学舎と寄宿舎生活:無事帰還 でも異常事態が発覚しました
僕らのパーティは、出発した時はまだマシだった。
でも、目的半ばで先生から強制帰還を命じられた。
空気が重い。
「お疲れ様です」
という声をかけてくれたのは、僕らの後に出発したパーティに付き添っていた先生。
すれ違いざまにそんな挨拶をしてくれた。
「お気をつけて」
けど、それにまともな返事ができたのはメロウ先生だけだった。
思い返してみれば、ひょっとしたら僕らは浮足立ってたのかもしれない。
初めての実践ということで、感情は緊張と興奮が入り混じっていた。
冷静に努めたつもりだったけど、想像してたことと目の当たりにした現実では、受け止め方はやっぱり違う。
それに、メロウ先生が学舎に戻るように命じた理由も明確にしていない。
確かに雰囲気は悪くなったけど……。
「お前がもう少しうまく立ち回ってたら、最後までやり遂げてたはずだったのによ!」
そんな文句が前衛から聞こえてくる。
レイン君もサクラさんも、まだ活動できるという確信があったんだろう。
時々後ろを振り返り、当てつけるように先生に不満げな顔を見せる。
そんな険悪な雰囲気の中でも、先生は全く気にしてなさそう。
逆に時々、帰り道の僕らを、もっと急げと急かすほど。
何を言っても、どんな態度をとっても先生の意志は変わりそうにない。
レイン君とサクラさんはそのうち俯いて歩くだけ。
カーク君達は、怒りの矛先を僕に向けたまま、僕らはこうして帰途についた。
※※※※※ ※※※※※
学舎への戻りには、特に何事も起きず。
無事、と言うには、いささか僕らの雰囲気が不穏過ぎた。
それでも怪我一つなく戻ることができたことは、無事に戻ることができた、とも言えるんだろう。
「ただいま戻りました」
「おや、メロウ先生じゃないいですか。みんなもお帰り。……ちょっとお早いお帰りのようですね」
「えぇ。ちょっと報告すべきことが起こりまして」
「何かあったんですか?」
「……いや、まずは帰還後の確認が先ですね」
「あぁ、はいはい。じゃみんな、並んで。えっと……は? はい?!」
実践に出る前のみんなのレベルを鑑定してくれたミュール先生は、戻ってきた時のレベルも鑑定して、そのレベル差で成長を記録する係みたいだ。
僕らのパーティの一人目、カーク君の帰還時のレベル鑑定で、ミュール先生は固まってしまった。
「ミュール先生。私には大雑把にしか把握できないんですが、ちょっとこれは普通じゃないかもしれないと思いましてね」
「……メロウ先生……。その判定は正しいです。……中で、何か、やらかしたんですか?」
「いえ。そうなる原因に心当たりはありません」
先生二人が、二人でしか理解できなさそうな会話をしてばかり。
それについていけない僕らは、何もすることもできず、手持無沙汰。
というか、僕はカーク君達三人にまだ睨まれている。
居心地が悪い。
「……ちょっと……ちょっと待ってください? えっと確か、出発前は……」
冒険者レベル、技術レベルの順でみんなの出発前のレベルはと言うと……。
カーク君はレベル3とレベル8。
サクラさんはレベル3、レベル9。
ラーファさんはレベル3、レベル9。
リーチェさんはレベル4、レベル8。
レイン君はレベル4、レベル8。
そして僕はレベル3、レベル10。だったはず。
それが……。
「ごめん。先生の鑑定ミスするかもしれないから……あ、出発前のレベルは正確だよ? えっと……」
最初にサクラさんの鑑定を始めた。
レベル4とレベル10。
これには見間違いはない、とのこと。
どちらもレベルは一つ上がっている。
リーチェさんはレベル5とレベル8。
初めて実践に出ると、例外なく冒険者レベルはそれだけで一つ上がるんだそうだ。
ラーファさんはレベル6とレベル11。
呪符の力の助けもあったけど、イワガメを一撃で二体倒したのが成長に繋がったらしい。
レイン君はレベル6とレベル10。
適正な攻撃手段はなかったけど、それでも果敢にイワガメの足止めに力を入れていた。
あと、効果はほとんどなかったらしいけど、自分なりに攻撃もしてたらしい。
そして、ミュール先生を戸惑わせたカーク君の鑑定。
「カーク君は……さっき見た時と変わらず、……レベル8、レベル10、です……」
「ちょ、ちょっと待ってください、ミュール先生! 確かに異様な感じはしましたが、レベルが五つも上がってる?! 何かの間違い……はないんですね?」
メロウ先生がその判定結果を聞いて慌てた。
いくら、レベルが低いと成長度は高めとは言っても、あの程度のレベルの魔物一体を倒しただけでレベルが五つも上がるなんてあり得ない、とのこと。
「信じがたいのも無理はありません。ですが……」
「出発前は冒険者レベルは3だったんですよね? 魔物三体が現れて、カーク君はレイン君と、そのうちの一体と戦闘してたんですよ?! レベル8ってことは……魔物のレベルが最低でも7はないと! けれどカーク君は、最初は何度も武器を振るってましたが、効果的な攻撃は最後の一撃だけだったんですよ。その時点で魔物とはレベルが5以上高くないと……って……」
「それだけ下回る魔物を倒してもレベルは上がりませんよね? つまり戦闘前にはレベルが上がってた、ということになりませんか?」
「……どういう……ことだ?」
メロウ先生は明らかに困惑している。
カーク君を見下ろし、その答えがどこにあるのか、頭を巡らせているようだ。
「そんなこと、僕に言われても……」
当の本人も困っている。
「そう言えばメロウ先生。さっき報告すべきことがある、と言ってましたね」
「え、えぇ。いや、カーク君に急成長を感じられたので、その報告を急がないと、と。それに、魔物討伐した後、彼らの間に不和が生じまして」
「あぁ、それで早く帰還されたんですね。それはいい判断ですが……」
いい判断だったんだ。
体力もそんなに使ってなかったし、できれば目的地まで進みたかったけど……。
「あ、ルスター君を忘れてました。えっと……は?!」
また何か?
僕、何も悪いことしてないよ?
「レベル1にレベル18?! 何ですこれ?! なんで冒険者レベルが下がってるんですか?!」
「え?!」
はい?
しかもレベル1?
「しかも技術レベルが跳ね上がってるといってもおかしくないですよこれ! メロウ先生! 一体何があったんですか?!」
「な……何も……異常事態は全くありませんでしたよ! ……カーク君、それとルスター君。洞窟で何かありましたか?」
えーっと……。
そんな極端にレベルが上がるようなことは……。
「ありません。イワガメ三体と戦闘になったことと、それが終わった後、メロウ先生から引き返すように強制された以外は何も」
「あ、待ってください。今まで……今日に限らず、これまでの初実践でのレベル差で、ここまで変化が大きいパーティはありませんでした。このパーティの活動に限って起きた異変です。彼らには普段と変わらない行動をとったと思います。だから……って……メロウ先生も付き添ってたんでしたっけ……」
カーク君の発言を遮ってミュール先生が思いついたことを口にしたけど……。
原因を突き止める話にはならないよね、それ……。
「えーと……じゃあ、学長は確か教師現役時代は闘士学部だったから、学長とベナス先生に報告する方がいいですね。って、私はここ、離れられませんから、メロウ先生にお任せしていいですか?」
「はい、もちろんです!」
なんか、大事になりそうな予感……。
※※※※※ ※※※※※
メロウ先生は僕達六人をベナス先生のもとに連れ、そのまま一緒に学長室に向かった。
既に何らかの連絡が届いていたのか、学長は自分の席に座って僕らを待っていてくれてた。
「大体のことは聞いている。えっと、カーク君、レイン君、ルスター君、リーチェさん、ラーファさん、サクラさん、だったね。……みんな、初出動で大変だったろう。まずはご苦労様。で、もう少し詳しい話を聞きたいから、現場とは状況が違うが、ちょっとここで再現してもらえるかな?」
僕ら一人一人の名前を呼んでくれたことにちょっと感動した。
生徒全員の顔と名前、憶えてるのかな……。
「確か、イワガメと戦ったと聞いているが、どんな感じだったのかな?」
学長からの質問に応えるかたちで、僕らは身振り手振りも加えて、イワガメと出会った時からの説明を始めた。
「どの位置取りで何をしたか、そしてどんなことを喋ったか、と言うのも再現してほしい。ただ、その時に感じたことや思ったことは説明しないように。でないと再現に支障がでるからね」
確かにそうだ。
思い込みで、やってないことをやったように報告してしまうかもしれないし。
ただ、カーク君達前衛が僕に睨む目つきは、あの時そのまんま。
三人をちょっと怖く感じた心の中も再現できそうな……。
そして一連の僕らの行動の再現が終わり、メロウ先生は「彼らの説明に、私から付け加えることは特にありません」と報告を締めた。
学長とベナス先生は「なるほど」と唸るように言う。
互いに何やら言葉を交わしてるけど、僕らにはよく聞こえない。
その会話が止まって、二人の先生は僕らに視線を戻した。
深刻そうに眉間にしわを寄せているけど、そんなに重くない口調で僕らに話しかけてきた。
「……君らに起きた異常事態だが、君らのパーティに起こったことではない。とりあえず、レイン君、リーチェさん、ラーファさん、サクラさんは授業に戻っていいよ」
と、四人を部屋から退室させて、メロウ先生とカーク君と僕だけが残った。
「……まず、カーク君」
「はいっ」
何を言われるか想像もつかない。
それはカーク君も同じようで、やや緊張してるのが、その返事で分かる。
「今回は……たまたま、と思っていいかもしれない。レベル的に見てとんでもない成長を遂げることができた。だが今後はそんな幸運に遭うことはないだろう。本来、目を見張るくらいの成長をするには、それだけの苦労……苦難や苦痛を伴うものだからね」
「あ……はい……」
緊張してた割には、ある程度予想できた話しかしてもらえなかったことに拍子抜けしたようだ。
僕には特別な力がある、とか思ってたのかもしれない。
学長は、さて、と僕の方に目を向けた。
カーク君にはそんな話だったから、僕には、レベルの判定間違い、なんて話を期待してたんだけど……。
「……話をする前に……カーク君への用件は終わりだから、君も授業に戻りなさい」
「え?」
異常な鑑定結果はカーク君と僕だけだから、共通した何か……問題のようなことが起きたんじゃないか、という想像もしてたから、先にカーク君を帰そうとする学長にちょっと驚いた。
それはカーク君も同じようで、何を言われてるのか理解できない感じだった。
「うん。君の身に起きた異常は、その場限りのことだったろうからね。だからあの四人には聞かせる必要がない、と思ったから授業に戻したんだよ」
「は……はぁ……」
カーク君はそんな話を聞かされても、今一つ納得できなさそうな感じ。
それでも特に用事もないこともあったし、まだ授業中だ。
学長の指示に従うよりほかはない。
カーク君が学長室を出てその扉が閉まる。
静かになった学長室の中、まずベナス先生が口を開いた。
「……みんなで洞窟内での行動を再現して見せてくれたね。どういう行動をとったか、と言う説明はあれで十分だった」
「あ、はい……」
「それと、説明以外で気になることが一つあるんだ」
「え?」
説明、報告以外のことはほとんど何も喋ってないはず。
なのに気になることって……。
「君の頭皮……頭のてっぺんの三つの色鮮やかな痣があるね」
「あ、はい……」
ドラゴンの歯が刺さって、そのまま同化したその跡のことだな。
その痣があるってことは、あんまり意識しなくなったけど……。
「オレンジとか黄色とか、青とか、いろんな色が重なり、くっついているんだが」
「は、はい……」
「その色の位置が、三つとも変わってるのは自覚できてるかな?」
はい?
えっと……どういうこと?
「色が痣の範囲内で移動してる、と言った方が正しいか。もちろん三か所とも、だ」
え……。
なんか、急に頭のてっぺんがむずむずしてるような……。
もちろん気のせいなんだろうけど、言われなきゃ気付かないよ、そんなの。
で、それって……。
「それって……どういうことなんでしょう?」
自覚してたら、いつその色が移動したかってのも分かっただろう。
移動することによって、自分の体にどんな影響が出るか、なんてことも分かったに違いない。
でも自覚症状は全くない。
だから自分でも分からないことなんだけど……ひょっとして、学長とベナス先生には分かってることなんだろうか?
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