学舎と寄宿舎生活:合同実践、不和の浮上
冒険者達は本来個人で活動している。
だから、パーティを組むときは、仲違いになりそうにない気の合う同業者と組むことが多い。
この、気の合う、というところは、馬が合う間柄を指すのではなく、仕事上で連携しやすい職種、ということ。
しかし、大掛かりな仕事で声をかけられることがある。
そして行動を起こすまでの準備に時間をかけられないこともある。
学舎を卒業して冒険者になったはいいけど、そんなことに対応できないようでは、あいつに仕事を任せられない、という評判が立ったりもする。
そうすると最悪廃業に追い込まれることもあるんだそうだ。
そんなことにならないように、合同実践の授業では、唐突にパーティ同士を組まされ、連帯行動をとるものもある。
僕らのパーティは、他のパーティと比べてずば抜けた高レベル。
だから合同実践の時に魔物と戦闘になると、ほとんど前面に出ない。
レベルが低いパーティにレベルアップする機会を増やしてあげる、という方針をしばらくとることにしたから。
けど、一番レベルが低い僕は、そんな彼らとほぼ同レベルだから一緒に混ざれ、とけしかけられる。
おかげで組まされたパーティメンバーにもレベルを譲渡しやすくなる。
他のパーティメンバーのレベルを上げなきゃならない理由はないけど、他の人のレベルを上げることで、カーク君達のレベルが高いことを異様に感じる人も減るんじゃないかと。
僕に目をつけられることもないに違いない、と思ってたんだけど……。
※※※※※ ※※※※※
「おい、ぶつかってくんなよ!」
相変わらず、僕の修復魔術は、一部を除いて理解されていない。
違うパーティメンバーならなおのこと。
「いや、ただ、手を当ててただけ」
「邪魔なんだよ! って、クモの奴こっちに来るしっ! うりゃっ!」
巨大な蜘蛛四体と戦闘中。
その蜘蛛のレベルは7。
今そいつらと戦ってるパーティメンバーの最低レベルは11。
しかも一人だけだから、苦戦どころか圧倒できる強さだ。
けど問題は一つある。
いくら強くなっても、装備している防具や武器は、それ相応とは限らない。
いくら強くなっても、防具なしではいつでも致命傷を受けてしまう。
いくら強くなっても、武器なしでは討伐はできない。
魔物は強くなっている。
それ以上に僕らは強くなってる。
けれど武器と防具は以前のまま。
仕方ない。
学費の中から購入された支給品だから。
それでも素手で殴ったり蹴ったりするよりは効果は高いし、魔物の攻撃を直接体に受けるよりは衝撃は少ない。
だから、そうは簡単に壊れはしない、と思い込んでしまうんだろう。
けど残念ながら、装備品と出現する魔物達との力関係は、多分次第に魔物の方が勝っていく。
レベルが上がれば生身でも、レベルの低い魔物からの攻撃ならさほどダメージは受けることはない。
が、今の僕らのレベルは、とてもそんな領域に届きそうにない。
だから武器防具の破損は完全に欠ける前に修復したい。
なのに、一戦終えた後のキャンプでは、その説明も聞き入れてくれない。
「だから、いくらレベル差が激しくったって、予想外のことが起きて戦闘中に取り乱したりしたら……」
「あるわけないだろうが! あったら支給される防具としちゃ問題になることくらい、学舎側でも分かってるはずだろ! 簡単に壊れるわけないだろうが!」
付き添いの先生に助けを求めたいけれど、こういう時には先生は手を差し伸べてはくれない。
僕らだけで解決すべき問題だから。
冒険者になったら、仲間から誤解を受けたら自分で解決しなけりゃならない。
その予行練習、ということらしい。
「それにさ、女の子の体に触りたいから、って噂もあるよね」
誤解なんて、そんな可愛いもんじゃない。
断じてそんな思いはない。
というか、壊れそうな装備品をほったらかしにしたら命にかかわることだろうに。
命さえあれば、大怪我してようが回復魔術で何とかなる。
でも命を失ったら、取り返しがつかない。
甦りの魔法もあるそうだけど、上級どころか、魔術師を超越した一部の術士しか扱えない魔法。
しかも死んで間もなくでないと効果はないらしいし、その魔法を当てにしてたら、命を大事にするがいなくなってしまう上、全ての依頼を引き受けてくれるわけでもない。
いくら先生の補佐があったとしても、その補佐を当てにして、装備の不備に気付いても放置するわけにはいかないだろう。
「……ルスター君。修復の魔術を持ってるのは知ってるけど、もう少しこう……使うタイミングを考えるわけにはいかないのかい?」
レイン君が小声で僕に聞いてきた。
僕の立場を妥協案を考えてくれてるんだろう。
ありがたいんだけど、アクシデントは僕らに都合よく合わせてはくれない。
前世でもそうだった。
体臭の治療が順調に進み、改善し、完治した。
けど同級生たちからの反応は、歓迎や労いじゃなく、まさかのいじめの継続だった。
都合のいい話は、想定通りにやってくることはない。
戦闘が終わるまで、装備の破壊は待ってはくれない。
戦闘で何事もなく終わるのは、成り行きではあり得ない。
何事もないように工夫しながら戦闘が行われ、終了するから、何事もなく終わるんだ。
誰もそれを分かってはくれない。
けど、僕の力では戦闘ではあまり役に立たないから、そういうことには目を配らなきゃならない。
というか、何事もなく戦闘を終わらせる役目を果たさなければ、ここにいる意味がないし、能力の持ち腐れになる。
「そういうわけにはいかないよ。誰も気付きそうにない傷だって、気付いたらすぐ直さないと」
「……でもその傷って、ルスター君にしか分からないんだよね?」
「っていうか、こういう場で落ち着いて観察したら、傷は見つかるよ? 僕は見つけるのに慣れたみたいだけど」
僕の返事を聞いて、レイン君は渋い顔。
サクラさんも顔をしかめて僕を睨む。
「修復の術は確かに便利で有り難いんだけど……。その傷って……こう言っちゃ悪いけど、ルスター君しか分からないことだよね。それに、何かあってもあたし達のレベルの方が高いから、守ってくれる、とか思って……ないよね?」
「ちょっと、サクラさん」
レイン君が、サクラさんの僕への疑いの言葉を止めてくれたが、その愚痴は止めてくれなかった。
「だってルスター君、あたしが具合が悪いとき、時々変なところでぶつかったり触ったりしてきたじゃない。その度に、ちょっと具合が悪くなっちゃったんだけど……。その延長って言うか……そんなんじゃない?」
慢性的な疲労をレベルアップで治してあげたときのことだ。
そういう術を使った、と明かすわけにはいかない。
明かすことを決めたとしても、それを信じてもらえるかどうかも怪しい。
みんなに聞かれたかと思ったけど、僕とレイン君しかその声は聞こえてなかったようで安心した。
けど、レイン君も僕を、何か疑うような目を向けている。
「その話はそこまでしようか。本職になったら、現状の確認とかに話を集中する。他の日常での疑惑に目を向けると、チームワークがばらばらになって、パーティが全滅、なんてことも有り得る話だ」
付き添いの先生が僕ら三人の中に入ってきた。
話が横道に逸れて授業中ということすら忘れてしまうのではないか、と心配してた僕は、ほっと胸をなでおろす。
けど、数少ない理解者からも疑いの目を向けられた。
大丈夫。
孤立なら……前世の記憶を参考にできるから、耐性なら、ある。
悲しいくらいに、ね。
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