改めて、異世界転生の場合┈┈case-4




ぼくは恵まれてない。


別に貧乏な家庭に生まれたりだとか、早くに両親を亡くしてだとか、そんな深刻な事情とかは一切ないけど。


ただただ、一切合切が平凡なだけ。

普通の家庭で、普通の日常を送ってる、いたって普通の学生。



よく「“好き”の反対は“嫌い”じゃなくて“無関心”」って言うよね?

恵まれてるかどうかもそれによく似てるとぼくは思うんだ。


“恵まれてる”の反対は“貧しい”じゃなくて“普通”。

周りに比べた時、全てにおいて平坦で起伏がない“普通”なこと。

これが“恵まれてない”って事なんじゃないかって。



でもそもそも“普通”ってなんなんだろ。

人それぞれ違う価値観を持ってるんだから、“普通”の判断だって人によって変わるでしょ?


てことは“普通”のぼくは?

評価するなら、良い?それとも悪い?


…それも人によって変わるんなら、ぼくはいったい何者なんだろ?



こんなことを常に考えてるってところだけは“普通”じゃないのかもしれない。

なら、“普通”じゃないぼくは?

評価するなら、良い?それとも悪い?



…きっとぼくはただ平凡な自分が嫌なわけじゃない。

単純にぼくという存在の生きる価値を見いだせないことが嫌なんだろう。



山も谷もないって予想すらできるぼくの人生。

そんな人生に価値があるのかなってね。



そのうちぼくは学校にも行かなくなって、家にひきこもるようになった。



そうなる前に周りの大人に相談?


もちろんしたよ。




まだ若いんだから馬鹿なこと考えてないで……だとか、今どきの子は運動しないでネットばかり見てるから……とか言ってくる大人たちが何人もいた。






逆にそうやって言われなければ、こんなに苦しくなって追いつめられたりしなかったと思うんだ。



ただぼくの考えを理解して共感して一緒に考えてほしかっただけだから。






┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈





表向きは将来へのぼんやりした不安から。


実際はもう色々うんざりしてあきらめて、こうすれば誰か一人でもぼくの悩みを理解したり考えてくれるかもっていう期待から。


家を飛び出して自殺の名所の海岸から飛び降りたはずだったんだけど。


山も谷もないと思ってたぼくの人生は、山場を経験することになった。



いや。


正確に言えばぼくの人生は結局平凡なまま終わった。




けど、前世をおぼえてる今のわたし・・・としての人生は、その時点で平凡ではないだろう。



下町のパン屋の看板娘。

前世の大人気アイドルぐらい整った顔とスタイルで、プロポーズやら告白を毎日数十回とされる。


パン屋の店主の父と一緒にパンの仕込みをしながらたわいもない話で盛りあがる。

営業がおわったら父と夕飯を食べながら、新作パンを考えたり営業についての作戦会議。


これがぼくの新しい人生で、わたしの日常だ。



ちなみに母はいない。


わたしが生まれてすぐに亡くなってしまったそうだ。


子供の頃、わたしの背中にある服にかくれるほど小さい羽・・・・について父に聞いたとき、羽のことと一緒に教えてくれた。


気まずい事情でもあるかと思って、あえて聞かなかったのを察したっていうのもあるかもしれないけど。




母はいわゆる妖精という種族だったそうだ。


ある時、森に迷い込んだ父は森から追い出そうとして現れた美しい妖精に一目惚れして猛アタックの末に結婚までこぎつけた。


それで母は父と共に町で暮らす事にしたそうだが、妖精である母には街の空気が合わなかったようで体調を崩しそのまま…ということらしい。


まぁ前世の記憶があるのもあって、正直顔すらおぼえてない母への愛着みたいなものはあんまりないし気にはならない。


父と二人、パンを作って売る、そんな生活でいいと思ってた。




























結果的に、父がとんだクズ野郎だったと発覚するような事件が起きるまでは。






街中から火の手が上がる。


辺りの家が崩れる。


悲鳴が響きわたる。



この街がこんな地獄みたいな状況になってるのは、妖精の大軍が攻め込んできたからだ。




始まりは宣戦布告。

宣戦布告の内容は“亡き妖精の姫の落とし子を返せ”。


宣戦布告に心当たりがなかった町のお偉いさん達は、街をかこむ多すぎる妖精の軍にあせって、大慌てで妖精との話し合いの場をどうにか設けた。


それで結果わかったこととして。


十数年前、妖精の姫がさらわれ一年程経ってから無惨な死体として見つかったこと。







その姫には、無理やり犯され出産させられたと思われる痕跡があったこと。


今まではどう対応するかで妖精の中でも意見が割れてたこと。


つい最近妖精の王が平和主義者から好戦的な妖精に代替わりしたので、報復と姫の血をひく子供の回収をする為に今回の侵攻を決めた、ということだった。



それを聞いてもちろん街のお偉いさん達は否定したらしいんだけど、妖精にはこの街にその“落とし子”がいるって感覚的にわかるらしくて交渉決裂。


侵攻をはじめた、ということらしい。










その落とし子は多分わたし。









というのも、おえらいさんが落とし子探しの為に、妖精達からきかされた内容を掲示板みたいなので用意して、街中に情報提供をおねがいしてたんだけど。




そうなったとたんに、父はわたしを家の屋根裏部屋に監禁した。


絶対にわたさないとか、これは俺の物だとかぶつぶつ呟いて。


ごていねいに椅子にかたく縛りつけて。



ちちがわたしを育てたのはきっとそのうち欲望をみたすためだろう。




これがきっと物語なら、わたしはようせい達にすくわれてハッピーエンド。


けどもうむりだろう。


かすむ目で、小さなまどにみえる、まちの光景を、へいわでしあわせな、にちじょうと、てらしあわせ










めぐまれてたなぁ











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転生例 No.14 …学生:N

転生先 …剣と魔法の世界

死亡原因 …二酸化炭素中毒による窒息

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