学舎と寄宿舎生活:三年生になって、新たな術を教えてもらいました
三年になり、他のパーティとの、学舎内での合同訓練も始まった。
「お前ら、左に回れ!」
「無理無理! 俺らのレベル、お前らと同じに考えるなよ!」
僕らよりも戦闘レベルがかなり上の魔物が、目の前に急に現れたら、という想定で。
体育館の中心から何メートルかを戦場に見立て周囲を衝立と真っ黒なカーテンで囲む。
中にいる僕らに気付かれないように、先生が外から大きな岩か何かを内部に勢いよく押し込む。
それが魔物代わり。
固い大きな岩を砕くことができたら討伐成功というわけだ。
「おいルスター! 無駄にぶつかってくるなよ!」
「ごめんっ!」
相手はただの岩。
けれど本番さながら。
十回や二十回、武器を当ててもびくともしない。
そんな中、僕の役目は攻撃や回復アイテムを持って、必要とする仲間に手渡すこと。
そして、壊れかけた防具や武器の修復修繕。
けど、修復の魔術を使う時は相変わらず。
魔力が消費される証になるようなものは見えず、接触するだけで発動できるものだから、術をかけられた相手は行動の邪魔をされたとしか思えない。
で、みんな行動中だから、ただ触っただけでも、ぶつかったと思われてしまう。
そういうことを言われても「防具が脆そうだったから」なんてことを言ったところで、話を聞く暇もない。
ごめんの一言で終わらせた方が、行動に集中できる。
けれど、それが後を引く原因にもなるんだよな。
※※※※※ ※※※※※
その岩を袈裟切りで切断できた。
訓練はそこで一区切り。
休憩しながらのミーティングが始まった。
「一々ぶつかってくるの、やめろよな」
「え? えっと」
「目標から距離を置こうとしたときに、押された感があって、そしたら後ろにお前がいるんだもんよ」
「いや、バーナー君の防具の背中のところが壊れそうだったから……」
「バラバラになるわけじゃないだろうが。カーク君、よくこんな奴と一緒に行動できるな」
他のパーティと組んでの訓練が終わった後のミーティング。
必ずそんな文句を言われる。
「始まる前に説明したわよね? ルスター君は、無痛と修復の術が使えるって。しかも無詠唱で触るだけで術が発動するって」
サクラさんが弁護してくれた。
けど反論されてしまった。
「すぐにぶっ壊れるわけじゃないんだろ? ちょこっと欠けたって防御力はさがりゃしねぇだろ。そうになっただけでも一々触られると、こっちだってそいつに怪我させないように気を遣わなきゃなんねぇし、そんな考えが増えるだけでも面倒なんだよ。ただでさえ、レベルにかなり違いのあるお前らと連携とらなきゃなんねぇのに」
「でも、防御力を疎かにしたらダメでしょ?」
「回復術使ってくれるんだろ? その間に防具を修復してくれりゃいいじゃねぇか」
そういう考えが、回復術士の負担が大きくなるってのに。
無理せずに、レベルが上の者を中心に作戦を展開していけばいいだけのこと。
まぁレベルアップのおかげで、サクラさんもそれなりに逞しくなってきてるけど。
「そういう便利屋みたいに回復術士を扱うから、疲れが抜けきらなくて、退学するくらいにまで追い詰められてるの分かってるの?! あたし含めた、残ってる回復術士の人数、さらに減らすことになるの、分からないの?」
三年生にもなると、気弱そうなサクラさんも気丈な面を見せるようになってきた。
でも、レベルが半分以上も下の相手に腰が引けるわけはないか。
とか思ったら、他のパーティのメンバーの一人、バーナーにさらに追い打ちをかけている。
「戦い方に工夫しないからレベルが上がらないんじゃないの? カーク君は逆に、余計な世話すんなって遠慮して、あたしに他の人の回復を頼んだりするんだよ? レベルの上がり方に違いがあるのって、そういうところじゃないの? レイン君もリーチェさんもラーファさんも、ちょっと怪我したからってむやみに回復頼みに来ないし。だからあたしはこうして何とか体力が続いてるんだけど。そっちは使い潰した形じゃない!」
バーナー君のパーティにも回復術士はいた。
でも三年になる前に、いいように使われて疲労が溜まって気分もなかなか晴れず。
入学した動機はしっかりとしたものがあったらしいけど、心が折れた、と先生から聞かされた。
「回復役が回復しないで何の役に立つってんだよ! 役に立つようなことをさせないと意味がねぇだろうが!」
「そんな考えを持つ人の道具じゃないのが分からないの? 楽して戦闘で勝とうとするからレベルが上がんないんじゃない!」
「ぐっ……」
レベルが上がった理由は別にあるんですが。
「お前ら、言い争いして何か解決できる問題があるのか? それで実践に役立つことができる何かを得ることができるのか?」
何というか……冒険者としての風格が出てきたんじゃなかろうか。
カーク君がゆっくりと僕らに近づいてきた。
「とりあえず実戦では、たくさん叩かなきゃ倒せない魔物もいるってことなんだろ? ということは、たくさん叩くことができれば、レベルが低くても倒せるってこった。合同で実践するってことは、レベルが低い者にとっちゃ、高くできるチャンスだろ。高い者の意見を聞くのも収穫だと思うんだが?」
「それは……」
レベルが下の、ひねくれた性格の人が聞いたら嫌味に聞こえるんじゃなかろうか。
でもそんな人達でも、レベルが上の者の言うことに反論できる立場にはなれない。
冒険者としての活動についての意見は、僕らのパーティが主張が聞き入れやすい状況になっている。
恩に着せるつもりは毛頭ないんだけど、カーク君達に自由に物を言わせていいものだろうか、という悩みも出始めている。
「まぁルスターのやつは、パーティごとの活動でもちょくちょくそんなことをする。それでもサクラさんに次ぐ回復役はしてくれてるから、格段にレベルは低くてもそれなりに役に立ってる。お前らにも回復アイテムの手渡ししてたろ? 俺はよく見ちゃいなかったけど」
それは、きっちりと仕事をしたはず。
そっちのパーティには回復役がいない。
アイテム持ちの役割を持ったメンバーはいたようだったけど、物的に数に限度が目視できるから、少なくなると不安になる気持ちも分かる。
だから僕は、こっちとそっちの両方のパーティの回復役としても動いてたし、それで助かったメンバーもいた。
だから、そのことについても反論される謂れはないけども。
「でも確かに、無駄な接触は、集中力が削がれる。修復の術とか言うけど、修復されてる場面は見たことがない。見る余裕もない。ほんとに修復されてるのかどうかも疑わしい。ま、練習じゃ別に気にしないけど実践じゃ大怪我の元になることもある。邪魔どころか、足引っ張るような真似は止めろよな。レベルだけ見たって、俺らと比べても格段に下なんだしよ」
擁護と責めるのを一緒にされても反応に困る。
しかも、僕に向ける口調は、乱暴に聞こえるのは気のせいではない……と思う。
「じゃあ今日の授業はこれくらいにしようか。レベルは一つくらいは上がってるとは思うが、過度の期待はしないように」
冒険者の活動の授業は、洞窟の中でなくてもレベルのチェックは必ず行う。
先生の言う通り、レベルは一つ上がってた。
僕を除いた僕らのパーティは高レベルだけど、互いに連携を取っての行動故に上がったのではないか、との先生の談。
この時間ではレベル譲渡の術は使っちゃいないから、みんな普通にレベルアップできた、というわけだ。
もちろん僕も。
「ではこの授業はこれで終了。解散!」
「はいっ! ありがとうございましたっ!」
の挨拶をすると、授業が終わるチャイムが鳴り響いた。
みんなは体育館を出て次の授業の教室に向かう。
最後に出ようとした僕は、先生から呼び止められた。
「学長がルスター君を呼んでる。ある術を授けたい、とのことだ」
「え?」
「俺もそうだが、実践の授業の始めと終わりにレベルのチェックをするだろ?」
「え、えぇ。そうですね」
「前回の授業の終わりと次の授業の始まりで、レベルが違うことがあるらしいな」
「あ、はい。寄宿舎で時々、レベルを譲ることがありまして……」
健康不良の回避のための手段は、サクラさん脱落防止のため。
僕らには絶対に必要な人材。
その結果、その矛盾があからさまになる時がある。
その矛盾を突かれるたびに何とか誤魔化すんだけど、矛盾が起きるのは僕らのパーティのみ。
先生への信頼も薄れつつある、という心配が、先生達の間で起こってたようだった。
「つまり、授業以外でレベル数を譲る可能性がある。それを見越して通達しないと、お前、自分の首を絞めることになるぞ? その能力はみんなに内緒にしておきたいんだろう?」
「え、えぇ、そうですが……」
それが学長に呼ばれる件とどういう繋がりが?
「そのレベル数を見越したうえで、お前はどれくらいのレベルだと通告されたいかを、鑑定する先生に報せる必要があるし、鑑定の先生はそれを知りたがってる。先生方、みんなお前に協力しようって心づもりだ。だがお前が授業外でそういうことをすると、その心づもりが無駄になっちまう」
そこまでは考えていなかった。
そこまで僕のことを心配してくれてたのか、と今更に気付いた。
つくづく僕の現世は、スタートでこけたけど恵まれている。
「だから、その無尽蔵の魔力があるなら、自分で自分のレベルを鑑定できる術を使えたらいいんじゃないだろうか、って学長のお考えでな。今日の放課後、学長室に行ってこい。いいな?」
申し訳なさと有り難さで胸がいっぱいになる。
思いもしない心づくしをもらってばかりだ。
※※※※※ ※※※※※
先生から言われた通り、この日の授業が終わって学長室に向かった。
部屋に入り、学長の前に立つ。
「君がここに来た、ということは、リューガ先生から言われたのだな?」
「はい。自分の勝手で先生方に心配かけてしまってすいませんでした」
学長は、いやいや、と僕の謝罪を否定した。
「思いもよらないことが起きてばかりだから、そこまで気が回るはずもなかろう。けど、流石に先生方も君の行動を把握しきれなくなったようでな。君の能力を使うのは、もちろん君の意思次第。その制限を強制するのも変な話だしな。だが、少しでも先生方の心労を減らしたい。そのために、ステータスやレベルを見ることができる術を授けたい。ただし、他の人のも見れるようにする。だから悪用するんじゃないぞ?」
学長の最後の一言は、僕ににらみを利かせたような感じがした。
悪用……興味半分で、みんなのレベル以外のステータスを見るな、ということなんだろう。
もちろんそんなことをするつもりはない。
「あの……魔物の戦闘レベルも見ることができるんですか?」
「もちろんだ」
「なら、やみくもにレベルを譲ることもなくなりますね」
「そういうことだな。……約束できるか?」
「……僕は……」
レベルを譲るときの僕の思いは……。
家族と一緒に過ごしていた頃の僕のように、周りには絶望しか感じられないような思いをしてほしくない。
だから、周りにいる魔物を圧倒できるくらいにレベルを上げてほしかった。
ただそれしか考えられなかった。
そのことを学長に伝えると、僕に優しい笑顔を見せて、そうか、とだけ返ってきた。
「……なら、鑑定の術を授けるとするか」
先生達にも、みんなにも、悲しい思いをせずに済む手伝いができれば。
そんな思いと共に、新たな術と共に、学舎と寄宿舎生活の三年目が始まった。
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