改めて、異世界転移の場合┈┈case-8





何時からそうだったかは分からないが、昔から一つの事に没頭すると、それ以外に無頓着となるのが私だった。


何故ならそれ以外の事は求められた役目さえ果たしていれば、何も問題は無いのだと思っていたからだ。


その思考に疑念を持ったのは、過去に一度のみ。

妻と離婚する事になった時だけだ。


親に小さな頃捨てられたのか物心ついた時には既に施設にいた私にとっては、離婚が意味としてどの程度の重さを持つのかが分からなかった。


だから離婚を求められ、それが求められた役目ならばと素直に応じた時は、間違った判断だとは思っていなかった。

しかし時が経てば経つ程、私は間違っていたのではとふとした拍子に強く思う様になったのだ。


例えば、起床した際に昨夜脱いだ服がそのままになっている時。

例えば、ゴミが気付けばゴミ箱いっぱいになっている時。

例えば、部屋の電球が切れて替えようとしても替えが無い時。


そんな時に、私は自分が求められていた事を本当に出来ていたのかと自問自答を繰り返すのだ。

妻が、娘が、私に対して求めていた事は口にしていた事以外にもあったのではないかと。


今までの“当たり前”こそが、私に求められていた役目に近しいものだったのではと。




…まぁ、後悔してももう遅い。

ならばせめて私が信じていた通りに仕事に没頭するしか…。


そう思っていたのに、その機会すらも奪われた。

私は神等は信じていなかったのだが、自らが異世界へ招かれた折に実在するのだと知った。

そして神話等に記されている通り、神は気紛れなのだろうとも。


私は勝手に呼ばれた上に帰る事が出来ないと聞かされ、放置されたのだから。


最初はただ粛々と、神とやらに求められた役目である神の代わりとして、文明の発展の為に日々研究と開発に勤しんだ。


しかしその内に、私にも寂しいという感情があるのだと知った。

他の人間に会えない事に対してだった寂しさは、次第に元妻や娘にまた会いたいという種の寂しさに変わっていく。




結果から言えば、私は大きな過ちを犯し、元妻からは娘を、娘からは彼女の明るい未来を奪った。

そしてその悔いを精算するために、娘に後を託した私は、あの神へ一矢報いる事が出来た。


その後事情を聞かされ、偽の神だった奴と賭けをしていたらしい真の神から心底感謝されたが、そんな事はどうでも良い。

娘に会わせてくれと願ったが、既に娘は神の密命を受けて様々な異世界を跳び回っていると言われた。


この“箱庭”について聞かされた情報を整理すれば、娘は私と会う事も出来た筈だ。

だが私に似て不器用な子だ。

きっと私と会って何を話せば良いか分からず、そのまま会わない選択肢を取ったのだろう。



そして神に聞いた所、やはり元の世界には戻れないそうだった。

元妻と会う事は二度と叶わない願いのようだ。

であるなら、私が取るべき選択肢は唯一つ。


陰ながら娘を守る事。


それが唯一私に残された元妻への贖罪であり、娘への懺悔であり、私自身の存在意義であった。



娘を守ると決意したものの、娘が異世界を跳び回っている都合上私も着いていく為には、異世界転移を自力で行わなければならなかった。


神から希望はなるべく叶えると言われた私は、神の側近らしき老師に転移の術を学ぶ事を願った。





┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈





自力での転移が可能になるまで、時間のかかった私だったが遂には覚え、遅れを取り戻す様に転移しては娘を探し回った。


剣と魔法の世界、中世的な世界、農耕中心の世界、ゲームの世界、ディストピアな世界、勇者と魔王のいる世界、異能力のある世界、近世的な世界…。



…何処を探しても娘に行き当たる事は無かった。

見逃していたのかも知れないと思ったが、定命の身では世界を隅々まで探し切るには時間が幾ら有っても足りない。


その為、次は寿命を無くす術を一人研究した。

娘も機械化した時点で半永久的に寿命を迎えないのだ。

であるなら躊躇う理由等無い。


幸い、転移を繰り返していた私は、複数世界の因子を取り込む副作用か既に不老には成っていた。

取っ掛りが有るのなら、その仕組みを解き明かし完全に寿命から離れる事は、私にとってそれ程時間を必要とするものでも無かった。


生命体としての枠組みから外れた事で、私は老師の思考等が分かった気がする。

まぁ私にとっては娘が無事なら正直どうでも良い。


再度私は様々な異世界を回った。




























…何百億もの世界を回った気がする。

しかし、探し物は見つからない。




というより、何を探していたのかも随分前から思い出せない・・・・・・


目的があってやってる事の、そもそも目的が分からない。

そんな状態はとても苦痛だった。


不思議な能力を何個も持っている事だって辛かった。

この能力のせいで僕はいつでも孤独だった。


だけど目的がある以上はきっとやらなければならない事なんだ。

だってそれはきっと僕に求められている役目なんだから。


…それでも、もう疲れた僕は持っている能力を組み合わせて、能力全てを捨てる勢いでなら、今までなぜかどうしても行けなかった世界に行けるのか、それだけ試してみる事にした。


そこに探し物があるかも、そう思ったから。


能力全てを捨てて作り出した世界の扉。

仕組み上どうしても世界を渡った瞬間、僕は幼児まで成長過程を巻き戻し、記憶を失うだろう。


けどどこか懐かしい気配を感じる扉の先。


この先で、例え記憶をなくそうと、子供から再スタートしようと。




この求められた・・・・・役目だけはこなす・・・・・・・・


そう固く決意をして僕は扉に手をかけた。







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転移例 No.18 …成人:E

転移先 …機械文明の発展した世界

死亡原因 …肉体のバランス崩壊

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