お嬢様と初本番

第1話 お嬢様と幼馴染みと秘密の発覚

【竹居君、体調はよくなりましたか? 今日はとても楽しい時間を過ごしました。お姉さんによろしくお願いします】



 朝宮さんからのメッセージがスマホに届いていた。

 すかさず返事をする。



【もう大丈夫。今日はありがとう。俺も楽しかった】

【よかった。では、また学校でお会いしましょう】



 スマホを見て、ついニヤニヤとしてしまう。

 ゴールデンウィーク最終日。

 俺は、少しだけいい気分のまま眠りについた。



 そしてまた、いつもの学校の生活が始まる——。




「おい。竹居?」

「竹居君?」



 お昼休憩になって昼河と早希ちゃんが声をかけてくれていたけど、俺は上の空でスルーしてしまっていた。


「ゴールデンウイーク中に何かあったのか? 呆けすぎだろ」

「まあ、いろいろ」

「おっ。いいことあったようだな? 何があった? 朝宮さんか?」

「そりゃあ……いや、何でも無い」

「怪しい」


 さすがに朝宮さんと二人で大阪に行ってラブホに泊まったとか言えない。

 言いたい気持ちもある。

 でも、俺だけのことでもないから言わない。


 そういえば昼河は早希ちゃんと恋人らしいことしているのだろうか?

 そんな妄想をはじめたとき——。


 ピンポンパンポン……。


 校内放送だ。



「……1年の竹居卓也君と朝宮万莉さん、至急職員室の担任の席に来て下さい。繰り返します——」



 え?

 俺と朝宮さん?

 この声は担任の暮羽先生だ。



「おい、竹居……何やったんだ……。しかも朝宮さんもか?」

「えーっとなんだろう?」



 ざわざわ……ざわざわ……。



「やっぱりあの二人……付き合ってて何かしたのかしら?」

「まさか、朝宮さんが竹居と——あり得ないだろ」



 クラスのみんなから多くの視線を受けながら、俺は朝宮さんと一緒に職員室に向かった。




「竹居君、なぜ朝宮さんと一緒に呼ばれたか分かってる?」



 暮羽先生——若い女性の先生——は、生徒指導室に俺と朝宮さんを連行し、そう言った。


 先生は俺のことを元々知っていて、部活もせずに過ごしている俺を見かねて、声をかけてくれた。

 だから、まあなんとなく予想が付く。

 朝宮さんも気付いたのか、俺の方をちらちらっと見ている。

 多分、同じ事を考えている。


 旧校舎の音楽室の件だろう。

 本当は俺だけが使えるのだ。

 でも二人で使ってることをどうして先生が知っているんだ?

 違う可能性もあるかもしれないからとぼけておく。


「分かりません!」

「いや、嘘を付くな嘘を。ちなみに、朝宮さんは分かりますよね?」

「あの、大阪でラブ……っ」



 おい!

 そっちじゃないいい。

 俺は慌てて朝宮さんの口を手で塞ぐ。



「大阪でラブ?」



 あぶねえええ。

 ラブホテルに泊まったとか言ったら色々詮索せんさくされそうだ。

 やましいことは何もしてないけど……。

 しらばっくれても仕方ないし、朝宮さんが妙なことを言わないうちに素直に白状しよう。



「い、いえ……旧校舎の音楽室のことですよね?」

「そうよ。あれだけ内緒でって言ったのに、なに朝宮さんを連れ込んでるのよ?」

「連れ込むって……人聞きの悪い」



 怒っているような口調だけど、先生の口角が少し上がっている。

 ニヤリとしている。

 これはきっと何か悪巧みをしてそうな表情だ。

 先生は足を組んだ。



「さて、二人とも、七月に学習発表会なるものがあるのは知っているかな?」

「知りません!」

「——クラスごとに勉強の成果を大きな紙に書いて教室に貼り出して、いろんな人に見てもらう……ですよね」



 さすが朝宮さん。

 知識豊富……。俺が興味なさすぎなのかも。



「その通り。で、約束を破った竹居君には、是非楽器の発表を行って欲しいの。クラスのやらなくていいから」

「え゛」

「私ね、竹居君がテレビで演奏したサックス、生で聞いてみたいの」



 それ、公私混同ってヤツじゃないですかね。



「……嫌です」

「ほう。そんなこと言っていいのかな? 朝宮さんが一人で吹くことになると言ったら?」

「いや、朝宮さんは関係ない。俺が強引に誘ったんだよ」

「じゃあ竹居君、その責任を取ってやってくれるわね? これから特別に水曜日だけじゃなくて毎日、音楽室使わせてあげるから」



 うううう。

 まんまと誘導されたような気がする。



「竹居君、私も手伝うから一緒にやりましょう?」

「えっ、朝宮さんやるつもりなの? あと二ヶ月もないよ?」

「お手伝いくらいはできるかなって。無理ですか?」



 朝宮さん妙に前向きだな。

 まあ、どうやら逃げられそうにないし。

 全然気が進まないけど……。



「はあ。分かりました。一曲だけでもよいですか?」

「おっけ。じゃあ、決まりね。それに助っ人も頼んでいるし三人でやってちょうだい。それにしても、朝宮さんと竹居君、入学式の時より随分表情が明るくなったわね」

「そ、そうですか?」



 なんだか大げさなことになってきた。

 だいたい、助っ人って誰だろう?


 朝宮さんは、また両手を胸の前でぐっと握っている。

 そして、俺の手を取った。



「じゃあ、竹居君。頑張りましょう!」

「あ、ああ」



 俺もつられて気合いを入れてしまった。

 なんだか二人に乗せられた気がする。



 まずは、選曲だな。

 助っ人も今日から来ると言うし……一体誰だ。

 先生の口ぶりからすると、どうも俺の知っている人みたいだけど——。

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