第6話 お嬢様と夏休みと花火大会(1)


「あーめっちゃ緊張した!」



 暁星が俺たちのところに帰ってきた。



「暁星さん、すっっっっごく、素敵でした。感動しました」



 目に涙を浮かべた朝宮さんが、暁星の手を取っていった。

 ん?

 周囲に彼女ら二人を見る人だかりができている。



「暁星、朝宮さんこっちへ」



 俺は二人を引っ張るようにして、人が少ないところ……ステージの裏の小さな駐車場にやってきた。

 ふう。大変だな。

 昼河が逃げた理由がようやく分かった。



「あ、宵谷先輩」



 俺たちのところに、一人やってきた。

 さっき暁星に声をかけた人物だ。

 彼は俺たちをじっくり見つめた。



「暁星さん、急なお願い聞いてくれてありがとう。最悪ホーンセクション無しを覚悟したけど、やっぱりあってよかった」

「いえ、私もお力になれて良かったです」

「うん。またお願いしたいくらいだよ。えっと、それでこの人たちは……?」

 


 暁星は俺と朝宮さんを簡単に紹介した。俺は幼馴染み、朝宮さんはその友人ということになった。



「ふうんん。二人とも、サックスをするの?」

「え、どうしてそう思ったんですか?」

「二人とも、親指にサックスたこらしきものが見えますよ。お二人とも小さいですが分かりますし、特に朝宮さんの指はまっすぐで綺麗な分、タコが分かりやすい」



 よく見てるなぁ。

 まあ隠す理由はないか。



「まあ、そうですけど……」

「なるほどね。あなた方、僕たちの暁星さんを独り占めにして……何をしているのですか?」

「僕たち? 独り占めって……。そういうわけじゃないんだけどな」

「そもそも他の高校の者が入ってコンクールに出るなんて、ルール違反では?」

「いや。うちにには吹奏楽部はなくて……」

「はぁ?」

「先輩、二人を責めるのはやめてください。あたしの意思で、タクヤ達に協力させて貰ってるんで」



 俺たちの話を聞いていた朝宮さんがまた行動を開始する前に、暁星が前に出る。



「そうなのか? 僕はてっきり——」

「そういうわけだ。俺も伝聞に過ぎないが、そっちの吹奏楽部に問題が無いとは言わせないぞ」



 俺も加勢する。

 同時に、問題を解決しろという意味も込めて言った。



「そ……そりゃ……確かにそうだな……。事情も知らずに、すまなかった」

「いえ、分かって頂ければ問題ありません」

「それはそうと——君たちは、つきあっているのか?」



 宵谷先輩は、俺と暁星に目配せして言った。

 だが、それに答えたのはなぜか——



「いえ、付き合っているわけではありません!」



 朝宮さんがいち早く答えてしまった。

 えっと、まだって。

 まだ……か。



「いや、朝宮さんでしたっけ? そうではなく、暁星さんと竹居さんのことを聞いたのだが……」

「えっ? あぁぁぁぁぁぁ」



 朝宮さん両手で顔を隠すように覆った。

 多分その下は真っ赤になっているのだろう。



「いや、俺たちは幼馴染みで」

「そうですね、タクヤとは幼馴染み……です」

「そうか。少し安心した。じゃあ、暁星さん、僕たちは特別鑑賞席をバンドの人数分予約しているんだけど、欠員のため一人分余っていてね。もしよかったら僕たちと一緒に花火を見て行かない? 吹奏楽部のこと、少し話そう。それに、急に参加してもらったお礼も兼ねているし」



 暁星は、俺と宵谷先輩を交互に見た。

 そして、ふう、と一息つき、答える。



「分かりました。ありがとうございます。タクヤ、ごめんけど……」

「分かった。また終わったら、連絡とって合流しよう」

「うん。じゃあ、ね。朝宮さんも」



 朝宮さんは顔を抑えて隠したまま、小さな声で「はい」と答えた。

 暁星は、宵谷先輩の後をついていく。



「あの、竹居君、お二人は言ってしまわれましたか?」

「うん。もういないよ」

「ありがとうございます」



 朝宮さんはようやく、両手を下ろし顔を見せた。

 まだ赤い。

 俺には隠さなくてもいいのか?



「あぁ。とても恥ずかしかったっですぅ」



 ぼそりと言う朝宮さん。

 彼女は俺の手を繫いできた。

 その時——。


 ドーン!

 うぉぉぉぉお!


 花火の音と、その歓声が上がった。

 次の瞬間、黒い空に明るい花火が開き、周囲がぱっと明るくなる。

 どうやら、花火大会開始の時間になったようだ。


 ここは、周囲に人通りが少なく周りには誰もいない。

 歓声だけが聞こえていた。



「始まってしまいましたね」

「そうだね。じゃあ、昼河たちのところに行こうか——」

「あの、竹居君」



 俺は朝宮さんの手を引き歩こうとした俺は、彼女に引っ張られ立ち止まった。



「ん? 朝宮さん——?」

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