修復屋さん、始めました:お金の制度、こんなんだったとは知らなかった……。
国立第一冒険者養成学舎を退学した。
学舎生活、寄宿舎生活が息苦しかった
とか
人間関係が嫌になってやめた
っていう理由じゃなくて、そこにいてもらっても何の意味もない、と多くの人に思われたから。
意味がない、と思われるより、いてくれて助かった、と思われたいし。
ありがとう、と思われないこともある。
でも、それはそれで気にしない。
見返りは求めるな、と言われてたし。
まだ早いけど、衝動を堪える助けになってくれた勇者のみんなや、僕の痣に刻まれた紋章について諭してくれた先生達のように、誰かにとってそんな人達みたいになりたい、と強く思えるようになったから。
「その能力なら、修復の仕事なんかいいんじゃない? 魔力が切れることはないだろうし」
「もしそのつもりなら、ルスターの希望通りとはいかないが、場所は用意しよう。家賃は必要ないから、お金のことなら生活費だけ考えればいいんじゃないか?」
先生方、学舎からの援助もあって、修復業に力を入れることにした。
それはいいんだけど……。
お金の制度が面倒くさい!
前世では、お金の単位は円で数字を使ってた。
なのに現世は枚数で数えられてる。
何でそうなってるの?
面倒くさくないの?!
前世の記憶と照らし合わせると、銅貨一枚は十円くらい。
ここからが問題。
銅貨十枚で銅弊一枚。
銅弊十枚で銀貨一枚。
銀貨十枚で銀弊一枚。
銀弊十枚で金貨一枚。
金貨十枚で金弊一枚。
だから買い物をして会計する時に、「それは銀貨五枚と銅弊一枚に銅貨一枚だよ」なんて言われ方をされる。
その枚数を持ち合わせてればいいけどさ、ない場合、僕が困る。
その価格に銀弊一枚出す羽目になったら、「銀貨四枚に銅弊八枚と銅貨九枚の釣りね」なんて言われた日には、そのつり銭、正しいの? って。
あってるかどうか、すぐに判断できないんだ。
ちなみに弊ってのは、四角い板だね。
僕の手の平くらいの大きさ。
金弊だけは大きくて、手全体の大きさくらい。
でも金弊って見たことないな。
それもそうだ。
銅貨が十円なら弊は百円。
銀貨で千円だもんな。
金貨なんて十万円だよ。
その十倍だよ?
前世だって見たことないよ。そんな札束。
だから、算数の授業はついてこれたけど、お金の勘定はまだまだ慣れそうにない。とほほ。
※※※※※ ※※※※※
首都サンミアには、繁華街がたくさんある。
その中で特に賑やかなのは、地図で見たらその中央と四隅に当たる五か所。
その五か所はすべて、東西南北に伸びる大通りに囲まれている。
学舎は、中央の繁華街に歩いて行ける距離にある。
けれど、他の四か所へは、馬車か何かに乗らないといけないくらい遠い所にある。
その中の、地図で言うと右上隅。
サンミアの北西の繁華街の、更に北西側の角。
東西、つまり横方向に延びる大通りと、その大通りから南、縦方向に伸びる大通りとの丁字路があるんだけど、その縦の大通りが横の大通りを突き抜けて北方向に進める道路もある。
けどその道路は大通りと比べて狭く、袋小路でもないし裏通りと呼ぶほどじゃないけど人通りは少ない。
その狭い通りと横に伸びる大通りの角に、学舎が用意してくれた場所、建物があった。
周りの建物と比べてひと際狭い三階建て。
出入り口は、その細めの通りに面している。
普通の店にするにはかなり狭い間取り。
出入り口と、普通の窓の二枚分……たしか二間、とか言うんじゃなかったっけ?
だから横幅三間分?
奥行きは……そうだ、前世の家の中、思い出した。
襖が四枚の部屋があった。それが大体二部屋分くらいだと思う。
襖八枚……九枚分くらいの奥行だな。
何かの販売店にするには相当狭い。
けど僕がこれからやろうとする仕事には、修理道具とか工房の必要はない。
それに、布団とか食器とかの生活用品は新品を用意してもらってる。
二階と三階に、それぞれ台所とかトイレとかあるから、住むにも問題はない。
お風呂は近くに大衆浴場があるから、それを利用すれば、お風呂のない建物でも不便さは何もない。
食事も、そこで調理できるけど……。
食堂が目の前にたくさんあるから、外食でもいいよね。
これから僕が開く店……作業場? の建物の南側に、この繁華街の大通りがある。
その通りに面した店にはお世話になること間違いなし。
特に食堂と酒場。浴場の三つは、毎日必ずどこかにお世話になる。
酒場は基本的に、冒険者以外の子供は入っちゃいけない。
だけど、宿泊と、食堂閉店後の食事を目的とするなら問題はないんだそうだ。
ただしお酒は大人になってから。
ということで、挨拶はしに行かないとね。
あ……。
でも、僕の仕事場の名前、どうしよう。
決めないと自己紹介に困るよね。
修復屋、でいいと思うけど、僕の名前を出すのもどうかなぁ。
社会に出たわけだから、学舎時代の僕を知ってる人が来て、その時の調子で来店されても困るしなぁ。
この作業場の特徴を出すなら、鍛冶とか裁縫によるものじゃなくて魔術による修復だから……。
魔術の何でも修復屋さん、でいっか。
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