学舎と寄宿舎生活:初めての合同実践の訓練

 紋章がなければ使うことができない魔術だけど、紋章がなくても使える術はあるらしい。

 魔力がなければ使えないけど、魔力は必要ない。

 だけど魔力を持ってない人は使えないという、ややこしい説明を聞かされた。


「使っても自分や周りに何の影響も及ぼさない術がそれに当たる。ステータスを見ること自体何の変化も起きないだろう?」


 魔力の効果がどこにも波及せず、そこで終結するもの。

 魔術や魔法というより、ただの術、ということらしいが、魔力がない者には使えない物なので魔術の一つと数えられているらしい。

 何だかよく分からない。

 が、使えるに越したことはない。

 それに、先生達の余計な気苦労をさせずに済む分、こっちも気が楽になる。

 有り難く活用させていただきます。


 ※※※※※ ※※※※※


 さて。

 冒険者レベルを上げるには、魔物との戦闘や魔物が潜んでいる場所に足を踏み入れ探索する、などがある。

 探索に留まるなら、そんなにレベルは上がらない。

 極端にレベルを上げたいならば、レベル差が激しく上回る魔物との戦闘や、あるいは大規模な戦争や長時間にわたる戦闘などを経験するのが効率的。


 けどこの学舎の授業では、そんな戦争に出したり強すぎる魔物との戦闘を経験させる授業はない。

 だから、実践の授業を始めて一年間たって、冒険者レベルが20を超えるのは有り得ない。

 一度に四体以上の魔物と戦うことも、戦闘レベルが4以上の魔物と戦わせることはなかったから。

 レベルが10くらいまでなら、同じレベルの魔物を討伐してレベルアップを狙うなら、一人当たり二、三体必要だ。

 けどこちらは常に六人以上。

 一度の実践で遭遇する魔物の数は、せいぜい二体くらい。


 でも、レベルアップすれば体力も魔力も上限が上がる。

 するとやる気も上がって、次第に長い時間、洞窟の中に留まることもできる。

 相乗効果、というやつか。

 僕らのパーティでは、それがうまく働いてくれた。


 で、三年になって、最初の合同実践の始まる前の、冒険者と技術のレベルなんだけど


 カーク君は23と31

 ラーファさんは21と30

 リーチェさんは21と31

 レイン君は21と33

 サクラさんは26と43

 で、僕は、10と55


 一緒に実践訓練を行うパーティは、体育館で一緒に訓練したメンバー。

 彼らはこんなレベルだった。

 最初の三人が闘士学部。

 後の三人が魔法攻撃並びに回復アイテム使用担当。


 バーナー君が10と21

 リッカさんが9と18

 リィオさんが9と15

 ラーク君が8と19

 マイナさんが9と20

 ライア君が10と19


 レベル差の最大が三倍以上。

 実践の授業が終わるごとに、先生達はその時のレベルを教えてくれる。

 先生は他の生徒のレベルを教えない。

 その必要はないし、羨ましいあまりに喧嘩が起きたりすることもあったらしい。

 秘密にはしないけど、余計なことは言わないって感じだ。

 けど、生徒同士でそのレベルを教え合ったりするから、誰がどれくらいって言うのは大体知ってる。

 初の合同実践の前のレベルを鑑定してもらった僕らはバーナー君達に、改めて羨ましがられた。


「二年の時の場所よりもさらに奥に進むからな。協力して進んでいかないと、どこで途中で引き返す羽目になるか分からない。そしたら思うようにレベルアップはできなくなるからな」


 その高いレベルを全く意識してなさそうに、カーク君はバーナー君達に諭す。

 確かに魔物と出会う前にすぐに戻るようでは、レベルアップどころか成長もできない。


「お……おぅ……」


 で、バーナー君達は、普段のカーク君からは想像できない真剣な態度だったから、妬ましい気持ちがどこかに行ったようだった。

 いつも嫌味を言われてる僕も、人の上に立つにふさわしい真摯なカーク君の態度に、ちょっと戸惑いを隠せない。

 鑑定結果も人を成長させるんだなぁ……。


 ※※※※※ ※※※※※


 今までは六人での活動だった。

 先生の同行はあったけど、手出しはほとんどなかったから外す。

 それが十二人。

 二倍になっただけでも大勢って感じがする。

 勇者達の行動を見慣れてたからかなぁ。

 入学以来連絡はしていない。

 あの人達も僕には、自立してほしい、と思ってるだろうから、なるべく頼らないようにしてた。

 頼るなら先生に頼るべきだし。


 さて。


「先生達が言ってくれてたことを繰り返すけど、とにかくいろいろ経験することを目的とする。けど、できれば、レベルが低い者から順にレベルアップを図っていく」


 カーク君はすっかりリーダー格だ。

 僕への嫌味をゼロにしてくれれば、完全にリーダーとして成長すると思うんだけど。


「すでに何回か到達してると思うけど、冒険者達の大通りの向こうのエリア。出現する魔物の戦闘レベルは5以上……って話だったよな? 俺達はまだレベル鑑定できないけど、上限だって9って先生は言って

 たから油断しなけりゃバーナーチームだけでも何とかなるはずだ」

「一度に現われる個体も四以上はみたことないしね」


 そのカーク君よりもレベルが上のサクラさんも、周りを見る余裕も持てるようになったようで何よりだ。

 今までのように、回復のお願いに振り回されることも少なくなったし、体力も気力も満ち溢れてる感じが今までより強くなってる。


「つまり、魔物が現れたら、よほどのことがない限り、バーナーチームに託そうと思う。……ルスター、お前も混ざれよな」


 レベルだけ見たら、バーナー君達とほぼ変わらないからなぁ。

 でも魔物と一戦だけでも交えたら、きっとレベルは二十くらいまでは跳ね上がる。


 寄宿舎でもレベルを譲ることがあるかもしれない、と想定している。

 自分のレベルがいくつになったとしても、12と報告してほしいことを先生に予め伝えてある。

 僕もレベルを鑑定できるようになったから、大体平均になるように、バーナーチーム全員に振り分けることにする。

 で、次の実践までに、寄宿舎で誰かにレベルを分配して12まで下げれば、次の授業の鑑定では何の問題も起きないはず。


 寄宿舎でのレベル譲渡の相手は、やっぱり回復術士志望の人がいいかな。


「俺が先行するけど、俺がやるのは魔物を見つけるところまで。見つけたらそっちのパーティの後ろに回るからな」

「お……おう……」


 なんか心配そうにするな。

 出現する魔物のレベルはほとんど下だぞ?

 集団だって、こっちの人数以上は出てこないのにな。


「落ち着いて行動すれば、戦闘での傷なら擦り傷だってつかないわよ。平気平気」

「そうそう。模擬戦とか、舎内での訓練通りにやれば怖いものなしよ。移動許可された区域の中ならね」


 ラーファさんもリーチェさんも、まるで年下の子供の面倒を見るような物言いだ。

 けど、それは意外と効果があるようで、頼りになるお姉さんを見るような、バーナーチームの面々。


 他のパーティの合同チームと比べたら、ものすごく恵まれてる環境なんだけどな。

 ……その裏舞台を知ってたら、の話だけども。


「よ……よし、必要以上の緊張はなるべくせずに、戦闘になったら確実に勝てる戦術の体勢をとるぞ!」

「おうっ!」


 けれど、そっちはそっちで統制はとれてるみたいだ。

 足並みに乱れがないのはかなり重要。

 時間目いっぱい活動できるなら、多めにレベルをあげてもよさそうだ。


 ※※※※※ ※※※※※


「リッカ! 俺の振り切った後のフォロー!」

「任せて! リィオ! 弓で追撃!」

「了解! 矢が刺さったら二人とも、そこから離れて! ライアの爆発魔法出してくれるから、その間にマイナ!」

「分かってるよリィオ! 二人ともこっち来て薬草服用!」

「おう!」

「分かった! ラーク、あたし等の防御頼むよ!」

「分かってるっ!」


 僕の出る幕がない。


 バーナー君達の攻撃が跳ね返されることはほとんどない。

 逆に魔物……多分小柄なゴブリン四体から攻撃をされる場面もない。

 魔物の隙を見つけてそこを突く。

 が、さらに追撃することなく、一瞬一瞬で体勢や位置が変わる敵味方。

 攻撃が有効だからといってそのまま深入りはせず、常に魔物からの攻撃を警戒し、次の行動を読み取ろうとしている。


 確実に勝てる戦術、とか言ってたけど、まさにそうだ。

 片やバーナー君達には、反撃をされることもあるが攻め込まれる隙はない。

 それどころか、修復の魔術の出番すらない。

 強化ならどんな時でも使えるだろうけど、破損とかひびとかなければ発動させる意味がない。

 魔物の攻撃を、武器や盾、防具で防ぐが、その攻撃自体強くない。

 そんな僕ができることと言えば、そこら辺に落ちてる石を投げつけて、魔物がひるむ時間を長引かせるくらいか。


「しょぼいことしてるよね」

「魔物に向かって突っ込んで引っ掻き回すくらいのことできないのかしら」


 後ろからの野次馬の声がちょっと耳障り。

 僕は彼らの作戦会議に出てないんだ。

 好き勝手やってたら、全員の足を引っ張ることになりかねない。

 何かの役に立とう、という色気は出さず、なるべく控えてる方が良さそうだ。


 ※※※※※ ※※※※※


 確実に倒せる方法は、それなりに時間がかかる。

 それはレベルを譲った結果の言い訳に使えそうだ。

 それに、この後、魔物の集団との戦闘は二度ほどあった。

 いずれも、こちらの被害は肉体疲労のみ。

 外傷内傷、体調悪化いずれもなしという上々の結果。


 それはそうと。


「……ルスター、つったっけ? カーク達の中でレベルが格段に低い理由が、何となく分かるよ」


 バーナー君に言われたくはないなぁ。

 確かにレベルだけ見たら低いよ?

 でも、バーナー君達と比べたら、技術レベルは格段に上だし、冒険者レベルはほぼ同じなんだがなぁ。

 なんでそんな上から目線な物言いができるのか。


「でも技術レベルは高いんだったよな。冒険者レベルはそれに基づいたレベル数になるからかなり上がるとは思うけど」


 と、バーナー君達にも、その話を覚えてる人はいたようで、こっちがこれからすることが怪しまれるかもしれないと心配するのは杞憂かな。


「みんな、お疲れ。そろそろ滞在時間が終わりになる。ここらで引き返そう。成果は帰還してのお楽しみだ」


 おっと、到着する前にレベルを譲渡しなきゃな。

 ……全員の両方のレベルは2ずつ上がってた。

 僕は21まで上がってる。

 が、滞在しただけの僕らのパーティも、やはりレベル1ずつ上がっていた。


 ということは、三度戦闘することになったゴブリン、意外と戦闘レベルは高かったのかもしれない。

 全員に一つずつ譲渡したら、僕のレベルは15になる。

 誤差は三つか。

 でも譲った相手のレベルに誤差がある、と思われちゃうな。

 うちらのパーティの鑑定結果は数字を言わず、ほぼ変化なし、と言ってもらうように、内緒でお願いしようかな。

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