第4章 お嬢様と夏休み

第1話 お嬢様と夏休みと計画


 学習発表会の翌週。

 振替休日のあとのクラスは、俺たちにとって変化があった。



「竹居君、おはよ」

「学習発表会の演奏すごかったよ」

「竹居君、すごかったね。サックスやってたなんて知らなかった!」

「ねえ、テレビに出てたって聞いたんだけどホント?」



 クラスの女子たちからやたら話しかけられる。

 男子は男子で——。



「なあ、竹居。朝宮さんの隣にいた子なんだけど……」

「てかどうやって朝宮さんと仲良くなったんだ?」



 俺はクラスの男たちから質問攻めにされた。

 朝宮さんも同じように、何人かから話しかけられている。



 一方朝宮さんも何人か女子に囲まれている。



「朝宮さん、カッコよかったよ。最後の一人で吹いたところ、私泣いちゃった」

「ありがとうございます。でも私失敗もありましたし、竹居君や暁星さんのおかげなんです」

「失敗なんて全然分かんなかったよ!」





 どうやら朝宮さんも質問攻めにされているようだ。

 クラスの女子たちに笑顔で受け答えをしているし、時々照れて頬を赤くしている。

 今まで見られなかった光景だ。


 そんな調子で、一躍クラスのカーストトップになったような変な気分になる。

 うーん。

 ちょっとむずがゆいな。



「竹居さぁ。あんな演奏やってくれるとは驚いたよ。特に前に出た時は鳥肌が立ったぞ」

「へいへい。お世辞はいいから」



 昼河もやたら俺を褒めてくれた。


 しかし、少し心配なこともあった。

 何人か男子が欠席しているのだ。

 休んでいるのはいずれも夜叉の取り巻きだった。


 一方、夜叉は登校してきていたが——。



「あの、夜叉さん、私どもの夕凪がよろしくと伝えてくださいと言っておりましたが、お知り合いなのですか?」

「ゆ……夕凪……。ひ……ひぃぃぃぃ……ちょっとトイレ行って……きます」



 なんだか様子が変だった。

 朝宮さんが話しかけただけで、異常に怖がっている。


 まあ、いろいろあったのだろう。

 何があったのかは、知りたくもないけど。


 俺は朝宮さんに危害が加えらない限り、関わらないことに決めた。

 一方の朝宮さんは、前は夜叉を怖がっていたのにすっかり克服したみたいだ。



 全てがうまく行っている。

 俺はそう感じていた。



 ホームルーム後、俺と朝宮さんは担任の暮羽先生に残ってと言われた。

 何やら話があるらしい。



「十一月の文化祭のことなんだけど、もちろんサックスアンサンブルやるわよね? 朝宮さんのリベンジで」

「はあ、もう今さら反対はしません」

「私も是非頑張りたいと思います」

「良い返事ね。言いたいのはそれだけ。意識しておけば夏休みから練習できるでしょ?」



 暮羽先生は胸を張った。



「じゃあ、選曲決まったら一応教えて頂戴」

「分かりました。ちなみに、暁星は参加するのですか?」

「うーん、実は他校の生徒の参加はあまり良くないみたいで、前回の本番で私が注意を受けたのよね。だけど……本人も参加を希望しているみたいだし……まあなんとかするわ」

「分かりました。じゃ、一応三人で考えておけばいいですね」

「そうね」

「よかった……」



 ん?



「朝宮さんは暁星と演奏したいの?」

「そうですね。いろいろ教わりましたし。練習するの楽しかったのでまた一緒したいなと」

「へぇ。じゃあ、俺はあんまりいらなかったり?」



 なんとなく悔しくてちょっと意地悪なことを言ってしまった。



「とんでもありません! 竹居君と……一緒なのが前提……です」

「ごめん、あまりに朝宮さんが暁星を好きそうだったので」

「はい。暁星さんとも是非仲良くなれればと思っています。でも——」



 負けませんけどね。

 と、小さな声が聞こえた。

 互いに切磋琢磨できるような関係なのはいいと思う。



「それで、曲はやっぱり……」



 朝宮さんがどうしてもマイ・ラブをやりたそうだった。

 じゃあ、一つだけ条件を付ける。



「朝宮さんがメインでソロやって」

「え? 私がですか?」

「うん。俺が全く同じリズムでハモりするから。それをお母さんに聞きに来てもらおう」



 そう言うと、朝宮さんは少し考えて、



「…………考えさせてください」



 と言った。

 朝宮さんのお母さんが、演奏を聞いたところで何か変わるとは思えない。

 でも、今頑張ってる姿を見てもらえたら、何か突破口でも見えてこないか?

 俺はそう考えた。

 






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