異世界転生の場合┈┈case-9




運動は何一つ出来ない。

そして非力。

だが不自由を感じた事等は無い。


必要とあらば運動が得意な奴を使えば良い。


私は何時だって使う側の人間なのだから。



生後一ヶ月で、意味の有る言葉を発せた。

幼稚園で、数学の定理を解いた。

小学校で、未だ治療法の見つかっていなかった難病の、治療法に関する論文を発表した。

中学校で、世界的科学賞を受賞した。



恐らく私は産まれる時代を間違えたのだろう。

私の思考は真実、時代の先を行っていた。



如何なる事に対しても、何故周りの人間はこんな簡単な事も分からないのだろうと感じ続けてきた。

退屈だったよ。全てが私の予想通りに事を運ぶのだからね。


人間は思考する生物である。

ならば極度に頭脳が優れている私にとって、他は全て無用の産物であった。




高校生となり、全世界が私の展開する事業に依存する事となった折。


私の死後、世界を牽引する者は現れ得ないと理解をしてしまったが故に、今後の世界の為にも私は所謂終活を始めた。


私が居なくとも最大限現状を維持出来る様、備えを終えた直後に、私は自ら命を絶った。



私に替えは効かないにも関わらず、私頼りの世界。

これでは寧ろ私が、人類の発展と成長の阻害しており、尚且つこのままであるのなら人類の絶滅まで見通せた為の行動である。



私の事を人間味が無い等と言っていた無能で愚かな者達に問いたい。


自らの為では無く世の為に、合理的且つ良識的な判断を下した私は、この世の誰よりも人間味に溢れているのではないか?と。


同じ事を、同じ判断を、君達に出来るのか?と。





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明確な実例が無いものに関して、私は信頼も信用もしない事を信条としていたが、自ら体験する事で、神を名乗る知的存在と転生というものが実在するのだと知れた。


神の構造と、転生のシステムを成立させるメカニズムを問うてみたが、そういうものとして理解して下さいと流された。


こういった際に即断即決で応えてくる者は、問答にならないからこそ厄介且つ好ましくもある。


但しその後も気になった点がある度質疑を繰り返していく内に、こちらはどうにも嫌われてしまったようだ。

まぁそれでも私の希望する条件は通したのだが。



そんなやり取りの中でふと思った事がある。

神を性差等という枠に当て嵌めては無粋やも知れないが、親しみを込めて彼女と呼ばせて貰おう。


彼女程余りにも強固で、そして余りにも危うい、曲がる事も曲げる事も出来ない確固たる意思の持ち主とならば、お互いの意見を議論でもしながら、共に人類を見守るという選択肢もあったのかもしれない、と。




















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そんな事を考えていた私は一体何様のつもりだったのだろう。


或いは彼女とのやり取りの中で、まるで自分も神と対等であると勘違いを起こす程度には、私も無能で愚かな人間の一人であったとでも言うべきやもしれない。




私が希望した条件は三つ。


一つ。非科学的事象、所謂魔法や霊が立証されている世界である事。


二つ。自らも魔法が使える事。


三つ。人類がある程度の文明を築いている事。



一つ目と二つ目は、前世では存在しなかった事象への探究心から。


三つ目は、もし自力で食料を確保しなければならない様な原始的な世界であれば、非力且つ文明の利器が存在する生活が当たり前の私では、生きていく事は少なからず出来ようが不便極まりないと考えたから。




















確かに条件は全て満たされていた。
















転生後の自らの種族が、この世界に於いて魔物と呼称される生物で無ければ、素直に喜べただろう。







自らが導き出し最良と判断を下した三つの条件には、人間として転生する事を含めなかったという、致命的な穴があった。


余りにも前提条件過ぎて、無意識に確定事項として処理していたのだろう。


魔力等が存在すれば、生態系等もそれに応じ進化及び退化をしたり、形態が細分化するのは言わずもがなの事であるし、未知の知識としては大歓迎だ。


無論自らが外からそれを見るのであればの話ではあるが。




私の種族はゴブリンと称される小鬼であったのだが、同族は喰らう、犯す、奪うといった単純明快な思考しか持ち合わせていなかった。


勿論私は同族を使おうとした。

しかし使われる側として、同族は余りにも欲望に忠実過ぎた。


目先に欲が転がっていれば、即座に指示を無視して欲を満たそうとする。


これはまだ良い方であり、酷い例では指示される事を嫌い、こちらへ襲いかかってくる事すらあった。




三つ目の条件である、人類が文明を築いている事も問題であった。

魔物が存在するのであれば、それを狩る職業も存在するのは当然の論理となる。


人間達は徒党を組み、定期的に住処へ攻め込んできた。



人間達がダンジョンと称する、私達ゴブリンの住処もまた、魔力により生み出されたもので、人外魔境と呼べる場となっていた。



ゴブリン以外の強力な魔物、龍や巨人なんて危険種も出現する上、魔力を組み込んだ注意すべき罠も至る所に自動的に発生するのだ。





来る日も来る日も、襲い来る同族やその他魔物、そして人間を自らの魔法のみを使い退け続ける日々の中で。









何時しか私は、前世で使われてくれていた者達への再評価と、感謝と、それから敬意を密かに抱き続ける事となる。




…彼等が私に従った事実が正しかったのだと証明する為に。

尚更この手酷く儚い生のシステムと製作者を、呪い、抗おう。







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転生例 No.9 …学生:G

転生先 …魔法とダンジョンの世界

死亡原因 …毒、麻痺、無数の刺傷を受け、その後消失


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