第一幕 二章~異世界転移の場合~
異世界転移の場合┈┈case-1
集団行動が苦手です。
足並み揃えて皆仲良くなんて、強制されたくないんです。
十人十色が許されるなら、バラバラに動いたって良いじゃないですか。
だから学校は嫌いです。
集団行動は尊ぶもの、そんな考えを押し付けられてる気がして。
他人の顔色を伺うのも、相談して物事を決めるのも、昔からあまり得意じゃなかったです。
何となく嫌なんです。
僕は平凡です。
そう認めている気がするから。
しかも集団から少しでも外れていると、社会って爪弾きにするじゃないですか?
それって個性を認めないだけじゃないですか?
上手くは言えないんですけどね?
個性的とまでは言わないけど、無個性には分類されない、その位のラインが一番集団行動では求められてると思うんです。
主役である必要はないけど、その他大勢は駄目、って言う方が分かりやすいですかね。
いや、有能すぎるのも問題だけど、無能は問題外、みたいな感じですかね?
…まぁ、とにかく。
人間社会って求められる基準が微妙すぎて、生きにくいな、息が詰まるなって事が言いたかったんです。
それでもそれを変えられる程、器用に生きられるなら、そもそも生きにくいなんて思わない筈なんですよ。
…何でこんな事延々と考えてるのかって言ったら、生き方を変えられるようなチャンスが突然降って湧いてきたから、なんですが。
最近の物語でたまに見るような、いわゆる異世界転移と言われる現象。
それにクラス全員で巻き込まれました。
突然教室内が目が空けられない位に眩しく光って、気付いたら全然知らない建物の中。
多分ここはお城の中だなって何気なくそう思う位、僕らの目の前には偉そうでキラキラした人がずらりと並んでいたんです。
話を聞いたところ、僕らは魔王討伐の為に召喚されたとの事でした。
ただし、彼らも困惑していました。
どうやらお目当ての、うちのクラスの万能超人君だけを召喚する筈が、クラス全員が巻き込まれてしまったそうなんです。
だけど世界を越える時、超人君だけではなく、僕らにも神様からの能力が授けられている筈なので、良ければ僕らにも助けてほしい、要約するとそういう話でした。
聖なる女神像に祈りを捧げれば、自分の能力が分かるとの事だったのですが。
クラスメイト達がこぞって、際どくてかなりセクシーな女神像に群がる姿は、こんな時でも何だかシュールで、ちょっとだけ笑えました。
能力判定をして、色んな姿が見られました。
凄い能力ではしゃぐ男子。
何とも言えない能力で微妙な顔をする女子。
そして全く使えない能力で呆然と立ち尽くす僕。
他のクラスメイトは、凄い例だと“剣術の達人になる”だとか“数秒間無敵になれる”だとか。
後はどんなに酷い例でも“存在感が薄い”とか、使い方次第で何とかなりそうなものでした。
“自分の耳が動かせる”
…断っておきますけど、特技でも隠し芸でもないですよ?
こんなふざけたものが僕の能力だったんです。
試しにやってみたら、本当に耳がピクピクと動かせるだけ。
こんなのどう使おうが役立つ訳ないじゃないですか。
面白さとかって求められる時と場合があると思うんです。
クラスメイト達には大ウケでしたけど、何が面白いんですか!って激怒しかけました。
…まぁそんな気概も湧かない位、呆然としてましたけど。
そうなるとこの世界の人達からすれば、戦いの為に呼び出したんですから、戦えないどころか問題外な僕に用はない訳でして。
約立たずはこうなるぞっていう見せしめの意味も兼ねてたんでしょう。
即座にお城から放り出されました。
物語とかなら、ここから僕のことを笑ったクラスメイトと、この国のお偉いさん達への復讐を決意して。
何だか凄い力に覚醒したり、能力の意外な使い道が見つかって最強になったりするんでしょうけど。
残念ながら、現実はそんなに都合よく進むものじゃなかったです。
だって僕がこの世界で持ってるのは、耳を動かせるっていう、しょうもない個性だけなんですから。
僕を待っていたのはネズミのように路地裏に潜んで、雨水とゴミを口にしては、何とか生き長らえようと、ひたすらに必死な毎日でした。
ある時、たまたまクラスメイト達が僕の寝床の路地裏近くを通り過ぎたんですけど。
超人君以外のクラスメイトは一般兵士と同じ扱いを受けているらしく、その事を嘆いたり怒ったり愚痴ったりしてました。
僕から言わせてもらえば、“平凡”だって幸せな事なんだから、文句言うなって話なんですけどね。
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転移例 No.1 …学生:H
転移先 …剣と魔法の世界
死亡原因 …疫病
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