第一幕 終章~ご都合主義なんてありません~

ご都合主義なんてありません <表>





突如として現れた勇者、魔物と機人という異色の三人組と、遊戯神ロキの戦闘は、意外な程あっけなく終わりを迎えた。



それ程までに三人組は強かった。

全身に傷を負い、倒れ伏したロキ。


その首を勇者は容赦無く刈り取った。


噴き上がる鮮血。

力無く崩れ落ちるロキの骸。





…終わりの実感が湧いたからか、疲労感がどっと押し寄せてきたな。

…ようやく終わったんだ。




「何を黄昏とるんじゃ。

他の神からうっすら事情は聞いたが、詳しく聞かん内に巻き込みおって。

とりあえず何があったのかを説明せい。」



あ、流石バケモン爺さん。

もう復活したんだな。



「バケモンは余計じゃ。

それよりこの三人の為にも、早う説明せんかい。」



ナチュラルに仮にも神の心を読むなよ…。


ただそうだね。

“君達も巻き込んだ事だし、何があったか説明しようか。


まず、今回の一件の始まりから…






┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈






















“…はぁ…いっ……い…ぶぉっ……いだ…い…ぉ……ぬぅ…………いた……ぃ……………ぐ








ごろ・・…………………”



この言葉をキッカケに、俺とロキの賭けは始まった。





賭けのルールは六つ。



一、この賭けの間、互いの能力、存在を同等まで引き上げる。その能力は賭けに関してのみ使う事。


二、直接では無く自分達が転生や転移をさせた者を使い殺し合う事。また、これは賭けに既存の転生者、転移者を使わない事も含める。


三、俺が手出し出来るのは最初のみ。後は賭けの条件から外れた時のみ。


四、賭けそのものを台無しにする様な行為やルールからの逸脱、賭けに関係の無い干渉を相手にする等した場合、強制的にその者は消滅。


五、互いに神域から出ない事。


六、開始時、互いに自分の世界を一つ得る。それ以上自身の管理する世界は増やす事を禁じる。





この六つの条件を基準として、俺とロキは賭けを進めていく事になったんだ。




え?分が悪い賭けだって?

仕方ないだろ、こっちは無力だったんだし。

不利だろうがやるしか無かったんだよ。




とにかく、最初で最後になるかもしれない、一手だけの手出しを考えた時、条件の話し合いの中に出た、爺さんの事を思い出したんだ。



そう、ここにいるバケモン爺さん。



この人巻き込んだら勝ちみたいな所あったけど、二つ目の条件のせいでタイミングがここしか無かったんだよなぁ。


しかも爺さんがイレギュラー過ぎるせいで、呼ぶだけで権利使った事にさせられたし。


爺さんがそのままロキの転生者の案内係に使われたせいで、爺さんに相談も出来なかったしもう散々。



まぁお陰で爺さんが俺の危うい立ち位置を、何となく察したみたいだったから結果的に良かったのかも?





まぁそこからはロキのターンで、ずっと手出し出来なかったんだけど、無事俺を殺すような転生者は現れなかった。


多分だけど作業段階が楽しくなってきちゃったんだろうな。


それか転生者の顛末を眺める事が面白かったのかね?



命懸けの賭けだってのに楽しみやがって、こっちの気も知れってんだよ全く。





まぁそんな俺の念が通じたのか、その内初めてロキがミスをしたんだよなぁ。



さっき話した賭けの条件。

あれって単純な代理戦争のルールに見えて、実は複雑に絡み合ってんのさ。



例えば、ただ単に転生やら転移をさせて、そのままその人が生涯を終えたとする。

このルールの場合、その人って賭けに関わってるとは言えないだろ?


曖昧な線引きかもしれないけど、最終的に死んでしまうまでに、神に対して敵意を持たせる事。


それでようやくこの賭けに関わった結果だっていう理由付けが成り立つんだよ。




悔しいけどロキはその辺が上手かった。


神域に似せた空間で一人目を爺さんに案内させて、それ以降は前回異世界に送った人の魂に神のフリをさせ案内、これを繰り返していったんだ。


しかも、その人が異世界であまり良くない状況に陥るよう、転生先として指定される世界線を誘導するおまけ付き。




これの何が上手いかって直接顔を知られないっていう所。


この一手で神への強い憎しみという、強さへの原動力と賭けとの関係性を持たせつつ、神域に来た時に間違っても恨みから自分が殺される、なーんてヘマがない為の保険まで両立してやがったからなぁ。


転生先を自分で決めさせたのも、もしもの時の言い訳用だろうな。


神域に呼ばない分、俺は一切関われないしで一石三鳥、踏んだり蹴ったりだったよ…。




さらにロキは、転生者、転移者を選ぶ時、その人が好感を抱くような人を案内係の神としてマッチさせてた。


好感を持ってる相手の方が悪意って振り切りやすいからだろうな。

ほら、可愛さ余って憎さ百倍ってやつ?




これも良い手だと思ったけど、このおかげで隙が生まれた。



一人、どんなに世界や神を呪っても仕方ないような状況に陥っても、神を全く呪わなかった高潔な少女がいたんだよ。



そうそう、勇者のおっちゃん・・・・・・・・が神として会った、あのお嬢様。

あの子は異世界で降り掛かった不幸と神を結び付けなかったんだ。


凄いよな。

むしろ自身の至らなさを反省していたくらいだぜ?


…大の年増好きだっただけかもしれんけど…。

おい爺さん興味を示すんじゃねぇ!キモいわ!




…ごほん。


お嬢様に関しては死に際まで神を恨んだかを判定をするルール上、手出し出来なかったけど、次に彼女が案内をした相手には手を出せる。



だから勇者のおっちゃんが…んーと、あ!

そう!バグ技!

それで世界から消えた時に、その消えたタイミングで死んだ事にして・・・・聖剣に封印、世界の再構築の隙間に捩じ込んどいた。


ついでにロキについてとか色々知識も詰め込んで、後々こっちの切り札として使えるようにな。



ロキはおっちゃんの魂がこっちに呼べないからって、異世界に来たばかりの、今みたいな熱意なんて欠片も無い頃の、情けなーいおっちゃんの人格を幻影に貼り付けて、何とか次の人は案内したみたいだったよ。



ちょっ、暴力はんたーい!!

いい大人をからかうなって?

いい大人なら、ちょっとからかわれたぐらいで殴んな!





全く…、話を戻すぞ?


えーっと…そうだ、その後すぐに予想外な事があったんだ。




驚いたぞ?イレギュラーが起きたんだから。


世紀の大天才なゴブリン・・・・の君が、ダンジョンの罠の仕組みを応用して、自力で別の世界に転移した。


転生後に自力で・・・転移した事で、二つ目のルールを上書きした君は、もう俺達の手が届かない状態になったんだ。


どこに行ったかも分からなくなって、仕方なく死亡扱いにしてたロキを見た時は、内心拍手したぞ。



タイミングも良かったんだろうな。

あの時ロキは幻影での案内が上手くいったばっかりで安堵した直後だったから。


君は持ち前の頭脳でロキの存在に気付いて何かやってくれると思ったし、俺的にはホント嬉しい誤算だったわ。



…え?あの後七回も自力で転移した?マジで?

…大冒険の話はまた今度聞かせてくれよ…、流石にこっちの頭が追い付かねぇから…。





とにかく、この件でロキは慎重になった。


そしてある時、奴は合間に自分の世界の現地民で実験していた事が、賭けに有効なんじゃないかと考えたんだ。


もちろん現地民は賭けの対象外だぞ?


ただ、現地民で試した、間接的でも神として関わり恨みを持たせるって手法なら、もっと効率良く賭けに関係させられる事に気付いたんだよ。



結果、ロキは自前の世界に案内しないで、色んな世界に神の痕跡を残して、そこに転移させる手法を取り始めたのさ。


君らに分かりやすく例えると…、それまでの質にこだわり抜いた職人仕事から、生産量優先の工場制かつ業務委託に切り替えたって感じかな?


そのせいで縛り目的で付けた六つ目の条件がおじゃんになっちまった。




当然、その勝手に世界を工場にされた神々は黙ってなかった!

…なかったんだけど…。



ルールの四つ目。



神達がロキに手出しする事って、賭けに関係の無い干渉・・・・・・・・・・だと思わないか?



という訳で勇ましく殴り込んで来た神数柱が消滅。



これで調子に乗ったロキは、自分で主神とか名乗り出しちゃった。


俺のせいだって怒鳴り込みにやって来た神も漏れなく消滅。





反抗する神も居なくなって、賭けも順調。

奴からすれば最高の気分だったろうな。


























…最高って事は後は落ちるだけなんだけどな。



ロキの一番の失態。


奴は不幸をばら撒きすぎてた。




歯車・・と認識していた者に、横っ面を思いっきりぶん殴られるくらいにはね。



そう、君のお父さんだよ。

ヒューマノイド・・・・・・・ちゃん。



君を自身の身体を使ってまで改造を施した後、過去の犠牲者への罪悪感から自ら命を絶った君のお父さん。



彼は死後、ロキから役割を命じられた時に、説明されてない賭けとかについてもうっすら気付いたんじゃないか?

ほら、ゴブリン君とは分野は違うけど、彼も天才だから。



これ以上自分やヒューマノイドちゃんのような犠牲者を増やさないために、彼は自分の立場を利用して出来る範囲内での、最大限の嫌がらせをロキへと仕掛けた。




それが問題児をロキ自身の管理する世界に送る事だったんだ。



…超絶問題児だったな、訂正ありがと爺さん…。




と、とにかくだな。

あの問題児が送られたおかげで、ロキはそれは盛大にやらかしてくれたな。



手出しを出来るようになった俺は、とりあえず異分子を探してくれるだろう爺さんを調査名目で送った。



結果はビンゴ。


聖剣を通して復活してたおっちゃん、ロキの世界を探し当てて転移して来てた天才ゴブリン君、ワープを繰り返して無数の世界から見事に正解を引き当てていたヒューマノイドちゃん、この三人を合流させられたって訳。





あとは君らの知っての通り。



俺が爺さんを今まで出せなかった理由を解き明かして、爺さんを神域への移動手段に使えって意図にまで気付いてくれたゴブリン君。


神域に着いた瞬間、問答無用でどちらがロキなのかを、サイコメトリーで明確にしてくれたヒューマノイドちゃん。


気の遠くなる程長い人生で得た、反則級の強さでロキを仕留めてくれた勇者のおっちゃん。



君らのおかげで俺は賭けに勝てた。

これが顛末という訳だ。

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