ブレイブハート ~輝石物語外伝~

カエリスト

辺境学園の見習い勇士(ブレイバー)

1 少年、辺境へ赴く

 「間もなくバーミル空港に到着します。着陸の際に揺れますので乗客の皆様は係員の指示があるまで席からお立ちにならないようお願い申し上げます」


 男性パイロットの声をききながら今年十三歳になるエミル・イクスは窓際に座った特権を如何なく行使して、次第に近づく地上の風景を見ていた。


 辺境の国バーミルに配備された旧式の中型飛空艇は僅かに機体を振動させつつ目的地へと向かう。

 エルゼスト帝国直轄地から、動力機関である魔石にマナを補充するために何回か飛行場を経由してようやく到着することにエミルはホッとした。

 出発時には深夜にも関わらず四十名が乗れる客席は満席だったが、飛行場に降りるたびに人は減り今ではエミルを含めて三人しか乗っていなかった。

 先ほど窓際の特権といったが人がいないため席はもう選び放題なのである。現に他の中年男性二人は三人掛けの椅子の手すりを上げて横になっていびきをかいて寝ていた。

 エミルも出発時に少し眠ったが人の出入りなどで何度も目が覚めてしまい、寝るのは諦めて薄暗い船内でこれから向かうバーミル王国の資料という名の観光パンフレットに目を通していた。


 バーミル王国。山に囲まれた専制君主制の国であり異世界にあるエルゼスト帝国がこの世界に攻め込んだ際には中立として戦いに関与せず、現在の帝国直轄地にあった大国が次々と破れていく中で帝国に臣従する道を選んだ。

 こう書くとまるで日和見を決め込んだ卑怯な国みたいに見えるが、実際には大した国力も軍事力も持っていなかったため、帝国にも同じ世界の国にも全く見向きもされず気が付いたら戦争が終わっていたと言ってもいいほどの冷遇だったそうである。

 侵攻した帝国側も使者が来てからようやくバーミル王国の存在を知ったという有様で当時の指揮官は「周辺国の貴族の領地だと思っていました」というほど、みすぼらしい国だったらしい。

 通常、帝国は争う前に降伏を申し出た国は優遇、矛を交えた相手は徹底的に痛めつけ、そして風見鶏よろしく様子見をしてから降伏した国には王の廃位や領土没収などかなりのを払わせるのだが、バーミル王国に対しては当時の皇帝は一切の要求をしなかった。それどころか、情報収集を怠った指揮官や関係者に厳罰を与え、皇帝自らが王国からの使者に会うという厚遇ぶりだった。


 「本来であればこちらから使者をたてねばならぬのに余も含め誰もそれをしなかった。そのような礼を失した国に、かの国は自ら使者をたて恭順を示した。この件に関し全ての非は帝国にある。よって余はバーミル王国に対し一切の要求はしないこととする!」

 

 こうしてバーミル王国は周辺国が激動の時代を迎える中で外界と隔絶したような平穏を手に入れたのだった。

 もっともそれで国として豊かになったという訳ではない。

 四方を険しい山に囲まれたバーミル王国の主な産業は盆地で行われている農耕と畜産のみであったからだ。

 四方に山があるので鉱業活動が活発に思われるが、その方面は全くの手つかず状態であった。

 その理由は、ある厄介な鉱石にあった。

 

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