改めて、異世界転生の場合┈┈case-5
ぼくは病が怖い。
“生きる事”
たったそれだけしか求めてなくて、それ以上は要らないのに、病はぼくから自由を奪うから。
ぼくは老いが怖い。
“生きる事”
その目的も理由も喜びも、何もかもを遠くに追いやり忘れさせ、老いはぼくから自由を奪うから。
ぼくは死が怖い。
“生きる事”
そこにずっと付き纏い、いつか必ず追い付いてきて、死はぼくから自由を奪うから。
でも病や老いが原因なら、死を仕方の無いものだって受け入れられるんだ。
防ぎようが無いのもそうだけど。
一度経験してるから。
神様に三度目の生へ転生するかどうか聞かれた時、ぼくはとても悩んだんだ。
魂のまま神様の世界を漂う今のぼくの状態は、理想的だったし心地良かったからね。
でも魂のままの転生勢と違って、肉体を持って過ごしてる転移勢を見てると、そんな言い訳が苦しいものなんだって分かるんだ。
自分の足で色々な所を駆け回りたい。
自分の手で色々な物を触れてみたい。
ぼくはそんな欲求を振り切る事が出来なかった。
すぐに我慢の限界が来て、気が付いたら神様にお願いしてたんだ。
ぼくも転生させて下さいってね。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
神様は気前が良かった。
前世の剣聖としての肉体の強さを残してくれたんだ。
…気前が良いというか、その方が都合良いって感じだったけどね。
邪神との為にって事だろう。
身体が強いお陰で病気や怪我も無く、農夫の息子として立派に成長を遂げられた。
好きに野原を駆け回り、自分の手で果物や野菜を採り…。
幸福。
しかも、この世界は前世と違って争いも殆ど無い。
そして今世ではぼくは不老長寿という事が確定してるんだ。
なぜならここは肉体の強さが老いや寿命に関係する世界だから。
そんな説が既に立証されている世界なんだ。
剣聖として過ごした前世のぼくの肉体は最高峰まで極まってたらしく、医者に診てもらってもぼくの寿命は未知数らしい。
最高だ。
知識でしか知らなかった経験がぼくの心を満たしていく。
一応神様への義理を果たす為にも、運動がてらに剣術の訓練は続けた。
別にそれが苦でも無かったから。
身体を動かせる事が何より幸せだったんだ。
この世界では争いは
人間はどうしても争う生き物だから。
そういう争いや戦には率先して参戦。
死者を出さずに鎮圧してた。
だって大切な命を自ら進んで投げ出すのがどうしても許せなかったんだ。
いつしかただの農夫のぼくは、優武王なんて呼ばれるようになり、周りに人が集まって気付いた頃には国が出来たんだよ。
驚きはしたけど嬉しかった。
だってぼくの国の民はしっかりと命を大切にする人達しかいなかったからね。
いな
ぼくは寿命が長かった。
長過ぎると言っても良い。
最初は嬉しかったこの長寿。
こんな長寿のせいでぼくは見ていく羽目になったんだ。
母や父の死に目。
友達や仲間の死に目。
その子供達の死に目。
その孫達の死に目。
延々とぼくの嫌いな“死”を見た。
国民の信条が段々と湾曲していく様。
それをぼくが抑えまた湾曲し抑え…。
最初の人生の時、病室で読んだ性悪説についての本。
性善説と性悪説、どちらが正しいのかなんてぼくには分からないけど、今は性悪説を推すよ。
人間にはどうしても“欲”があるから。
国が傾いた。
抑える。
ぼくは二度の死を経験して自分が聖人か何かと勘違いしてたんだろうな。
違う。
ぼくの本質は生存欲の塊だ。
命を投げ出す人達が許せなかったんじゃない。
また国が傾いた。
抑える。
命を大切にと謳っていた人達が色んな理由で他者の命を奪おうとする。
時にはぼくにさえも。
怒りの為、布教の為、金銭の為、自由の為…。
見てられないんだ。
自分の本質を、鏡を、見せられているみたいで。
もし今世が人を殺すだけ寿命が延びる世界だったなら、きっとぼくは世界中の人を殺し尽くしてたと思うから。
そうじゃない。
ぼくは自分の命の為ならって人を殺す様な奴じゃない。
そう否定する為にぼくは国を正し続ける。
ぼくが寿命を迎えるまでこのループが続くとして。
病も老いも無いのに死を望んでしまうのと。
自分の本質が利己的なものと認めて、降りかかる火の粉を払う為に周囲の人達を殺し回るのと。
“鏡”を見ない為に国から逃げるのと。
寿命まで
そのどれを、ぼくは選べるんだろうか?
…ただ、平和に生きたいだけなのに。
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転生例 No.15 …学生:E
転生先 …中世的農業の世界
死亡原因 …服毒
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