閑話 : 現地民の場合┈┈ case-2
幼少期から、僕の家庭は貧乏だった。
それでも幸せだった。
…父さんと母さんがいた頃は。
父さんは厳しい顔とは裏腹にお茶目で愉快な人柄で、家族を明るくするのが上手い人だった。
猟師だった父さんは僕も妹も小さい頃に、山を荒らす魔物を身を呈して追い払い死んでしまったらしい。
母さんは優しい人だった。
寝る前によく伝説の勇者様の御伽噺だったり、若い頃の冒険譚なんかを僕らに聞かせてくれる、笑顔の素敵な人だった。
そんな母さんは父さんの死で気を病み、体調を崩しがちになり、それでも僕ら兄妹に食べ物を優先し続けて、仕舞いには自身を売る代わりに食べ物を僕らに届けていなくなった。
親が居なくなり村で一番貧しい僕らに、優しくしてくれるほど、村の皆にも甘さも余裕も無くて、時には様々な差別だって受けてきた。
人として扱われる事なんて滅多に無く、憂さ晴らしに暴力を振るわれることもしばしばあった。
皆余裕が無いからこそ、底辺を見て気を紛らわせたかったのかもしれないね。
そんな中でも僕と二つ下の妹は泥臭くとも助け合う事で、何とか命を繋いできた。
妹を生かす為ならドブさらいだろうが窃盗だろうが何だってやった。
…妹だって、僕が気付いてないと思っているみたいだけど、僕に楽をさせる為にそれこそ売春紛いの事もしていた様だった。
お互いがお互いの為に必死でいる事が分かっていたから、互いにそこに口出しなんてしなかったけどね。
どれだけ頑張っても、汚い事をしても、食べ物をお腹いっぱいになるまで食べられた事なんて一度もない。
酷い時には雨水だけで一日飢えを凌ぐ事だってあったくらい。
そんな生活をしていたら当たり前だろうけど、妹が高熱を伴う病気に罹った。
最後に見た母さんの様な儚い姿に恐怖すら湧き、急いで都会からやって来ていた薬師の元を尋ねたが。
妹の病気は安静にしていても治らないものだという事、治療薬は高価且つ貴重なもので調達には時間がかかるという事を、申し訳なさそうに伝えられるだけだった。
このままではたった一人の家族すら死んでしまう。
苦しげに呻く妹を見てそんな焦燥感に駆られていると、ふと、“村はずれの洞窟に向かいなさい?きっといい事がある”という意味深な言葉が僕の頭に響いた。
妹の死に際を、ただただ指をくわえて黙って見過ごし何も出来ないぐらいならと、頭に響いた言葉に従い、僕は村はずれの洞窟へと走って走って走り抜いた。
洞窟に着くと、古びた剣が一振り、岩に深々と突き刺さっていた。
この剣は一体だろうと思いつつ柄に触れると、光が洞窟内を眩く照らし…。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
光が収まった時、俺の手には神々しい剣があり、俺は勇者として選ばれた、そう何故か理解出来た。
身体の調子を確認して問題無しと判断した俺は、全力で村から洞窟までの先程来た道を駆け戻った。
勇者になり身体能力が上がったからか、あまり時間をかけずに俺と妹の住処であるあばら家まで帰ってこられた。
勇者としての自身のパワーを確かに感じて、これなら弱った妹を助けられると確信した。
俺の中で必死に暴れ回って抵抗していた
ようやく分かったか?
お前が妹だと
それともあれか?
全部察したか?
この村の仕組みから成り立ちぐらいまで。
いい加減見ない振りするなよ。
俺の中にいるんだから分かるよな?
…多少は同情するよ。
恨むなら、勇者の選定基準に気付いてこんな村をわざわざ作っちまった、イカれた自称人類代表のお偉いさん共と。
それか、この世界では最底辺の貧民からしか勇者を選ばないっていうのを、お偉いさん共が
さてと。
胸糞悪い知識と、新しい身体まで折角頂いたんだ。
恩返しぐらいはしようかね?
-----------------
個体例 No.2 …現地民:B
世界 …勇者と魔法があった世界
死亡原因 …過度の精神ストレスによる人格の消失。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます