第二幕 二章 ~改めて、異世界転移の場合~

改めて、異世界転移の場合┈┈case-1




“平凡”な位がちょうど良く幸せなんだって気付いたんですけど。


異世界転移を経験してる人って、その時点で“平凡”でも何でも無いじゃないですか?

だって僕の生まれ故郷の世界では異世界から来た人なんて、見た事も聞いた事もありませんでしたから。


そうなると転生とか転移ってやっぱりありふれたものじゃあないのかなって思ったんですけど、その予想はどうやら当たっているみたいでした。



神様の管理している通称“箱庭”という世界には、異世界転生した人達と異世界転移した人達の二種類の人達がいるんです。


全員、神様の賭けっていうのに巻き込まれた人達なんですけど、転生した人達は転生でなきゃまた異世界で生きるっていうのは駄目で、転移した人達は転移でなきゃ別の異世界では生きられない、そんなややこしいルールがあるらしいんです。


他にも、元の世界に戻す事は禁忌だったり、神様以外には自由に転生と転移をさせる権利がなかったり、意外と制約が多いらしいんですよ。


神様なら何でも出来るんじゃないんですか?って聞いたら難しい顔で無理な事もあると答えてましたし、神様も人間もそんなに変わらないのかなって不躾な事すら考えました。



とにかく、転移組と呼ばれる僕らは、魂だけで過ごして転生を待つ転生組と違って、一度“箱庭”で生を受けて、今後異世界へ送る際はあくまで転移ですよ、っていう形を整える為に生活してるんです。


もちろん“箱庭”に残る事も神様は選ばせてくれますよ?

けど、殆どの人は異世界に送ってもらう事を望んでいました。


聞いた所、皆さん前世は悲惨な運命だったそうですから。

後悔したままっていうのは誰だって受け入れ難いですよね。



僕だってそうですから。


転移させてもらうに当たり、邪神に関する対応の為に僕らは異世界で強さを得て欲しいとの事でしたから。

その為に特殊な能力を与えられた人だっていましたから。


それなら僕だって“特別”になれる。

“平凡”よりも上の“特別”に。


なら迷いなんて無いですよ。



神様に転移をお願いする時に、僕が求めたのはただ一つ、経験値があるゲームの世界に転移させてもらう事でした。


経験値っていう概念があれば、どんなに無能でも成長出来るって思いましたから。




┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈




目を開けると“はじまりの街”、とでも言うような、そこそこ栄えてる位の小さな街の入口に僕は立ってました。


街に入ると流石ゲームの世界。

僕はすんなりと冒険者になれました。


最初のうちは簡単なミッションをこなして小銭と経験値を稼いでたんですけど、早い内にある事に気が付いたんです。


実は経験値という概念と、すごく相性が良いものを僕は持ってたんです。





そう。





“自分の耳が動かせる”っていう前世から残されてた能力です。


何が?って思うかもしれません。

僕もそうだったんですけど、暇潰しに耳を動かしてみた時にびっくりしたんです。



耳のレベル・・・・・がアップした・・・・・・”って声が脳裏に響いたんですから。


そうなんです。

剣を振るい続ければ剣の経験値が貯まってレベルアップするみたいに、耳を動かせば耳がレベルアップするんですよ。

耳がレベルアップした所でって思うかもしれませんけど、馬鹿に出来ない事でした。


だって耳がレベルアップすると、耳が良くなるんです。

聴覚が鋭くなると、危険察知だったり、情報収集だったり、色々と役に立つんですよ。


しかもそれが暇さえあればいくらでもレベルが上げられるんですから、僕の耳のレベルは瞬く間にカンストしました。



酒場にいる人達全員の話を聞き分けられる。

目を瞑っていても人の動作が分かる。

文字を書く音で何を書いてるのかが分かる。

そのレベルの聴覚を僕は得ました。


しかもそれに合わせて耳にしたものを処理する為に、必要以上に脳を使うので脳もレベルアップ。

今までとは比べ物にならない位、頭脳明晰になりました。


こうなればこっちの物でしたよ。

どんな依頼だって、情報を集めて、最適解を見つければ失敗しようがないですから。



僕はこの世界で唯一の、完全に“特別”な存在でした。



























良すぎる聴覚の弊害に気が付くまでは、ですけどね。


どんなに頭脳明晰だろうと、考えてる本人が調子に乗ってたら気付ける事も気付けないんですよね。



随分レベルも上げてドラゴンとかも余裕だろうと思って挑んだんですけど。



出会い頭にドラゴンは咆哮を上げたんです。

何かが弾け飛ぶ様な感じでした。



その時弾け飛んでいたのは僕の聴覚だった訳なんです。

後、咆哮を耳に入れて脳が咆哮についての情報を全部取り入れちゃったんですよね。

…一瞬でパンクしました。



何も考えられなくて、何も聞こえなくて、何がどうなってるかも前も後ろも何も分からない状況になりながら、腕を喰われた痛みにもがきながらほうほうの体で逃げました。



ボロボロの僕の地獄はむしろここから。


耳が使い物にならないせいで、今までのように依頼をこなせなくなりました。

この世界には治療魔法みたいに都合のいいものは無かったので、僕の腕も耳も治す事が出来なかったんです。


ドラゴンの咆哮を出来る筈も無い情報処理をしようとせいか、前程頭も働かなくなってました。



このゲームの世界では依頼をこなさなければお金が稼げない。

ただ、今の僕には依頼を達成出来ません。


“特別”だった僕は“平凡”以下に。


いや、“平凡”未満に、かもしれない。





やっぱり。



“平凡”な位が一番幸せなんですかね?







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転移例 No.11 …学生:H

転移先 …RPG的ゲームの世界

死亡原因 …飢餓

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