24 発動
エミルが近寄るとザカットとレスターがエミルに手を振って早く来てくれと訴えてきた。
今、生徒たちはそれぞれグループに分かれて各々の能力を発現させる練習に取り組んでいる。そしてエミルの友達四人は同じグループになっていた。
「おっ、やっと来たか。五人一組ってんでお前も俺たちのグループに入れといたぞ」
「ありがとう。それで……モナカ以外は使えたみたいだね」
「ああ、それでな……」
「うっさい、黙ってて! 気が散るから!」
顔を赤くして力んでいるモナカの絶叫が訓練場に響く。だが当の本人はそんな事にお構いなしで「なんで何も起こらないの!」と腕輪を嵌めた左腕を振り回している。
「まぁ、ご覧の有様だ。何とかしてやりたいんだが俺たちもどうやって力を引き出しているか分からないからな。アドバイスの仕様がないんだ」
「ちなみにみんなはどんな能力だったの?」
エミルが奇妙なダンスを踊っているモナカ以外に問うと三人がそれぞれの能力を発現させた。
「俺はこの相棒が生まれたぜ!」
ザカットの隣には二メートル近い大きさの甲冑姿の騎士が現れて剣を構えた。
「オレはこんな感じだよ」
レスターには背中に大きな黒い翼が生え軽く羽ばたくと体がふわりと持ち上がる。
「わ、私のは……よく分からないんですけど」
シルヴィナは自分の周りに浮かぶ二つの光る球を見て困惑している。自分の能力を示すような行動は一切せずただ浮かび続けるだけだ。
「何よ、みんなして自慢気に見せびらかして! どうして私のは何にも反応しないのよ!」
目に涙を浮かべるモナカに睨まれ三人はばつの悪そうな顔をして能力を解除した。
周囲にはまだ何人も発現できていない生徒がいる。それほど焦る必要はないはずなのにとエミルは思うがモナカは必死の形相だ。
(さっきの学園を追い出されるって話に焦っているのかな)
確かにまだ発現できていない生徒全員がかなり焦った顔をしているように見える。どうやら先ほどの話が相当なプレッシャーになってしまっているようだった。
特にモナカはシルヴィナの友人兼従者的な立場だ。シルヴィナを残して自分だけ帰国させられるなど、あってはならないことと更にプレッシャーを感じて空回りしてしまっている。
だがシルヴィナとモナカの本当の関係をザカットとレスターは知らないから彼女の必死さの意味が分からないのだろう。一方、事情を知っているシルヴィナもアドバイスが出来ずモナカを心配そうに見守る事しか出来ないようだ。
周囲の張り詰めた空気に呑まれないように大きく息を吐きエミルはモナカに近づいていく。
「モナカ、まずは落ち着いて」
「うっさいわね!」
「いいから、まずは落ち着くんだ!」
左腕に掴まれたエミルの手を振り解こうと暴れるモナカにエミルは一喝する。今まで聞いたことのないエミルの凛とした声にざわめいていた訓練場が一瞬で静かになった。
「暴れたって力は引き出せないよ。まずは落ち着こう? はい、深呼吸をして」
視線は刺々しいが、それでもモナカは言う通りに深呼吸を二度三度繰り返し行い、精神を落ち着けようと努力する。
「今までモナカがやっていた事は逆効果なんだ。自分の意志を勇石に叩きつけたって力は引き出せない。支配しようとするんじゃなく力を貸してもらうつもりでやるんだ」
「そんな事言ったって、石にどうお願いしろってのよ……」
「目を閉じて自分の意識を勇石に向けて力を感じるんだ。大丈夫、君の勇石は同調しようとしている。その力をまず感じるんだ」
「そんなの分かる訳……ううん、感じる。左腕に熱い力を感じる!」
「いいぞ。あとは、その力に身を委ねれればいいんだ。力は君の奥底にある想いを汲み取って形になって現れる!」
「あたしの想い、そんなの一つだけよ。あたしの願いは!」
モナカの勇石が強い輝きを放つと、右手に炎のように揺らめく刀身を持つ長剣が生まれていた。
「おお!」
「やったじゃないか!」
「すごいよ、モナカ!」
仲間たちが口々に祝福する中、モナカは自分が生み出した剣を目から流れる涙に気づく様子もなく呆けた顔で見つめ続けている。
モナカに続くようにエミルの言葉に耳を傾け実践していた生徒たちからも歓声が上がり始める。
「出来た!」
「やった~! 私にもできた!」
まだ発現出来ていなかった生徒たちも続々と成功し訓練場を覆っていた重い空気が霧散していく。
上手くいった生徒たちがエミルを取り囲み口々に感謝を述べるとエミルも「役に立ててよかったよ」と笑い返す。訓練場の中心にいたマリーもやってきてエミルに「よくやった」と言い背中を叩いた。
「さすが! やっぱ経験者は違うな!」
「はは、全員一気に成功したみたいだし、不安定だった子も安定してきた。ボクも参考になったよ、エミル」
ザカットとレスターもエミルのアドバイス通りにして自分の能力を改めて発動させる。ただシルヴィナだけは自分が生む出したはずの光球を見て何かを考え込んでいた。
「ねえ、イクス君。さっきの方法、もう一度教えて~」
「あっ、こっちも見て、お願い~」
中性的な容姿のエミルは女子の中で密かに人気があり、この機に距離を縮めようと女子のグループが一斉にエミルの元へ殺到する。
「おいおい、ここ先生がいるんだぞ~って誰も聞いてないな。仕方ない、エミル! 時間まで面倒見てやれ」
「マリー先生、職務放棄しないで下さい!」
そんな和気あいあいとした空気の中、エミルより少し年上の男子生徒がエミルを憎々し気に見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます