学舎と寄宿舎生活:学食で再合流 二人の魔力属性は判明したけど、僕はまだ

 今日の授業が終わり、僕たち新入生は下校時間。

 でも、お昼ご飯は学舎でも寄宿舎でも、どっちの食堂を利用してもいいみたい。

 ということで、学舎の食堂を利用してみた。


 さっきまでの授業に引き続き、一人だけで食堂まで移動した。

 でも心細さはあまりない。

 さっきの授業に参加した、同じ一年生たちもおんなじっぽかったから。

 前から顔見知りのように見える人達は一緒に移動してるみたいだけど、そんな子は二、三人くらいかな。


 それに、美味しいご飯が食べられるからっ。

 紋章のことも気になるけど、あの先生が見てくれるのは放課後になってからだから、今はご飯に夢中になっていいんだっ。

 ○○の時間がなくなっちゃう、って心配もいらないしっ。


 食堂に入ると、順番待ちの列が長い。

 料理を受け取る配膳口は、二階にも三階にも、上の階にもあるけど、注文の受け付けは一階しかないみたいだからしょうがない。

 でも、そんな長い列を待ってるのも苦にならない。

 苦しい思いがいつ終わるのか分からないことほど辛いことはない。

 けど、一人ずつ注文を受け付けてくれるんだから、いつかは自分の番が回ってくる。

 楽しみで仕方がない。


 メニューの見本は注文受付の手前にある。

 その見本全部が目に入るくらいに列が進む。


「どれがいっかなー。どれもおいしそうだなー」


 前世の記憶がまたよみがえる。


 丼物、麺類、定食、デザートなどなどの名前が、その見本一品一品を見るたびに思い浮かぶ。

 味の記憶があってもおかしくないのにな。

 でもおかげで、味わう楽しみも増えるってもんだよねっる

 んー……どれがいいかなぁ……。


「ねぇ、君……って一年か」


 突然、後ろにいる人から声をかけられた。


「え? あ、はい……」

「早く選んでくれない? 前がかなり進んだよ? みんなも急いでるんだからさ」

「あ、ご、ごめんなさいっ!」


 やらかしちゃった……。

 見ても迷うなら、見ずに決めよう。

 目を閉じて指をさしたそれが、今日のお昼ご飯っ!


「定食……だね」


 記憶によれば、生姜焼き定食。

 これに決まり。

 でも、ちょっと心配事が一つある。

 それは注文の受け付けの時に聞けばいいや。


「はい、次の子、注文は?」


 受け付けのおばちゃんが身を乗り出して聞いてきた。

 同学年の子よりも体は細いし背も低いからなぁ。


「えっと、十八番って書かれてた料理を……」

「はいよ、生姜焼き定食ね」


 前世のものと名前がおんなじだった。

 まぁいっか。


「で、ご飯のお代わりってできますか?」

「もちろん。でももし食べきれなかったら、弁当みたいにして持ち帰って、寄宿舎で食べてね」


 ということは……。


「じゃあおかずの量も増やしてもらえるんですか?」

「ん? そりゃもちろん……」

「じゃあおかずは全部二人分にしてくださいっ!」

「え? えぇ……まぁ、いいけど……そんな小さい体で、二人分食べられるの?」

「はいっ! だっておいしそうだからっ!」


 後ろから吹き出す声が聞こえた。

 でも気にしない。

 美味しいお昼ごはんを、時間を気にせずに食べられるからっ。


「うれしい事言ってくれるね。はい、引換券ね。先に進んでくれる? 他にも注文したい子がたくさん並んでるからね」

「はいっ!」


 そこでまた、後ろから吹き出す声が聞こえてきた。

 気にしない気にしない。

 だってとても楽しみだからっ。


 注文した料理を受け取って、空席を探す。

 けど、一人とか二人とかのテーブル席はどこも埋まってる。

 上の階に行ってもいいんだけど、六人のテーブル席に六人グループが座ってるのも見たことないし、六人テーブルの席に座ってもいいよね。

 相席だって気にしないし。


「ではっと。いっただっきまーすっ! あーんっ! ……んまっ! おいひーいっ! はむっ! はぐっ!」


 ……あれ?


 前世の時も、一人きりのことが多かった。

 そして、辛い記憶しかない。

 でも、周りに人はたくさんいるけど、今も一人きり。

 だけど、前世と違って、こんなにうれしいのは何でだろう……。


 ……まぁ、今はいっか。

 美味しいご飯に夢中になれるだけで幸せだもん。

 ……きっとこのご飯を食べられなくなる時が来る。

 でもその時には、こんな楽しい時代もあったんだ、ってすぐに思い出せるように、じっくり味わって……。


「……味わうもいいんだけど、美味しくてご飯がどんどん進んじゃう。おかわりしに行こっと」


 おかずをどこかに持ってく人はいないだろうから、持って行かれたら困る、教科書とかの道具が入ったかばんをもって、お代わりお代わりっ。


 お代わりの注文は、すぐに受け付けてくれた。

 食堂の受け付けとは別になっていて、何人か並んでたけど長く待たされるほどじゃなかった。


「お、ルスター君もここでご飯食べてたのか」

「え? もうお代わりしに来たの? あたし達これからご飯なんだけど」


 いきなり声をかけてきたのは、レイン君とサクラさん。

 注文した料理をお盆に乗せて、これから空席を探すところみたいだった。


「僕が座ってる六人テーブル、空席があったから、もしこれから探すならそこにしたらどうかな? あ、誰か座ってなきゃだけど」


 席を離れている間に誰かが座ってるかもしれないな。


「じゃ、お言葉に甘えようかな」

「うん。でもルスター君の授業は結構早く終わったね」

「え? あ、そう言えば。でもちょうど時間通りに終わったみたいだったよ? それに補助魔術のクラスは十四人しかいなかった」


 人数が少ないと、先生の目も届きやすいから授業もしやすいのかな。


「二十人もいなかったの?」

「何か、授業が行き届いてそうで羨ましいっ。こっちは二十五人だったよ」


 レイン君のクラス、多いんだな。

 ということは、レイン君の攻撃魔術のクラスは二十一人か。

 環境的に、こっちの方が良さそう……なのかな。


「あ、そこのテーブルだよ……って、誰か座ってるみたい」


 僕がお代わりしに席を離れている間に、男子が二人向かい合って座っていた。

 テーブルの端の方だったから、僕らも三人一緒に座れそう。


「あ、あの、相席失礼します」

「失礼します」


 二人は軽く会釈をすると、「おう」という返事が返ってきた。

 ほぼ同時だったから、多分友達同士みたいだ。

 それを聞いて、二人は隣同士で席に座る。

 僕の席にはまだ残ってたおかずがあったから、僕の方が先に座ってたことは分かったらしい。

 僕が座ったのを見て、その二人は僕らを気にせず会話を再開した。


 ※※※※※ ※※※※※


「……という話になって、それで紋章見てもらったんだ」

「へー。で、どうだったの?」

「んと、その時間の中でじゃよく分からなかった感じ、かな」

「そうなんだ。でもみんなも見てもらったんだよね。それじゃあ詳しくは見てもらえないはずだよ」


 僕が受けた授業に、二人は興味津々だ。

 それもそのはず。


「食堂の入り口で偶然会って、二人でどんな授業だったか話ししてたの。そしたらレイン君の授業、とても厳しかったんだって」

「へえ。どうして?」


 聞けば、レイン君の魔術属性は攻撃だからそっちの授業に出たんだけど、先生はとても厳しかったらしい。

 それもそうだ。

 魔術の目標を定めて発動しても、必ずしもそこだけに攻撃が当たるとは限らない。

 ましてや、学舎や寄宿舎の中で魔術を発動させたら、本人がその気じゃなくても誰かが被害に遭ったり、建物が壊れたりすることもあるから。


 ……人の力でもそうだもん。

 その気がなくても何かを壊しちゃうことだってある。

 だから僕は、僕の体に向けて……。


「……で、ルスター君、聞いてる? 僕の属性は光系統らしいんだ。人によって大きさとか線の太さとか違うけど、太陽の形してると例外なく光系統なんだって。死霊系の魔物にはよく効くらしいよ?」


 人に当てたらどうなるんだろう?

 どんな怪我を負うのか想像もつかない。

 太陽だからと言って、熱がどうのってことでもないよね。


「あたしの回復系は、怪我の治療が中心みたい。レベルが上がると体がぐしゃぐしゃになっても元通りにできるくらいに治療の力があがるらしいって。早くそれくらいに辿り着かないとなー」

「で、ルスター君の魔術の効果はどんなのか分からないままなの?」


 分からなくはない、とは思うんだけど……。


「先生達は上級生の午後の授業があるから、それが終わった後なら見てあげられるから聞きに来てもいいよって言われた」

「僕もついて行っていい?」

「あたしも知りたいっ」


 僕の紋章なのに、二人は自分のことみたいにはしゃいでる。

 まぁ、僕も、どんな系統か早く判明してほしいから早く聞きに行きたいと思ってる。

 けど、授業が終わるのを待たないとなぁ。


 そうそう。忘れてた。


「シュース先生とラミー先生に聞きに行かなきゃ」

「聞く? 何を?」

「実は……」


 あの先生が言うには、この学舎内に限り最強の魔術師は、寄宿舎のあの二人の先生である、とのこと。

 そのことを二人に伝えたら……。


「うそぉ?! そんな話もしてたの?!」

「どんだけ楽しい授業だったんだよ! 補助魔術の授業はっ!」


 ……あの二人の先生には驚かないのかな……。


 ※※※※※ ※※※※※


 お昼ご飯を食べ終わった僕らはそのまま寄宿舎に戻った。

 ちなみにご飯は全部食べ切ったから、お持ち帰りはなし。

 美味しかったー。


 で、寄宿舎に帰り、部屋に戻る。

 カーク君達はいなかった。

 けど、学舎に持っていく道具や教科書は、それぞれの机の上に置かれている。

 三人でどこかにお出かけしてるのかもしれない。

 ま、そんなことよりも、早速先生の部屋に突撃してみた。


「……まったく……お前らもか」

「ローマン先生には困ったものね。評判はいいけど、ちょっと口が軽くない?」


 本当に困った顔をされてしまった。

 ……でも、お前ら「も」?


「あの、先生。も……って……ひょっとして……」

「あぁ。補助魔術の授業を受けた者、みんなが別々に聞きに来た。お前が最後の一人ってこと」


 ……それもそうか。

 あんな話し方されちゃ、確認したくなるもんなぁ。


「……卒業まで、みんなここで集団生活をするんだ。しかも、帰省の許可は滅多なことでは下りない。部屋は、寝室は個別だがそれ以外は必ず誰かと顔を合わせる。しかも、必ずしも気に入った者同士が同室というわけじゃない。問題は必ず起きる」

「先生達が監視するのは寄宿舎にいる子達じゃなくて、その問題が起きるかどうかを監視してるの。問題が起きてこじれると、簡単に解決できる問題もできなくなっちゃうから」


 問題を早いうちに解決するための方法、ということなんだな。


「そのことを知ってる子もいるし知らない子もいる。知らないまま卒業する子の方が多い。言わなきゃならないことは言うべきだが、言う必要がないことは、言わない方が問題が起きにくくなるし、お前たちが言ったところで、お前たちに何か得することがあるかと言われれば……ないだろ?」


 まぁ、確かに。


「子供達同士で問題が起こり、子供達同士で話し合いだのなんだので円満に解決できればそれに越したことはない。だがこじれて第三者の登場が必要になった時には先生達の出番になる。けれども、その時に、何も知らずに首を突っ込むよりも、いろんな情報を持った上で首を突っ込んでもらった方が、より早く解決できるだろう?」


 それはまぁ……そうですね……。


「そういうことを知ってたらこんなことをするつもりはなかった、なんて言い訳は、反省でも何でもないの。ここで問題を起こしたがる子がその気持ちに変化がないまま卒業して冒険者になって、とてつもなく強くなったら、魔物よりも厄介な存在になるのよ。そうはならないための指導も兼ねてるから」


 ……こんな先生、前世にも僕のそばにいてくれたら、こんな切ない記憶なんか持つこともなかったろうになぁ……。


「ま、誰とでも仲良く生活できるようになれば、何の問題もない、ということだな。……どうした? そんなに落ち込むような話じゃないだろ」

「あ、うん、はい……」


 いかんいかん。

 つい考え込んじゃった。


「ま、先生達の能力の話よりも、もっともっと知らなきゃならない大切なことがたくさんあるんだからな。そっちの知識や情報をたくさん身に付けることだ」

「はい、分かりました」

「……お前達もだぞ? レイン、サクラ」

「は、はいっ」

「分かりましたっ」


 この先生達、寄宿舎……この区域内の隅々にまで目が行き届くんだろうなぁ。

 なのに、何でもかんでも口を出すって感じでもなさそう。

 けど、手に負えなくなる前に、手を伸ばしてくれる。

 勇者のみんなは、この紋章の刻印だけでも十分って言ってたけど……。

 ここの生活も、とてもありがたい、と思う……。

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