16 男子寮の問題

 玄関から入ると左側に受付兼寮長の部屋、右側には四つの丸テーブルがあるロビー、そして前には上へ行く階段があった。階段の脇には昇降機が一台設置され、これで上へ行くことも出来るようになっている。

約一年前にバーミル学園建設が決定されてから建てられた寮はまだ真新しく目に見える汚れもなく快適に過ごすことが出来そう。階段脇の壁にある案内板には二階から十階までが学生寮になっているようだ。

 

 「部屋は二人で使うんだよ。一階ごとに十室。つまり二十人が生活できる。つまりこの寮には最大で百八十人生活できるって事だね」

 「学校の規模からもっと大きい寮かと思ってました。あの、ところで何で階段を上がらずに左に曲がるんですか?」


 にこやかに寮の説明をしてくれるレスターの行動にエミルは首を捻る。

 寮長室を素通りし相変わらずの曖昧な笑みを浮かべたままレスターとザカットは奥へ奥へ進んでいく。

 そして何故か廊下の行き止まりにある『倉庫』とプレートがかかっている部屋の前で立ち止まり、扉を開けて――。


 「ようこそ、バーミル学園男子寮へ!」

 「今日からここが君の部屋になるよ」


 やけくそ気味の笑顔のザカットと本当に申し訳なさそうな顔をしたレスターの言動にエミルの思考が停止、再起動して現在の状況を分析、一つの結論に達した。


 「えっと、これってイジメってやつですか?」


 怒りでもなく、完全に呆れてエミルは冷めた目で二人を睨む。この学園で学ぶことの意義、それが分かっていないのだろうかという冷めた怒りを現わすエミルに二人が慌てて釈明を始める。


 「待て、落ち着け。これは違うんだ、理由を聞いてくれ!」

 「ザカットが悪ふざけするからだ。ごめん、エミル君。ただコイツの言う通り、これには訳があるんだ。もっとも、その理由も大概なんだけど」


 ザカットとレスターが素直に謝った事でエミルも深呼吸を一つして気持ちを静める。考えてみれば、二人も案内を嫌がっていたから彼らが仕組んだ事ではないのだろう。それにまだ入学前の彼らに他の生徒の部屋割を決める権限などないだろうと思い至りまずは二人の話を聞いてみる事にした。


 「わかりました。じゃあ、なんで僕が倉庫に住まなきゃならないのか説明してください。資料ではは男女合わせて百人、僕たちが百五十人。男子の割合が半分だとしても部屋は余ると思るはずですけど?」

 「ああ、寮の部屋は十分だったんだ。けどな、人がある程度集まると中にはアホな事をやる奴がいるんだよ」

 「どういう意味です?」


 エミルの問いにザカットがため息をつき一言で答えた。


 「アホが寮をぶっ壊した」

 「……はあ?」

 「昨日の話なんだけど……」


 ザカットから引き継ぐようにレスターが説明する。


 今期の新入生受け入れは入学式の一週間前から始まった。

 そして新たに入ってきた後輩に対し先輩は自分たち(正確には勇石のだが)の凄さを語って聞かせた。魔術とも魔技術とも違う力に新入生は目を輝かせ先輩の話に耳を傾ける。

 そして、素直に耳傾ける後輩の姿に気を良くしたアホがこう言った。

 

 「いつも遠くから見てるだけじゃ迫力が伝わんないだろ? お前らよく見とけよ~!」


 そして寮の七階で発動した力は加減を間違え支柱や壁を破壊。倒壊は免れたが六階から上の階は立ち入り禁止になった。


 「四階分、つまり八十人分の居住スペースが使えなくなった訳だ。男子の数は二学年合わせて百二十五人。つまり二十五人が部屋を使えない状況になってしまったんだよ」

 「先生たちも色々対応策を考えたんだよ。職員寮の女性陣に部屋が余っている女子寮に移ってもらって空き部屋作ったり、むりやり三人部屋にしたりな。ただ、どうやっても一人だけ無理だった。で、思いついたのが倉庫をだった訳だ」


 レスターとザカットの話を聞き、ひとまず事情は分かった。けれども納得できない事が一つあった。


 「でも、なんで僕なんですか? こういう場合は公平に話し合うとかくじ引きとかあってしかるべきなんじゃないですか?」

 「エミルの言う通りだよ。僕やザカット、他の何人かも全員揃った段階で話し合うべきだって言ったんだけど……」

 「貴族のお子様たちが大反発してな。こんな状況なのに三人部屋は嫌だの平民と同室は嫌だの好き勝手言いやがるし先生も生徒会も手を説得したんだが時間切れ。それで結局行きついた結論が最後に来た連中の中から一人選ぶだったんだ」

 「そこで最後の話し合いをするつもりだったんだけど事故があったんだろう? 怪我をした人に優先的に部屋を割り振っていったら……」

 「都合よく僕だけ残ったと」

 「だが、昨日の夜から今日の明け方まで諸々さぎょうしたんだが我ながらそれほど悪くない部屋に仕上がったと思うぜ? 何より個室ってのがポイントが高い。とりあえず中を見て気に入らないなら俺が代わってもいいぞ」


 ザカットに促されエミルは倉庫に入ってみる。

 まだ新しい建物だけあって壁が汚れている訳でもなく大きなすりガラスも窓も綺麗に拭かれ品の良いカーテンがつけられている。床には絨毯がしかれベッドと机にチェストと生活に必要な物は全て揃っている。


 「どうだ、結構いい感じだろ? あのカーテンなんか近くにある王様の別荘から持ってきた高級品だぞ」

 「そんなの持ってきていいの!? まぁ、そうだね。マットで寝ろとか言われたらどうしようかと思ったけど、これなら別に文句はないかな」

 「そりゃ良かった。何か足らない物があったら寮長のおっさんに言えば都合してくれるはずだ。お前の荷物と部屋の鍵もおっさんが預かっているから帰ってきたら渡してもらえよ。それじゃ色々疲れているだろ。昼飯の時間になったら呼びに来るからそれまでのんびりしててくれ」

 「また来るよ」


 そう言うとホッとした様子のザカットとレスターは部屋を出てドアを閉めた。早朝から色々あったがまだ時間は十二時になっていない事にエミルは驚いた。


 (まだこんな時間なんだ。はぁ、確かに疲れたな)


 ベッドに座りそのまま上体を倒したエミルは天井を見ながらこれからの生活に思いを馳せる。倉庫暮らしも最初は怒りを覚えたが冷静に考えれば自分で良かったのかもしれない。


 (どうせ、ここに長くいる訳じゃないんだ。なら別に倉庫でも問題ないさ)


 エミルはそう思い直し立ち上がると室内を改めてチェックしているとノックの音がする。


 「やぁ、事情は二人から聞いたかい? 本当に済まないね。実は今フェンスの外側に新しい寮を作っているだよ。それが出来るか、ここの修理が終われば普通の部屋に移ってもらうから我慢しておくれ」


 更なる生徒の増加を見込んで二つ目の寮をフェンスの外で作っているという情報と一緒にエミルの荷物を持ってきてくれた寮長は朗らかに笑って自分の部屋に戻っていった。

 受け取った荷物を早速部屋で広げエミルは手早く片付けていく。

 そうこうしているとチャイムの音が開いた窓から聞こえてきた。そのチャイムの音が終わらないうちにドタバタと階段を駆け下りる音がして玄関が騒がしくなる。


 「お~い、飯だぞ。学食行こうぜ~。早く行かないとメシ盗られるぞ~」

 「ザカット、嘘をつくなって。準備が出来たらでいいよ。それとも手伝おうか?」

 「ううん、大丈夫。すぐに準備するよ」


 荷解きをあらかた終えていたエミルは上着を着て部屋を出ると二人と一緒に校舎にある食堂へ向かうのだった。

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