更に、異世界転生の場合┈┈case-4
勇者ってのは楽しいもんじゃない。
格好良いもんでもない。
神の指示通りの世界に転生して魔王やら魔物をただ殺して回るのが役目だしな。
しかも神が指示を出すってのは、ほとんど手遅れ状態だから最後の手段でっていうのが大半だった。
正直、恨まれる事の方が多い。
喜ぶのはほんのひと握り。
人間ってのはたとえ救いがあったとしても、それが自分にとって都合の良いタイミングでないと受け入れられない生き物なんだ。
人間って弱いんだよな。
でもそれは俺が強くなったから言えるだけで、元々俺だって弱かったんだ。
だからどれだけ恨まれようとも仕方ないと受け入れるしかねぇ。
受け入れるしかねぇんだ。
だがそもそも俺が神に従ってるのは初めは借りがあったからで、今はそれからの流れで従ってるだけ。
となるとじゃあ俺は今何でこんなに苦しんでるんだろうと最近思うんだよな。
だって正直ロキの野郎を殺した時点で最初の借りは返したろ?
それなのに未だに小間使いみてぇに働かされてんのは、割に合わない気がしてならねぇんだよ。
神も俺のそんな思考を薄々察してたんだろうな。
前回の爺さんの一件について、俺は何も知らされてなかった。
知らされなかった上で体良く利用された。
俺がどう動くかを読まれて、知らず知らずの内にな。
目の前で爺さんが殺されて、内心困惑しかなかったのが実情だ。
爺さんが敵だなんて微塵も思っちゃいねぇんだから、不意に爺さんの背後に現れて剣を突き刺した二人の方を敵だと思って斬りかかったぐらいだった。
それで斬り合いながら中身があの天才君だって言う坊主に説明された時、本気でイラッとした。
だっていくら強くなろうと俺は神の手のひらの上でしかねぇって言われた気がしたんだよ。
しかも心の中にこっそりあった“何だかんだ俺は神の切り札なんだ”って自負も、あの二人組のせいで綺麗さっぱり無くなっちまった。
天才君は損得で全てを考えられるタイプ...に見えるが実際は情に厚い人間だろう。
わざわざ何回も転移してまでロキを追い詰めた理由が損得だけって言うのは納得がいかねぇからな。
多分何かしら思う事があったからこそやった事の筈。
そして神は損得で全てを考えた上で、しっかりと状況を見て柔軟に動くタイプ。
こういうタイプは頭が良い奴から理解を得やすい。
敵に回した瞬間から面倒だからな。
頭が良い奴ほど、こういうタイプを切るのは最後の手段に回す。
つまり天才君が神を裏切るような事は、神が追い詰められるまでは無い。
神からすれば限界ギリギリまで裏切らない上に、自分で思考する頭もある、そして強い、おまけにセットで隠密の嬢ちゃんも付いてくる、そんな超優秀な戦力を得たって訳だ。
しかもセットの嬢ちゃんはその内、情に厚い天才君を縛る鎖にもなるだろうし。
神にとっちゃこんなに都合の良い駒はいねぇだろうな。
それに対する俺は?
神からの今の待遇に不満があって、そこまで頭も良くねぇし、斬り合った感覚的に腕は天才君と五分。
…嬢ちゃんの能力分を考えたら天才くんの方が強いだろうな。
用済み。
その言葉が頭によぎったんだよ。
…一度よぎると頭から離れなかった。
…俺は爺さん陣営だった。
やっぱり用済みだったのか、こんな事を考えてるって察されたからなのか、それとも完全にランダムで決まったのか、どれが理由かは分からねぇ。
でも何となく悔しかった。
もし神に選ばれなかった結果なら、見返してやりたかった。
もし運で決まった結果なら、神に運を呪ってほしかった。
だから絶対に。
絶対に誰よりも長く生きてやる。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
爺さんからは誰と一緒なのかとかは言われなかった。
一人だとも言われなかった。
これも絶妙に腹が立つ。
蔑ろにされてる気分だ。
…俺は仲間を探さない事にした。
一人でもやれると証明したかったし、仲間を探してるのを神やら爺さんに見られてたらと思うと弱さを見られる気がして嫌だった。
その代わり、敵は速攻で見つけて殺してやろうと思った。
異能力のある世界だから、用心してって言うのももちろんだが、何より一番は俺の有能さを誇示する為に。
だから物心がついてすぐに勇者の力をフル活用して探し出した。
…すぐに見つけた。
それは一人の女の子だった。
貧しい家庭に生まれたらしいその子は俺が見つけた時、夜中にコソコソと一人で洋服を作っていた。
黙々と作っては完成した服を着て、一人ポーズを取って出来栄えを眺める女の子。
誰に見せるでもない彼女のその姿をただ一人見た俺は毒気が抜けた。
人間相手にすぐに殺そうとするなんて、俺らしくない考えだったと反省するぐらいには。
でもこの思考すら神やら爺さんの手のひらの上なんじゃないかと思って、とりあえず様子を見る事にした。
…別の日、彼女はまた服を作っていた。
飽きないもんかね。
…さらに別の日、彼女は化粧の練習をしていた。
洋服だけじゃなく単純にオシャレが好きなんだろうな。
…そのまた別の日、彼女が異能力に目覚めたからと両親とささやかなお祝いのパーティーをしていた。
元々異能力を持ってた訳じゃないのか。
…またも別の日、彼女は目覚めた癒しの力で傷付いた子猫を救っていた。
心の優しい子なんだな。
…別の日、彼女が色々な人を治療した結果噂になっていた事を両親が褒めていた。
怪我をした人やら病人を見かける度に癒しまくっていたんだから当たり前だろう。
…さらに別の日、彼女が聖女として教会で働かないかと誘われていた。
“オシャレをしたいんです”という言葉を断り文句にしようとしていたのは笑った。
…そのまた別の日、彼女は教会で洋服を作ったり化粧を子供達にレクチャーしていた。
とりあえず下働きからって事で落ち着いたみたいだけどオシャレを許されて良かったな。
…またも別の日、彼女は正式に聖女に任命された。
聖女を狙うような悪い奴もいるだろうから気をつけろよ。
…そして別の日、聖女の護衛を決める選抜会に俺はいた。
本来は敵かもしれねぇ。
でも今まで陰ながらに彼女を見てきて、良い子なのは間違いねぇ。
そんな子を殺す事は俺には出来なかった。
むしろ守りたいと思った。
今までも度々彼女が狙われていたのをこっそり助けてきた。
…正直それを彼女にも理解されたいと思ったから、俺はこうしてちゃんと護衛になろうとしてるんだろう。
馬鹿だとは思う。
だが、俺が踏み外しかけた道を戻れたのは彼女のおかげなんだ。
だからこの決断に後悔はねぇ。
それが間違いだったと分かるのは死の間際。
何で
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転生例 No.31 …成人:A
転生先 …異能力のある中世的世界
死亡原因 …知らぬ間に致死量以上の様々な毒物を服毒した事により
転生例 No.32 …成人:C
転生先 …上と同じく
死亡原因 …女王として崩御
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