異世界転移の場合┈┈case-4




社会でのオレは限りなく最下層だ。


過去勤めていた企業はとてつもないブラックだったし、そこを辞めた今では、ただただネットゲームに熱中するニートとして日々を謳歌している。



ちなみにオレは一人暮らし。

オレのネットゲーム生活を邪魔するものは、たまに来る電気代やら水道代の見直しだのといった勧誘くらい。


そんなオレがどうやって生活してるのか?



それは簡単。

毎日やっているネットゲーム。



そのゲームはちょっとした鬼畜仕様と自由度の高さが売りの、世界中で大人気のネットダイブ式オンラインRPGだった。

このゲームではゲーム内で、毎月公式主催の国内オンラインバトルの大会があるんだが。



オレは毎月その大会で優勝する国内最強プレイヤーって訳だ。



優勝賞金は毎月、大体数百万前後。


その内、二十万を生活費に、残りを新たな装備等を購入する為の課金にまわしている。

全ては装備等の流行り廃りに流されず大会に勝ち続ける為に。




最初は趣味を活かして優勝できれば、なんて博打的な金稼ぎのつもりだった。



それが気がつけば、オレの日常の全てを占めるものとなりつつあった。



負けられないし負ける気もしない。

このゲームを研究し切ったであろうオレにとって、アップデートと修正以外に怖いものなんて何もなかった。








…ゲームのサービスが終了すると分かるまでは。




別メーカーの最新ゲームが人気過ぎてプレイ人口を取られただとか、売名の為に賞金を出し過ぎただとか、色んな噂を耳にしたがそんな事はどうでも良かった。



このゲーム一本に収入も生きる希望も何もかもを賭けていたオレにとって、ゲームの終了は人生の終了も同然だった。


真っ当な働き方をするなんて事も、今更無理だったからな。





サービス終了のその瞬間までログインしていようと思った。

その後はもう死ぬしかないとも。


昔とは比べるまでもなく、すっかり人のいないサーバー内を見ながらオレはそんな事を考えつつ、その時を待った。





┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈






…サービス終了の時刻を過ぎてもログアウトにならなかった。

というかログアウト出来なかった。



どうやらオレはゲームの世界にそのまま取り残されたらしい。


最初は動揺もしたが実感が湧いてくるにつれ、むしろ良い事尽くめだと気が付いた。



まず金には困らない。

リリース当初からプレイし続けてきたオレは、ゲーム内資産をそれはもう大量に貯め込んでいた。


次に住居について。

これも何時だかのイベントで得てから、ゲーム内での拠点として使っていた豪邸がある為問題無し。


実際に戦闘がある生活を余儀なくされる点も、元国内最強プレイヤーのオレにとっては余裕でしかないしな。




しかも嬉しい事もあった。

それはNPCに感情があるという事。


些細な事だが、話し相手にも困らない上に、現実では一人もいなかったオレを見て認めてくれる人が沢山いる事で、オレの失われていた自尊心を満たしてくれるんだ。




神に感謝したよ。


詰まるところ、オレにとってこの世界は理想郷だったんだ。



























ゲームを飽きさせない為のちょっとした鬼畜仕様、それさえ無ければ。





このゲームでは月に一度、ランダムな日にランダムなマップにレイドボスが出現する。



レイドボスに挑む挑まないは個人の自由だが、だからと言って誰も倒さないとレイドボスの出現したマップが壊滅し、一定期間そこが使えなくなるのだ。


更に、壊滅したマップに拠点がある者は倉庫に預けたアイテムが全て失われる。



それなら誰もが挑むと思うだろうが、このレイドボス、何と強さは挑んだパーティー準拠という、誰が戦おうとも苦戦する仕様となっている。


その上、もし挑んでも敗北した場合、ペナルティとして敗れたプレイヤーのデータが初期化される・・・・・・・・・・





最後のデータの初期化というのが問題だった。






ゲームの世界が現実となった今、データの初期化をされたら?







そもそも死んでも復活出来るか不安で試す気にもならず、死なないように気を付けていたんだ。



それが更に初期化となれば余計に恐怖心が募る。




なら挑まなきゃいいって?

そんな選択肢は最初にレイドボスが現れた時に無くなったよ。




ある日突然、ワープで向かおうとした街にワープ出来なかった。

不思議に思って近くの村から向かってみたら。




死体死体死体、悲惨で壮観で無残な、死体と瓦礫の山しかなかったんだ。



オレにいつも擦り寄って来ていたあの子も、陽気な装備屋のおっちゃんも、お近付きになりたかった綺麗なお姉さんも、痴話喧嘩で街の名物と化してた夫婦も。



皆死んじまってた。



その時レイドボスのシステムを思い出して、あくまでゲームのシステムに忠実なこの世界を呪いながら、吐いた。



オレが思い出していれば、早くに気付いていればって、後悔して、号泣して。





それからの毎日は、理想郷だと思っていたこの世界が地獄の様に思えたよ。

来る日も来る日もレイドボスが来ないかを警戒し続け、怯える日々。



レイドボスが現れたと分かれば全力でそちらに向かい、ボロボロになりながら戦った。



あれだけ嬉しかったNPCに感情があるという事を、憎らしくも思ったよ。


彼ら彼女らが、この世界で生きている“人”なんだと認識していなければ、いくらでも無視出来ただろうから。






生きる希望だった最高のゲーム。

皆の生きる希望になっている恐怖の現実。



今も昔も相変わらずこのゲーム世界に全てを賭けているオレが、今も昔も相変わらずこの世界ゲームで負けられない戦いをしている。





羨ましいと思うか?












なら代わってくれよって思うんだ。

今も昔も相変わらず。







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転移例 No.4 …成人:C

転移先 …ダイブ式ネットゲームの世界

死亡原因 …初期化による人格の消滅

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