第二幕 一章 ~改めて、異世界転生の場合~

改めて、異世界転生の場合┈┈case-0





“退屈な日々に彩りを”


それがあたくしのスローガン。


日々を鮮やかに彩る為なら、あたくしはどんな努力も惜しまない。



好きな人相手には、それが特に出ちゃう。


悪戯してちょっかい出したりなんかしてね。



そうすると反応が返ってくる。



怒られたり仕返しされたりってね?


そんな反応が、あたくしの日々に鮮烈な彩りをくれるのよ。




だから求め過ぎてやり過ぎる事もあったり。

そうすると反応してもらえなくなっちゃう。

別に嫌われるのはいいの。


それも立派な反応だもの。



でも無視だけは駄目。

許せなくってもっと過激になっちゃう。

過激過ぎちゃって、殺意を持って返される事もあるの。



それが最っ高なのよ…!



実際に死にかける事もよくあるわ。

斬り付けられたり、刺されたり、ボコボコにされたり。



でも、それがいいのよ。

でも、それでいいのよ。


とっても素敵な刺激だもの。



だからって、本当に死にたくは無いの。

だって死んでしまったらそれっきり。

彩りを欲して、色褪せるなんて本末転倒でしょう?




今回もつい大好きで愛おしい人相手に悪戯が過ぎて。

今までで一番の生命の危機。


藁にも縋る想いで、昔の趣味で集めてた黒魔術の本に手を伸ばし…。






┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈





夢を見た。


酷く傷付き、死にかける夢を。


夢なのか、現実なのか、過去なのか、未来なのか。

よく分からない。




あたしには不思議な事に、産まれて直ぐからの意識があって、記憶があった。


ただ、“ある時”の記憶が無い。


その“ある時”というのは、前世の記憶。


薄らぼんやりとした感覚だけど、あたしには多分この世界とは別の前世があって、転生してこの世界にやって来た…んだと思う。



夢でよく見るんだもん。

恐らく前世であろう記憶を。

でも起きる頃には全てを忘れてしまう。



何となく夢が、実際にあったことなんだと分かるんだ。

これはきっとあたしにしか分からない感覚。



転生する事になったのは、誰かと話して…だったと思う。

何か大事な役目を果たす為に、あたしは転生をした…筈。



何もかもがあやふやで、不明確で、不明瞭。


だけど。


それでもあたしは自分の感覚を信じてる。



























なのに、何であたしには何も無いの?


特別な力も、不思議な力も、秀でた能力も、何にも無い。


剣術だってまともに剣を振る事すら出来ない。

魔法だって魔力すら感じ取れない。


知識も、知能も、加護も、精霊も、筋力も、体力も、全てが、全てで、全ては、全ても。




並。平凡。凡庸。凡才。




何一つ飛び抜けたものが無い。


しかも、何も起きない。


世界の危機も、身近の危険も、覚醒の瞬間も、冒険の日々も、何もかもが、何もかもで何もかもは、何もかもも。




平和。平穏。安寧。安定。




つまらない、ありきたりな毎日。


あたしは選ばれし者の筈なのに。

あたしは特別な存在の筈なのに。

あたしは主人公の様な者なのに。



前世の記憶を思い出せば、それも変わると思っていた。



…なのに本当に、いつまで経っても思い出せない。

これじゃああたしが、異世界転生者だって証明出来ない。


ただの頭のおかしい奴だと思われたくなくて、前世の事は誰にも言えないまま。



ただ不安なだけ。

ただ混乱してるだけ。


それならどれだけ良かったか。

絶対にあたしは異世界から生まれ変わってきたんだ。

絶対にあたしは特別な使命を持ってるんだ。



その確信が何度も揺らいで、何度も折れかけて、それでもやっぱり変わらず確信としてある。

…やっぱり変わらず漠然としてる。



なぜ?



どうして?



なんで?




だって、はっきりしないから、何も出来ない。

だけど、はっきりしていても、何も出来ない。



色褪せた日々。

代わり映えの無い生活。


同じ事をして、同じ事を考えて、同じ事からの脱却が出来なくて。



それでも何も変わらない。




きっと、転生の事を決めた神様がいて。

その神様が記憶とか消したんだ。

全部神のせいなんだ。






あたしは悪くない。


あたしは特別なんだ。




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