第7話 ゴールデンウイークとお嬢様とお泊まり(2)

 ホテルの一階は駐車場になっていた。

 エントランスと書いてある方向に向かう。


 すると、料金が書かれた看板があり、そこには「休憩」「宿泊」とある。

 休憩?


 すると入り口らしきところに部屋の様子が映されたパネルが並んでいて、それぞれにボタンがある。

 そのうち、一つだけ点灯していた。

 多分、その部屋だけ空いているようだ。

 選択肢はない。

 番号は501。

 俺はその部屋のボタンを押し、二人でエレベータに乗った。


 んん?

 そういえばフロントって何階だ?

 エレベーターの案内には、「駐車場」「客室」とあるだけ。



「フロントが無いね」

「はい。部屋は501でしたね。五階でしょうけど、もう行ってもいいのでしょうか?」



 うーん。とりあえず部屋に行けば何かわかるだろうと思い、五階のボタンを押す。



「あ、部屋の番号がチカチカしています」



 五階に行くと、案内するように光っているところがあった。

 俺たちは恐る恐る前に進む。



「501号室はここですね」 



 俺がドアを引くと、あっけなく開く。

 スリッパも用意されていて……入ってもいいっぽい。

 足を踏み入れると、バタン、とドアが閉まる音がする。



「……本館は自動精算システムになっております。お帰りの際は……」

「わっ!」



 何かお金を入れるような機械から、音声のアナウンスがある。

 すごい。ハイテクだ!

 朝宮さんもビックリしている。



「すごいですね……。こういうところ初めてです」

「うん、俺も」

「ふふ……竹居君と一緒ならだからでしょうか? ちょっと楽しいです」



 朝宮さんがにっこりとする。

 俺もふう、と息をついた。


 とりあえず、宿泊場所が見つかったこと。

 他の人がいないところでゆっくりできそうなこと。

 色んな不安が一気に溶けてしまった。

 朝宮さんも同じ気持ちなのだろう。


 部屋は、思っていたホテルのものと随分違う。

 広く大きなテレビがあるのは別にいい。

 テーブルや椅子はとてもキレイで清潔そうだ。

 でも、スロット? のような遊ぶものもあるし、壁に描かれている絵はメルヘンチックで可愛らしい。


 さらに……。

 俺と朝宮さんが同時に声を上げた。



「ベッド大きい!」



 布団派ふかふかそうで、四方に柱があって、ベッドだけでちょっとした部屋みたいだ。

 そして天蓋てんがいまである。

 天蓋から布が床まで伸びていて……めちゃめちゃ豪華に見えた。貴族か?

 今まで俺が泊まったことのあるホテルや旅館と随分様子が違うけど……一体……ここは……?

 


「ベッド大きいですね。私なら横に五人くらい寝られそう」



 朝宮さんの例え方がかわいい。



「枕が二つあるから、ダブルルームかな?」

「クッションもあります。多分そうですね」



 それにしては、妙におしゃれというか可愛らしいく、豪華な部屋の様子が気になる。



「とりあえず……お風呂入りたいです」



 心臓が口から飛び出すかと思った。



「お、お風呂……この部屋で大丈夫?」

「はい。もうどこも空いてないかもしれませんし。竹居君はいやじゃなければ……私はどこでも」

「結構綺麗だし、俺は大丈夫」

「じゃあ、ここでお願いします」



 なんてことだ。

 めっちゃドキドキするんだけど……。

 朝宮さんも気持ち頬が赤い気がする。


 とりあえず、お風呂は朝宮さんに先に入って貰うことにした。

 お金持ちが着るような白いガウンもあり、タオルなどを用意して朝宮さんがバスルームに入る。


 ふう、と俺はベッドに腰掛けた。


 いろいろと疑問に思ったので姉に電話して聞いてみると……ここはラブホテルというものらしい。

 ララララブホテルゥ?

 う、嘘でしょ?

 それって、伝説の……恋人たちがあんなことやこんなことをするって言う……。

 ちなみに、姉には変なことをしないようにと釘を刺されてしまった。



 しばらくして、バスルームからシャーっていうシャワーの音が聞こえてくる。


 ああ、今朝宮さんは、服を脱いで裸になって——。シャワーを浴びて。

 妙な想像をしそうになったので、俺は首をぶんぶんと振って邪念を払った。


 ひとつしかないベッドのことのことを考えよう。

 一緒に同じ布団で眠るというのは、朝宮さんが嫌がるかも知れないし、俺を怖いと思ったりするかもしれない。


 今日は色々あったし、ゆっくりして欲しい。

 だとしたら、できるだけ離れて寝るか、もしくは椅子を並べて寝るか……?

 思考がぐるぐると回った。



 そして、しばらくすると。


 静かになってさらにしばらくして——。

 タオルで頭を巻いた朝宮さんがひょっこり顔をバスルームの方から出した。

 白いもふもふのガウンを着ている。


 上がったんだ……。

 いつもと髪の様子が違う朝宮さんは新鮮だ。



「竹居君、ドライヤー時間かかるから……もうお風呂に入れますよ」

「う……うん。わかった」

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