資料によるとあそこが新兵器の研究所となっている。
ここからは見えないが学舎の裏には、学生寮が二棟と教職員の寮が一棟あり、敷地の奥にはバーミル王家の別荘がそのまま残されているらしい。
何事も無ければ着いた時に歓声が上がったかもしれないが、今はとてもそんな雰囲気ではない。バスに残った子の僅かなひそひそ声と重苦しい空気を内包したバスはゲートを通過すると直ぐに右に曲がり駐車場に入る。近くにある簡素な屋根付きの建物の中には先ほどケガ人を運んでいった車両も見える。
「よし、到着だ。さて、悪いんだが先に運ばれた子の荷物を外へ運び出すのを手伝ってくれ」
「ええ~」
「こら、上官の命令は絶対だ。これが軍だったら頬を叩かれるぞ?」
一緒に乗り込んでいた兵士の言葉で自分たちが軍学校に入る事を思い出した子どもたちは不満を飲み込み置きっぱなしになっていた荷物と床にばら撒かれた物を片付けていく。
「はい! あっ、モナカ、それ運んじゃうから渡して?」
「ちょっと待って。えっとこれ誰の物だろ?」
「そういうのは後で本人にやってもらおう? 今は早く片付けちゃおうよ」
各自が分担して荷物を片付けている間に一人の男子生徒がバスに近寄ってきて何かを物色するように作業をしている新入生を見つめている。そして目当ての子が車外に出てきた瞬間にスッと近づき――。
「あ~、忙しい所悪いね」
「はい?」
後ろから声を掛けられてエミルが振り返るとそこには細目の青年が立っていた。
紺のブレザーに身を包んだ姿からこの学園の生徒だと分かった。だがその生徒から声を掛けてきたのに何故か言葉を続けずエミルの姿をジロジロと観察している。
「あの?」
「おっと、これは失礼。先に運ばれた子から銀髪の子が事件を解決したと聞いてね。君がエミル・イクス君かい?」
「はい、そうです」
「なんでも怪物を一撃で消し飛ばしたそうじゃないか。一体どうやったんだい? そんな強力な武器を持っているように見えないけど」
エミルのシルバースターは召喚獣を送還した後に元の場所に収納してしまった。なので他の生徒はエミルが銃を使っていた事は知らずにいた。
「おっと、僕の知的好奇心を満たすのは後にしないと会長に怒られてしまう。エミル君、疲れていると思うけど僕に付いてきて欲しい。学長たちが直に話を聞きたいそうでね。いや~、たまたま廊下を歩いていた生徒をメッセンジャーにするなんて酷いと思わないかい?」
「はぁ」
相手の素性も事情も一切分からないのに愚痴をこぼされても困るが学長が呼んでいるのなら行かなければならない。
「こっちは大体終わったから行ってきなさいよ」
「あの、頑張ってください!」
モナカとシルヴィナ、そして他の子も頷いてくれたのでエミルは「ありがとう」と礼を言い細目の男と向き合った。
「それじゃ学長室へご案内~ってね」
エミルの準備が出来たのを見て細めの男は近くで見ていた兵士に頭を下げ学園の敷地に入るための門へ向けて歩き出した。
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