改めて、異世界転移の場合┈┈case-6
やりたい事を他人に決められるのなんてうんざりなんだよ。
あたしゃあ昔っからそうだった。
最初は親に決められ続けた。
進学は家に金がないから無理だと就職の道を勝手に決められたし、結婚相手も地主の息子と半強制的に見合いさせられ結婚したよ。
結婚後は親に縛られないで済むと思ってたら、束縛してくるのが親から旦那に変わっただけ。
向こうの両親の介護はいつの間にかあたしの役目に決められてたし、家事も全部あたしの務め。
旦那が早くに死んでようやく自由だと思ったら、次は息子が。
孫の面倒を見るのは当然のことだとか言ってほぼ毎日押し付けてきたんだ。
お姉さんって呼ばれてたのが、気が付けばおばちゃんに。
おばちゃん呼びも、もうそろそろばあさんに変わると思うとうんざりして、あたしは一人で誰にも何も言わずに気分転換に旅行に出たのさ。
それから神社を巡って、そりゃあもう色んな神様に祈ったよ。
いい加減自由にさせておくれってねぇ。
…どうせこの旅行から帰ったらなにも伝えずに旅行に行ったことを、ボケに結び付けられて今度は勝手に老人ホームにでも入れられるんだろうさ。
あたしが強く出れないのが悪いのかい?
だとしてもなんであたしの周りは、こんなにも勝手な人ばかりなんだい?
おまえはこれが好きだろ、おまえはこれをすべきだ、おまえはこうするのが当然だ。
そんな言葉、いい加減聞き飽きたよ。
着たい服も食べたい物も好きな人も趣味も仕事も、あたしが決めることだろう?
…何ヶ所もお祈りに回るうちに、お祈りの内容が愚痴にすり変わってたよ。
はぁ…。
もういっそ、あたしを知る人がいない所にでも行けりゃあ良いのに。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
…またお祈りに邪念が混じっちゃったね。
いけないいけない。
そう思いながら目を開けたら、あたしがいた筈の神社はなくてね。
狐にでも化かされた気分さ。
辺りを見わたすと森でしかないし、しかもよく見ると木の陰から変なすごくちっちゃなおっさんが何人かこっちを見てたんだ。
あたしゃあ年甲斐もなくかん高い悲鳴をあげて、驚きすぎて腰抜かして倒れたよ。
そしたら小人のおっさんたちが慌ててあたしの方に来て、心配そうにしてくれてね。
数えてみたら七人いたその小人たちは力を合わせて、あたしを担いでどこかに運んでいった。
運ばれた先はどうやら小人の家みたいでね。
あたしをベッドに寝かせると小人たちは、甲斐甲斐しく世話をしてくれたよ。
食べ物をくれたり、あたしサイズの家具やら何やらを作ってくれたりもした。
その時に初めて落ち着いて小人たちの会話を聞いて、あたしゃあようやく気づけたんだよ。
ここはあたしがいた世界じゃあなさそうだってね。
もちろん不安もあったよ?
けどね、せっかくあたしを束縛する奴らがいない所に来れたんだし、ならいっそ吹っ切れていいんじゃないのかって思ったのさ。
…この世界に来てから何年か経った。
あたしは平和に自由を楽しんでたよ。
小人たちにも慣れてきたおかげで、あたしが意見を出して一緒に物を作ったり花を育ててみたり、そんな位には仲良くなれたんだ。
最初は助けられてばっかりだったあたしも、今じゃあ細かいことを気にしない小人たちの為に、掃除したり洋服のほつれを直してやったりしてねぇ。
やっぱり自分の気が向くままにすごせるのって気分が明るくなれるんだって、心底思う毎日だよ。
居心地がいいってこういうことなんだってね。
だから小人たち以外の社会なんて、知ろうともしなかったんだ。
ある日何だか熱くってね。
目を覚ますと森が燃えてたんだよ。
慌ててまだ呑気に寝てた小人たちをたたき起こして、なんとか小川から水を汲んで火を消そうと皆で協力して頑張った。
そうしてたら、急に甲冑みたいな集団が馬に乗ってやって来てね。
小人たちを次々捕まえて袋に放り込み始めた。
あたしがそれを止めようとしたら、そのままあたしも捕まったんだ。
森の外に運ばれてく時に甲冑たちの会話が聞こえたよ。
小人って希少な種族らしくて奴隷として高く売れるんだってさ。
あたしに関しては小人の王だって思われたみたいで、まとめて高く売れそうだとか、そんな話だった。
…聞きたくない話も聞こえてきたよ。
それは甲冑たちからじゃなくって、小人たちの入ってる袋から。
“あのいけ好かない自分勝手な女をやるから、俺たちを見逃がしてくれ”ってさ。
その時ねぇ、あたしは思い知ったよ。
束縛して支配するっていうのは、人間社会にありふれてるんだって。
後での保険のために手元に置いておく、そんな束縛もあるんだって。
…あたしも小人たちに“あたしと仲良く自由を楽しむこと”を押しつけてて、それもある意味束縛に入ってたのかもしれないって、ね。
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転移例 No.16 …成人:H
転移先 …御伽噺の世界
死亡原因 …脳の損傷。尚、その後の死体は剥製に。
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