第9話 ゴールデンウイークとお嬢様とお泊まり(4)
「あのね……竹居君に……」
「俺に?」
何かつっかえるように、朝宮さんの声が途切れる。
「言わないといけないことが……謝らないといけないことがあって」
前から気になっていた。
朝宮さんのこと。
俺と以前何かあったようだけど、まったく思い出せない。
忘れるくらいだから、きっと、たいしたことはないのだ。
「朝宮さんが謝るようなことは無いよ」
「いいえ、あるのです!」
「!?」
朝宮さんの腕が、俺の胸にに回されて抱き締められる形になった。
背中から、温もりが伝わってくる。
同時に、手の震えも。体の震えも。
朝宮さんが何を秘めているか分からない。
でも、今無理をしているのは分かる。
とても怖がっている。
だったら……。
「朝宮さん。俺は今、その、余裕がなくて……ちゃんと話を聞いてあげる自信が無い」
こんな、女の子に……しかも嫌いではない子に後ろから抱きつかれて、二人きりで。
何というか我慢というのとはちょっと違うのだけど、平静を装うのがかなりツラい状態になっていた。
「えっ?」
「そ、その、色々とすごいことになってて」
「すごいこと……?」
「そう。めっちゃすごいこと」
朝宮さんは全く要領を得ていないようだ。
まあ男の生理現象なんて分からないか。
でも、俺の言い方がおかしかったのか、くすっと笑ってくれた。
「すごいことですか?」
「うん」
深刻な空気がなくなって、ちょっと面白いというか笑えるような空気を感じた。
朝宮さんは、ふう、と息をつく。
「……竹居君の体、温かい」
「朝宮さん?」
「竹居君のそんな声、そんな姿……初めて聞きました。見ました。いつも自信を持って……かっこいいと思っていましたけど、ちょっと印象が変わりました」
「がっかりした?」
「いいえ。嬉しいです。竹居君の意外な一面を見られて」
朝宮さんの吐息が、首筋に触れてこそばゆい。
アレだよな……アニメとかラノベの主人公の男がこんな状況で平静を装ってるなんて……ファンタジーだよ絶対。
気付くと朝宮さんの腕の震えが止まっていた。
体の震えも。
落ち着いたのなら、よかった。
俺は朝宮さんの手——俺の胸に回されている——を握った。
ふう、と溜息をつくと、自然に俺の体の高まりも収まるようだった。
「竹居君……」
彼女がつぶやいたと思うと、俺の腕に頬を寄せた後、なんとそのまま頭に敷いてしまった。
これは……腕枕状態だ。
目の前に、俺の腕に乗った朝宮さんの顔がある。
ち、近い。近すぎる。
彼女の柔らかな頬の温もりを腕に感じる。
僅かに微笑んでいるようにも見える。
その表情に、俺の視線が吸い込まれていく。
「あっ」
朝宮さんが目を開けた。
起こしてしまったかな?
「腕枕……」
「あ、えーっと、朝宮さんこれは不可抗力っていうか」
「竹居君……腕枕って、温かくて幸せな気持ちになりますね」
「そ、そう? こうしていて平気?」
俺はドキドキしてそれどころじゃないけど。
朝宮さんの小さい頭は軽く……頭から伝わる体温はここちいい。
温かくて幸せ、という気持ちが少し分かるような気がした。
「はい。このままで、ありがとうございます。今なら何でも言えそうな気がします」
「そ、そうなんだ」
「あの、私は——」
朝宮さんは、すっかり心が落ち着いたのか、ゆっくりと彼女自身の話を始めた。
どれもこれも初めて聞く話ばかりだった。
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