異世界転生の場合┈┈case-7
俺の人生なんて、どこを取っても取るに足りねぇもんだった。
40過ぎて定職も無ぇ、嫁さんも居ねぇ。
日常のルーティンすらも決まり切っていた。
朝からパチスロ屋に並び、昼前には舌打ちしながら店を出て、近所の古本屋で立ち読みして、夜には大家のおばちゃんに見つからねぇよう家に帰る。
偶に羽振りが良い時にゃあ、昼間っから呑み屋か風俗に使っちまうもんだから、まとまった貯金なんて一円たりともありはしねぇ。
うだつの上がらねぇ、惰性で生きる毎日。
子供の頃は自分が天才なんだと思ってた。
少し大きくなっても自分は才能に富んだ人間なんだと思ってた。
大きくなって大きくなって…。
自分に何にも残ってねぇ事に気が付いちまった。
碌に水をやらねぇもんだから、自分で自分の才能の芽を枯らしちまったんだって事にも。
あの時こうしてりゃなんて後悔なんざ、もう飽きる程にゃあしちまった。
後悔に飽きるとどうなるかって知ってるか?
しがみつく事を不意に諦めちまうんだよ。
あーあ、いてもいなくても変わんねぇのに、たまに人様への迷惑だけはかけちまうんだよなぁ…。
通勤中の皆さん、あんた達は偉いんだぞ。
誇りを
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突然だが、俺にもう一度チャンスが与えられた。
良く言やぁ毅然とした。
悪く言やぁ高慢ちきな。
そんな、鼻につくが俺みてぇなうだつの上がらねぇ奴にとっちゃあ、眩しく映る綺麗な女。
そいつからそのチャンスの話をされたんだ。
異世界に転生。
そう聞いて俺は何故か一つのゲームが頭から離れなくなっちまったんだ。
ワイバーンクエスト。
小せぇ頃、親にねだって買って貰った往年の名作。
買って貰った理由は、本当に些細だった気がする。
流行ってたから。話の除け者にされたくなかったから。
理由はくだらなかったが、気付けば他の何よりハマっていた。
もしかしたらこのゲームこそ、俺が自分の才能に過信した原因かもしれねぇ。
今になっちゃあそう思える程、俺はワイバーンクエストの中では無敵超人だったんだ。
思い付いたら早ぇもので、俺は全力で女神とやらに願った。
ワイバーンクエストの世界に転生させてくれと。
ワイバーンクエストが分からねぇかとも思ったが、意外にもむしろ食いついてきやがった。
神様もレトロゲームが好きだったりすんのかね?
さらに俺は、なるべくゲームに忠実な世界には出来ねぇのかとも聞いてみた。
忠実であればある程、やりこみ続けた俺はゲームの知識を活かせるからな。
可能との事だったので俺は思わずガッツポーズ。
これなら俺は変われる。
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俺の勇者としての生が始まった。
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この世界は本当に、ゲームとしてのワイバーンクエストに忠実だった。
そうなれば俺の快進撃は誰にも止められねぇし、止める奴もいなかった。
本来なら終盤に手に入れる武器を序盤に入手したり。
アイテムの無限増殖をしたり。
特定の敵をハメ殺したり。
好き放題好き勝手。
今まで感じた事の無ぇ全能感に、日々酔いしれた。
俺はこれが欲しかったんだ。
俺はこれに飢えてたんだ。
あえてゲームとしての進行は進めなかった。
ボスを倒す事に面白みを感じるタイプじゃなく、どっちかって言やぁやり込みに面白みを見出すタイプだからな俺は。
…あとは正直怖かったからな。
ラスボスを倒した後、この世界がどうなっちまうのかが。
まぁやる事が無くなってきてるから、その内
サクッとラスボスもやっちまうか。
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そう思った時、俺は一瞬、唖然としちまった。
何となしにラスボスを倒したらこうなっちまった。
なるほど、“はじめから”になるって事か。
ただまぁ、むしろありがてぇか。
少し飽きてた頃だったからな。
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俺の勇者としての生が始まった。
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二回目は単にちょっとしたミスで死んじまった。
死んでも“はじめから”なのか。
セーブとかがねぇからか?
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俺の勇者としての生が始まった。
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三回目。
段々と雑に生き始めている気がする。
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俺の勇者としての生が始まった。
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……。
…もう少し丁寧に生きよう。
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俺の勇者としての生が始まった。
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俺の勇者としての生が始まった。
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…二千七百六十八回目。
…死ねねぇ。終わらねぇ。
…百を超えた辺りからこれまでずっと、もう何度も色んな自殺を試みてきた。
…けど、どうやって死んでも、死んだら直ぐに勇者としての生が、望んでもねぇのに始まっちまう。
…もう、疲れた。
…ふと思うのは、才能がねぇからなんだのと惰性で適当に生きていた前世と、
才能しかねぇのに何度も繰り返す内に生きるのが惰性と適当に塗れてきた今世。
…変わりはあるのかね?
…どうにかできねぇのか…。
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俺の勇者としての生が始まった。
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転生例 No.7 …成人:A
転生先 …往年のゲームの世界
死亡原因 …世界の再構築に伴う存在の消失
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