閑話 : 現地民の場合┈┈ case-1





私にはエルフ族族長の娘として生を受けてからの長きに渡る生の中で、一度も満たされた事の無い欲求があった。



魔物の大侵攻を部族の皆と、力を合わせ凌いだ時にも。

人間共の卑劣なエルフ狩りの拠点から、奴隷を解放した大立ち回りの時にも。


一瞬何かを感じようが、一度たりともそれが満たされる事は無かった。



何の欲求かは自分でもよく分からない。


思い悩見続けたある時、脳裏に声が響いた。


“闘え”と。


神の啓示だと、そう感じた。


啓示の真意は分からない。

だが確かに、争いの中にその満たされなさのヒントがあると、そんな気がした。


はっきり言ってしまえば、知識欲求と平和主義が強い、一般的なエルフの性格からは、どこか逸脱している自覚はある。


ただ自らが何を欲しているのかを知りたいという点では、部族の他の誰よりも知識欲求が強いと言えたのかもしれない。

だからこそ私は争乱を求め、時には侵略すらも自ら率先して行っていった。


常勝無敗。

私の前に立ち、生きている者はいなかった。


森の女帝と噂され、周辺部族からは崇め恐れられていった。


その上で尚、満たされぬ乾き。



これは一体何なのだろう。




























数百年経ったある時、私は遂に乾きの正体を知る事が出来た。







大雨の影響で部族の森の大部分が枯れ、部族にとって過去一番の存亡の危機が迫った事で。





食糧難という最も身近な生命の危機を得た事で。












私は死にたい、という欲求を持っていたのだと。






気付くのが遅すぎた。


その点でエルフという種族には、とても難儀な点があったのだ。


森と共に在る為に、エルフは生き物の死に際の微弱な魂の力を取り込み、長寿を実現している種族と言われている。


森の木が一部枯れた。

森で狩猟した生命を食物として頂いた。


そんな小さな死一つ一つを糧にエルフは、長ければ数千年という長寿を成すのだ。


では自ら争乱を巻き起こし、数百年単位で返り血を浴び続けた私の寿命は?


答えるなら至極簡単な事であった。


私の個体としての種族は進化していた。

エルフからハイエルフへと。



ハイエルフは寿命すら超越したエルフ。

そして何より、どれだけの傷を負おうが一瞬で治るような、化け物染みた回復能力が特徴だった。


気付くのが遅すぎた…。



最早挑む者すらいない環境を、自らの手で生み出してしまったから。

最早自殺すらも出来ない状態に、自らの手で陥ってしまったから。







死にたい。


死にたい。


死にたい。





死にたい。






神の啓示と自分が信じたものは本当にそうだったのか?

…どうだっていい。


そんな事は分からないし、分かった所で最早どうにもならないのだから。


死にたい。




死にたい。




気が狂うのなんて、時間の問題だった。

どう足掻いても自らの根底の欲求が、満たされなくなってしまったのだから。





死にたい。





死にたい…。







誰か…












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個体例 No.1…現地民:A

世界 …剣と魔法の世界

死亡原因 …星の寿命

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