異世界転移の場合┈┈case-5
小さな頃から女の子みたいだとイジられてきた。
コンプレックスは線の細い身体と声変わりしても高い声、伸びない身長、増えない体毛、エトセトラエトセトラ…。
筋トレしてみたり、プロテインを飲んでみたり色々してきたんだけど、どれもダメで。
せめてもの抵抗で、言葉づかいだけは男らしくしようと心掛けているんだけど、それも気の弱い性格のせいで優しめの口調になっちゃってる気がする。
高校生になって男子校に通えば男らしさが移ったりしないかなと思ったんだけど、そしたらクラスメイトに告白されるわ、経験したくもなかった初体験を散らされるわでもう散々。
俺だって好きでこうな訳じゃないのに。
もううんざりだよ。
いっそ最初から女の子で生まれるか、世の中が女の子しかいなければ、俺がイジられたり悩む必要なかったのかな。
…考え事をしながら歩いていたせいで、つまづいた俺は土手をゴロゴロ転げ落ちてしまった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
起き上がって土手を這い登った俺は周囲の違和感に気が付いた。
人気が少ない…?
というか街中のフェンスとか、電柱とかがあちこち壊れてる。
何が起きてるのか調べようと、スマホを開くも電波が入らない。
とりあえず街をうろついていたらヨタヨタと歩く人が遠くにいたので、大きな声で呼びかけようとした直後。
突然後ろから伸びてきた手で口を強く塞がれ、そのまま攫われる様にどこかに連れてこられてしまった。
倉庫の様なこの場所に二、三十人はいるだろう。
よく見ると女の人しかいない…?
剣呑な目付きの彼女達に囲まれた状態で、俺の口を塞いだままの女の人から、首を振るだけで質問に答えろと言われた。
質問に答えていく内に怪しい者ではないと分かったのか解放してくれたので、こちらからも質問をしていく内に分かった。
あ、ここは俺の知っている世界じゃないなと。
話を組み立てていくと、どうやらこの世界では五年前に、突然神を自称する謎の男がこれまた謎のウィルスをばらまいたらしい。
このウィルスは男性にしか感染せず、感染した者はいわゆるゾンビのようなものに変貌。
周囲を襲い、また感染させ…、しまいには三年前に地上の男性は全員、ゾンビとなってしまったとか。
残された女性達はコミュニティを作ってゾンビの脅威から逃れつつ、身を寄せ合って生活している、ということだった。
それを聞いて俺は、信じられないかもしれないが、と前置きをした上で、自身の事情を説明をしたら意外なことにすんなり納得された。
なんでも、こんな状況になることだってあるんだから、何だってありえるだろう、とのこと。なるほど確かに。
次に、俺が男子だという話をすると、女性達は目の色を変えた。
感染する可能性とかで警戒されてしまったのかとビクビクしていたら、空気感染は最初の一年しかしなかったから今は心配ないという話だったので、ほっとしたのも束の間。
あれよという間にちゃんとした初体験を経験することになった。
世界から男性が消えたせいで、皆さん女性同士でくんずほぐれつするぐらいには、ずっと欲望が溜まりに溜まっていたらしい。
…その後三十人規模の土下座を見るという、これまた初体験をした。
勿論俺は男なので、むしろお礼を言わせてもらったけどね。
俺はリーダーの女性に交渉して、皆さんのストレス発散を手伝う代わりに、一緒に生活させてもらえることになった。
最初は役得としか思ってなかったよ。
次第に皆が横暴で暴力的になってくるまでは。
“仲間外れ”ってあるでしょ?
あれってようするに自分達とは違う者を区別して、優位に立とうとする集団心理が生み出すものなんだと思うんだ。
しかもその心理はだんだん過激になるんだ。これは俺の経験上から来る予想だけどね。
差別化して満足してそれが当たり前になって不満を覚えて、より差別化して…。
ほら、人間の欲って言っちゃえばキリが無いから。
この世界に来ても、あいかわらず肉体的にも立場的にも弱い俺は、皆にとって立派な“仲間外れ”だった。
“男”だしね。
皆の仲間から、愛人へ。
愛人から、ペットへ。
ペットから、性処理の道具へ。
成り下がるのは時間の問題だった。
世の中って理不尽だなぁ。
拝啓神様。
ぼくってなんか悪いことしましたか?
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転移例 No.5 …学生:K
転移先 …女性しかいないゾンビパンデミックの世界
死亡原因 …全身の咬傷
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