更に、異世界転生の場合┈┈case-5





私はこの賭けのルールを神から聞かされて、老人の上手さに舌を巻いた。

老人が神に提案したルールは四つ。




一つ、長生きした者、言わば勝ち星の合計数が多い方の陣営の勝ち。

一つの世界につき、最大二人まで送り込んで良いとする。


二つ、神が先に引き抜き、次に老人、その次は神、という様に、神から始まり交互に自陣営のメンバーを決めていく事。

但し、互いに相手が引き抜いた者は分からず、お互いに同じ者を選んでいた場合、その者は先に選んでいた陣営に優先で割り振られる。


三つ、ルールの詳細を説明して良いのは転生組と転移組でそれぞれ一人とする事。


四つ、この賭けに参加出来るのはロキの一件から関わっている者のみとする事。

また親である神と老人は、送る者を決める段階で、次に転生者を送るか転移者を送るかだけ決める事。




この四つが老人が提案した賭けのルールだ。

…だが、この四つのルールには裏がいくつかある。



まず、一つ目のルールの都合上、寿命に差が生まれる転生者と転移者をペアにする事のメリットが薄いという事。

転生組の成長を待たなければならない転移者はその間無駄に浮いている上に、その分先に寿命を迎える事になる。


勿論、直ぐに行動出来る転移者によって生まれたばかりの転生者を屠るという道も有る。

だが、それは悪手だ。


何故なら相手の陣営が誰を、そして何人送り込んでいるか、それが分からない状態でスタートする為だ。


探し出せる能力がある者なら良いが、そう言った能力の持ち主は合わせて戦闘能力も高い。

戦闘能力の高い者をわざわざ赤子を殺す為に送るのはいくら何でも割に合わない。


逆に探し出せる能力の無い者の場合、無作為に世界中を探し出さなければならなくなる。

それも時間の無駄な上に運も絡んで来るだろう。


だからこそ四つ目のルール上に不意に“転生者か転移者を決める”とあるのだろう。

互いに同じ時間軸で生きる者を当てねば、賭けが崩れやすいのだから。


…ちなみにこのルールによって、私が彼女と共に行動出来なくなった事も老人の狙いかもしれない。



次に、二つ目のルールは神有利に見せ掛けた縛りである事。

先に決められる神が有利に見えるが、神が一手目に取るのは転生者が私、転移者が隠密持ちの彼女なのは確定している。


何故なら自分で言うのも何だが、転生者の内、一戦だけで無くその後、展開を読む事にも使えるのは私だけ。

一方の転移者では、長生きというルール指定において見つからない隠密の彼女がほぼ間違いなく勝ち札となる。


神からすればどちらも老人に与えたくはない。


結果的に神の初手が決まっている分、老人は次の引き抜きで好きな人材を引き抜けるという訳だ。

しかも引き抜きの被りは要するに“パス”と同じ。

被りは致命的だ。


…まぁあの神ならその辺りは上手くやったのだろうが。



三つ目のルールもどうという事が無さそうに見えて老人有利だ。

何故かと言えば老人が引き抜くと考えられる者の中に、ルール説明が必要そうな者が居ないのだから。


特にあの殺し屋の彼女等は、賭けとは関係無く殺し回るだろうからな。


対する神は、私に説明するのは固定だっただろう。

私の知っている限り、転生者の中で私の他に説明する事が意味を持つ者は居なかった。


但し、その分こちらの陣営は情報共有が出来ない事で、代わり映えの無さから賭けに対してやる気の削がれる者も出る筈だ。


対して老人陣営は神が相手と言うだけで今までとは違う新鮮さが有る。

無駄に英雄思考等を持つ者が生まれると予想される。

やる気満々で望んでくるだろう。




…総じて神は不利な条件と私は見た。

しかし、それでも尚神はこの賭けを受けたのだから、何かしらの打開策があるのだろう。



ならば私は自分の役目を全うする、それに尽きるというものだ。





┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈





生まれ変わっても能力が変わらないというのなら、私の準備期間は短くて済む。

他の同世代の者達よりも早く言葉を覚え、思考を巡らせ、準備に取り掛かる事が出来るのだから。


私がまず行ったのはこの世界での地位を確立させる事。

勿論、勇者の力を使えば私は直ぐにでも老人陣営を見つける事は可能だろう。


だが、今回私は一人と神から聞かされている。


仮に相手方があの勇者の中年男性だった場合、戦闘となれば私の負けは濃厚。

前回彼と鍔迫り合いを行った際、経験の差は拭い切れない物だと確信したのがその理由だ。


私と彼では勇者としての経験値が違い過ぎる。

彼なら自意識が芽生えた時点で勇者の力でこちらを確実に殺しに来るだろう。



であるなら、私が取るべきは容易に手を出せない状況を作る事。

最速で地位を確立し安全を確保した上で相手を探し出し、有りもしない罪等を着せて権力で闇に屠る。


幾ら強力な勇者でもこの現代的な世界で指名手配になればただでは済まない。

弱った所を仕留めれば良いだけだ。



























そう考え、生を得て僅か五年で世界を裏から牛耳る程の権力を持つ企業の代表となったというのに、直後生ける屍、所謂ゾンビの発生によって社会は機能を失った。


これでは指名手配を掛けてどうなるものでも無い。

そもそも治安維持の機構が機能していないのだから。


仕方無しに急遽標的となる相手を探し出してみれば、訛りの強いただの女子一人が老人陣営の様だった。



ここまで警戒して備えたのは時間の無駄だったか。


そう思いさっさと手にかけようとしたが、不意に強い眩暈に襲われ身体がふらついた。


…私も先入観に囚われてしまっていた様だ。

よく調べもする前からゾンビに噛まれなければ感染しないと思い込んでいたが。



空気感染する事も有り得る訳だ。



…駄目だ。



もう意識スら…







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転生例 No.33 …学生:G

転生先 …ゾンビパンデミックの世界

死亡原因 …ゾンビ化により脳細胞が壊死した為。


転生例 No.34 …学生:O

転生先 …上と同じく

死亡原因 …ゾンビ化したGを含むゾンビの群れに喰われた為。

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