改めて、異世界転移の場合┈┈case-2




生きる活力がねぇ。

無気力で自堕落で優柔不断で消極的。


それが生来のあーし。



活力に満ち溢れている。

元気で健康的で即断即決で積極的。


それが演じている私。



昔から何事も他人任せ。

自分で判断して納得して行動する。

しなければならない事だし、したいとも思う。


でもどうしても出来ない。

だって自分に自信がねぇから。

…欠片もねぇからな。


そういう意味で言うと、演じる事は向いてるんだと思う。

演じているキャラクターなら、あくまで自分じゃないって余裕があるから。



ただ、演じる事を、求められている人に成るという事を、続けていると時折考えちまう。

あーし自身が求められる事はねぇのかもって。

あーしに自身に価値はねぇのかもってな。



考えれば考える程気分が落ちる思考だと分かってはいるのに、泥沼に嵌るみたいにどんどんどんどん深みに沈んでいっちまう。




前世で。

あーしは“神の御使い”を演じて、都合良く使い捨てられた。

だけど、今までで一番自由を謳歌出来た。

今までで一番自信を持てた。


あーしは自分の価値を分かった気がした。

演じる事で擬似的に色々な体験をしてきた事。

その知識と体験は上手に引き出せば、あーし自身の価値に変えられる。

そう思ったんだ。



もっと早く気付いていればって後悔してたら、意外な程あっさり挽回のチャンスはやってきた。



二度目の異世界転移。

それも今回は邪神を殺す為の足掛かりだから、多少の希望が通るらしい。

そう聞いた時、あーしの持つ知識と体験を更に強く固められる方法を思い付いたんだよ。


だからあーしは特殊能力が欲しいと願った。

演じる姿に変身出来る能力を。

すると、それだけだと強力過ぎるから、特殊能力というよりは呪いに近い形で良いなら、って話になった。


“呪い”なんて言葉の響きが怖かったから詳細を聞くと、要するに何かを演じようとすると強制的にその姿になっちまう。

そんな感じの能力でいいなら可能らしい。


全然良かった。

必要な時以外は演じなければ良いだけの話だし、適材適所で演じ分ける事には自信があった。




その能力さえあれば、あーしの知識と体験だけじゃ辿り着けない“リアルさ”を出せる。


例えば医師が必要な時に、見ず知らずの子供が手術しますって言った所で、誰もその言葉を本気にしないだろ?

ひょろひょろの病弱そうな姿で、喧嘩が強いとか言っても信じる奴は限りなく少ないだろ?


見た目に惑わされるなってはよく言うけど、見た目は何よりも説得力を生むんだよ。



あーしはこの特殊能力を使って、今度こそ自分の価値を皆に評価してもらうんだ。





┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈





異世界に飛ばされてきてあーしがまずした事は、とりあえず色々と演じてみる事だった。



…何でってそりゃあ、特殊能力の話をした時の、“強力過ぎる・・・・・”って言葉がおかしいと思ったからだ。

だって変身するだけなのに、強力過ぎるって違和感あるだろ?





そうしたら思った通り。


演じようとした姿にあーしの見た目が変わると同時に、知らない知識・・・・・・が頭に浮かんだんだ。


実在する人だけじゃなくて、想像して演じても結果は同じだった。

有名な俳優、モデル、スポーツ選手から、架空の物語の魔法使い、学者、忍者等でさえ変身出来た。


ただ、詳細な設定やら背景まで想像して演じないと変身出来ないっていう制限もあった。


それでも確かにこれは強力過ぎる。

魔法使いを演じれば魔法を使えたし、忍者を演じれば忍術だって使えるんだから。



こんな凄い能力を持ってんだから自信だってそりゃあ持てる。




























だからって自分を過信するのもやっぱり良くないんだろうな。




最初に辿り着いた村で、そこに馴染む為に旅芸人を演じたんだ。

見た目も声も全部が別人に変わって、自信を持って村に入った。



…定住は無理だった。

だってずっと他人の姿で居なきゃならないのは思ったよりもストレスだったから。

それで村の人達の前で姿を戻したら、気味悪がられて村を出てくれって懇願されちまった。




次の町では、予めあーしにはこんな能力があるって伝える事にした。

最初は喜んでもらえたんだ。

あーし一人で何でも出来るんだから。



…でもやっぱりその町での生活も、長くは続かなかった。

町の住人に頼まれて、その人の仕事の代行を変身してやる事になって。


そういう個人にも変身出来る事が分かると、皆自分の代わりとしてあーしを求めるか、成り代わりを恐れてあーしを恐れるかの二択になっちまったから。



あーし本来の姿すら演じているんじゃないかと疑われる事もよくあった。

常に疑念を向けられながらでも呑気に生きていける程、あーしの心は強くなくて度々移動を繰り返す日々。



ある大きな街にいる時、また定住を諦めて他に移ろうかと考え始めていたら、盗みを専門とする犯罪組織に誘われた。

その頃には既にかなり精神がキてたから、別に犯罪に手を染める事に抵抗もなかった。


すると、驚く程しっくり来ちまった。

考えてみれば盗みには嘘や演技が必要な場合も多い。

そうなれば、見た目すら変えられる役者がいるなら、そいつは完全犯罪すら可能って事。



金を盗む為に警備員を演じる。

追われるような時には平凡な奴を演じて周囲に溶け込めば良い。



気分は作品の中の大怪盗。

今までに感じた事がねぇ、全能感と自由さがあった。

悪い事は駄目だって分かってても、中毒性があったんだ。














気付かねぇ内に組織の親玉すらあーしを恐れて、処分しようとしてたらしかった。

それで別の組織に移ると、またその内処分しようとしきて、そのループを繰り返し続ける。


成り代わられる事がそんなに怖ぇかよ。

んな事しねぇって言っても誰も信用してくれねぇ。

こっちは逆にそいつを演じりゃ知識として何を考えてるのか分かるんだ。

上っ面には騙されねぇ。



色んな組織からの刺客が無数にいて、心がまったく休まらない日々。


こんな事がしたかったんじゃねぇ。

私はただ私自身を認めて欲しかっただけなのに。






危険を避ける為に演じ過ぎて、知識を積めば積む程、ほんとうの私がどんなのだったのか分からなくなる。


どれがあたしだ

どれが僕だ?


本来は男だった?

女だった?



俺は何がしたかった?



なんも楽しくない。



つまんない。




…もういい。





つかれたし。






お前らがこわがってることさ。






実現してやろう。







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転移例 No.12 …学生:I

転移先 …中世的世界

死亡原因 …独自人格の崩壊。肉体は数十年後寿命により崩御・・

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