改めて、異世界転移の場合┈┈case-5





自分の身体が喰われていく感覚。

それはそれは、思い出すだけで吐き気を催す記憶です。


経験したことないでしょ?

それが正常だし、その方が良いと思う。

プラスの要素がなんもない経験ですから。


ぼくは前世で見世物としてゾンビの餌にされた。

そのとき恐怖したのはゾンビよりも人間に対して。


極限状態の人間って、色々とタガが外れてるって言うのかな?

なにをするか分からない怖さがあるんだなって思ったんだ。




そんなぼくだったけど、“箱庭”で過ごす中で他の人達の生涯を聞いて、ぼくだけが不幸なわけじゃなかったんだって考えられるようにはなった。

だって皆、相当悲惨な最期を迎えたようだったから。


仲間意識を持てるようになったぼくは皆と仲良くすごすことで、苦手になりつつあった人間も捨てたものじゃないのかなって感じられるようになったんだ。

そして皆と仲が深まるたびに、段々と一つの感情が強くなっていくのを感じた。



それは“同情心”。

偉そうに聞こえるかもしれないね。

でも感じてしまったものは仕方ないじゃないか。


だって皆、本当に良い人や可哀想な人ばかりなんだよ。

なのに報われてない。

理不尽に死んでしかいない。


神様に恨みを持たせるためなんて、巻き込まれる側としては無関係な理由のせいで、不幸な運命にされてしまうなんて。

同情しか出来ないでしょ。


所詮人間なんて流されるだけのちっぽけな存在だなんて思うと、絶望感しかないでしょ。


…ぼく自身も含まれてるんだけどね。



とにかく、仲間の皆の為にぼくがなにを出来るか、なんか出来ないかって考えたんだよ。


そこで思い付いたのは、ぼくが幸せな運命を辿ること。


そうすれば不幸なのは確定事項じゃないって、皆に希望を持たせられるんじゃないかって思ったんだ。

しかもぼくが幸せになれるならウィンウィンでしょ?



そんなことを考えていたらなんと、改めて異世界に転移させて貰えることになったんだよ。

条件の邪神を殺せるまでに強くなるっていうのは、チートを貰うことで解決できそう。



待っててね、皆。



ぼくが希望を見せるから。





┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈





ぼくが転移させられたのは見た所、魔法はあるけど和風で乱世って言うような感じの世界だった。

転移してきた瞬間、大きな城が目の前にあって本当にビックリした。


突然城下町に現れたからって敵国の兵なんじゃないかとかって疑われたけど。


そこはぼくが貰ったチートのおかげで、すぐになんの問題もなくなった。



ぼくが貰ったチートは、“とにかく好かれる”っていうだけの能力。

けどこの能力って強くない?

だって初対面から完全に好かれるんだよ?


つまり誰でもぼく相手だと油断するってこと。

どれだけ強いやつでも、ぼく相手には無防備になるんだから。




これなら邪神だって殺せるに違いない。

そう思えてきたのは転移してから数ヶ月が経った頃。


城下町を視察しに来てた城主様に一目で好かれたぼくは、いつの間にかこの国を裏から支配してるみたいなポジションになってたんだ。


だって城主様はぼくに嫌われたくないからって、全部ぼくに確認してから決めるんだよ?

次にどこの国を攻めるかとか、税をどうするかとか、そんなことまで。


この能力の良い所は、性的に無理矢理なにかされそうになったら“嫌いになるよ”って一言言えば相手が止めること。


トラウマは避けられるし、ぼくが望むと皆なんでもくれるし、これは幸福な人生を送れてるんじゃないかな?



“箱庭”の皆、ぼくは証明したよ。

ぼくらは幸せになれるんだってね。



























そう思ってたのに、どうやら言い切れなくなりそう。


この“好かれる能力”、こういうことをしたら嫌いになるよって伝えておけば、相手の行動を制限出来るんだけど、伝えてない部分は相手の価値観で良かれと思って判断するんだよね。


別に一般的な価値観の人なら問題ないけど。


そもそも価値観がおかしい人が良かれと思って判断したら?



答えはぼくの周りに並べられた生首。

そしてそれを持ってきたのは、城主の配下の数十人の兵士達。


やっぱり人を殺さなきゃならない兵士って、正常な思考だと難しい部分もあったりするんだろう。


この国の兵士数千人の内、ぼくの目の前のこの兵士達は、人を殺すことを楽しむタイプの人達らしかった。


彼らはぼくの為に良かれと思って、喜ばれると思って、ぼくが“そういうことするなら嫌いになるよ”と釘を刺した人達を殺してきたんだろう。



…生首の中には城主・・の物もあるのだから。



多分だが、城主が死んだことが明らかになれば、皆に好かれた結果でぼくが新たな城主に選ばれるんだろう。

そうなればぼくの存在は広く認知される。



その時、こういう独自の価値観で判断する人は一体何人になる?


…答えは出ない。


こちらを熱く見つめてる兵士達の瞳に映る、ぼくの姿を見て思う。




これは神に定められた理不尽な運命なのかな?



…それとも希望の運命になるのかな?って。







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転移例 No.15 …学生:K

転移先 …魔法のある戦国乱世の世界

死亡原因 …自殺願望を持つ不死者に好かれた為

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