第14話 お嬢様と俺の誓いと告白
俺の気持ちははっきりとしている。
彼女と一緒にいたいし……何より力になりたい。
それに、彼女が他の男と一緒にいるなんて……。
「あのさ、朝宮さん」
「はい」
「未来のことなんか、分からないと思わない?」
これは姉さんの受け売りだ。
「いいえ……決まっている場合も……」
「じゃあさ、変えればいい。一番、良いと思う選択をして、それを繰り返して。せっかく我儘を言うのならその方がいいと思わない?」
「良いと思う選択……ですか?」
「うん」
俺は、顔を離して朝宮さんの両肩を掴む。
彼女の瞳はやや潤んでいて、俺を見つめてくる。
「俺は、春に朝宮さんに合わなかったら、今ここにいないだろうし、そもそも楽器さえ吹いていないだろうし、本当の楽しさを感じられなかったかもしれない。全部さ、朝宮さんが行動した結果だよ?」
「そんな……私は、ただ……竹居君の音を聞きたくて……そう考えていたら思わず——。うまくいったのは全部竹居君のおかげです」
「ううん。朝宮さん、君がきっかけを作ってくれたんだ」
「そんな良いものではありません。私は……私のために行動しただけです」
そういうことってあるよな。
物事のきっかけはいつも誰かの行動だ。
「最初は、でしょ? その結果がうまくいって……色々良い方向に変わった。将来って、そんなもんじゃないのかな?」
「でも……もし、うまくいかなかったら……」
「うまくいかない可能性はある。でも、良い選択をしていって積み重ねていけば、それができていれば、後悔は少ないと俺は思う」
「…………はい」
後悔はだいたい、行動しなかったことに対してすることが多いと多う。
そりゃ「なんであんなことしちゃったんだろう?」と思う事はあるけど。
実際は仕方ないかと諦めて何も行動しない、できないことが多い。
「もし、春に俺たちが出会わなかったら……とても怖いことだと思わない?」
俺がそう言うと、朝宮さんはその「もしも」を考えたみたいだ。
彼女は身震いをして、両手で自分自身を抱え、顔が真っ青になった。
「とても……怖くて……嫌だと思いました」
「そうならなかったのは、朝宮さんが行動した結果なんじゃないかな?」
「…………そうかもしれません」
俺は、朝宮さんの瞳から少しこぼれた涙を親指で拭った。
彼女の目を見つめ、力を込めて言う。
「少なくとも、俺は朝宮さんの行動のおかげで今がある。俺は胸張って言えるよ
——朝宮さん。君に出会えて、良かったのだと」
「そんな……」
「俺は、心からそう思う」
「そんな……私なんて……。でも、そう思ってくださるのなら……。ずっと竹居君の……あなたの音を聞いていられるなら良い結果……ですね。私の願いが一つ叶いました」
ああ……。
その泣きそうで……でも微笑んでいる朝宮さんの表情を見て、改めて俺は彼女が好きなのだと実感する。
俺は彼女を抱きよせる。
彼女が拒絶しないことを確かめながら。
俺はしばらく無言で、彼女の存在を——温もりを感じいる。
「だったら、好きな人のことも、ひょっとしたら結婚のことも。我が儘を言ってもいいんじゃない? 一番良い選択をこれからもしていけば、いつか良い結果に繋がるかも知れない。少なくとも、俺はそう信じている」
俺が少しでも力になれれば。
力を分けてあげられたら。
体温が伝わることで、その思いを分かって貰えたらと思い、朝宮さんの背中に回した腕に力を込める。
すると、朝宮さんは震える手で、俺の首に手を回してくれた。
「分かりました。そうすると、やはり母ですね。母としっかり話してみる必要があります」
「朝宮さんのお母さんか」
「はい。とても厳しい人です。私には少々無関心なのかもしれませんが」
つまり、彼女の前の障害を取り除くには、お母さんと対決しなければいけないわけか。
でもまぁ、しょうがない。
もうとっくに腹をくくったんだ。
「じゃあ、朝宮さんのお母さんと会って話してみよう」
「えっ……。そ、それは……」
「難しい?」
「忙しい人ですので……でも、そうですね。折を見て連絡をとってみます」
「なにかきっかけがあるといいんだけどね」
「そうですね。でも…………どうして、竹居君は私のために……そこまでしていただけるのですか?」
再び抱擁を解き、朝宮さんは俺を見つめると、にっこりと微笑んだ。
そうだな。
もっともな疑問だ。
ここで、はっきりさせておこう。
本当はこの気持ちは封じるつもりだったけど。
伝えよう。
これが……俺にとっての誓いとなるように。
「俺は、朝宮さんの力になりたいと思っている。朝宮さんの前にある問題を、一つでも片付けることができたら……自由に生きられる道を探すことができたらいいなって」
「そ、そんな……私のためになんて、嬉しすぎます」
彼女は両頬に手をやった。
その一つ一つの表情と仕草が、可愛いと思う。
「そしてとても……とても竹居君に悪いと思ってしまいます」
「ううん。悪いだなんて思う必要は無い。俺が、そうしたいと思うんだ。俺の我儘だよ。それに、俺がそう思う理由はちゃんとある」
「理由ですか……?」
「うん」
朝宮さんは、真剣な表情で俺を見つめた。
言うとしたら、伝えるとしたら……今しかない。
「……!」
何かを察し、彼女が首を横に振ろうとしているのを感じたが、俺はもう止まれなかった。
「俺は、朝宮さんのことが——」
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